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ボクのモノガタリ  作者: ToMikan
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真っ白な形の恋

君は何を思って今僕に話しかけているのかだいたい想像はつくけど、その言葉一つ一つを聴けないのはもどかしい。

こんなにも僕を思っていくれていた人がいたなんて気づかなかったよ。

きっと君が呟いた言葉を聞いたら僕は顔をくしゃくしゃにしていただろう。

今更そんなこともできないのだけれども。






私は手紙を読む。時間をかけて用意したこの紙切れを今精一杯の気持ちであなたに伝えます。

「拝啓

私のことはもしかしたら覚えていないかもしれない。だけどもし覚えていなくても真剣に聞いてほしい。

私があなたを初めてみたのはもう遥か前、私は生まれてからずっといじめられていた。そして私自身もそのことを受け入れ私の人生を恨んでいた。毎日が楽しくなかった。私を産んで死んだ両親が恨めしかった。全てを子供から奪って死んでいった親が憎い。

そんな時に私はあなたから言われた一言で人生が変わった。忘れたなんて言わせない。私の全てを変えて気持ちを変えて、生きる意味を与えたんだから。そしてその時から今までずっとあなたのことを想ってきた。この気持ちはどこに持っていけばいいのか教えてください。

敬具」

                                                    


少女は紙を二つ折りにし、彼の懐に入れた。少女の手は微かに震えている。彼は静かに歩き続けるので、足並みを揃える。

そして独り言のように少女は続ける。


「そう、貴方がいたから私はあの時生きる意味を見つけた。生きる気力を貰った、貴方がいなければ今頃死んでいたかもしれない。」


そう、あのとき、、、、





「白髪頭、イエティ」

と私に平然と言ってのけるこいつらが嫌いだ。

こいつらは私と同じ立場になったとき今のように平然として生きていられるのだろうか。きっと出来ない。

私のように地面すれすれで生きていくしかこの世を渡るすべはないのだ。

生まれ持った個性だの特徴だのそんな馬鹿げたものなのか、これは人を人として扱えないようにした神からの残酷な贈り物だ。


そう私は髪に色がない。髪の毛、眉毛、まつげ、あらゆる体毛に色がない。色がないというより疑いようのない白なのだ。

私は生まれて間もない頃はこの髪の色を羨ましがられる事もあったし憧れの的でもあった。

自分で多少の自惚れのような考えをしたこともあった。

しかしそれもつかの間残酷な差別が始まった。

それも陰湿に。

全ても始まりは小学校の先生。入学式で私は心を踊らせこれからの明るい未来を信じて入学した。

何の疑いもなくただ生活していけるのだと。

教室は102号室、私はその扉を開けた。

扉は閉まりきっておりこの小さな手で精一杯の力を込めて開ける。

すでに他の生徒は席に着きこれから始まるであろう授業の準備に勤しんでいる。

私も同じように席に着き授業の支度を始めた。


初めての授業だ、実はこれまで勉強というものに興味を持っていただけに少しワクワクしている。

しかしこの時間は教科の授業ではなくレクレーションから始まるようだった。


「今日はみなさん同士が仲良くなってもらうためにまずは自己紹介から始めます

自由になんでも紹介してね」


すると一人一人が威勢の良い声で自己紹介を始める。

自分の名前、好きな食べ物、好きなスポーツなんかだ。

まだまだ狭い世界しか見てきていない年頃なので偏りが見られるが大人から見ると微笑ましいものだ。

次々と発表が終わり私の番が回ってきた。


「えっと、、私の名前は、、、」

と言おうとした時に周りがざわめきだすのがわかった。

それは今までも経験してきたことだ。

名前を言うタイミングを失ったので次に移る。

「好きな食べ物はみかん、好きな動物は猫です」

よろしくお願いしますとぺこりと頭を下げて座った。


するとせんせいが私の説明をし始めた。

先生が話し始めると一斉に周囲が静かになる。


「みんな気づいてるかもしれないけれどこの子は見ても通り髪の色が真っ白です。

彼女は病気を持っていて難しい言葉でいうとせんてんせいはくひしょうって言う名前の病気を持っています」


ごめんもう一回立ってもらっていいかな。

私は視線を送られあたふたと立つ。


「他にもアルビノっていう呼び方もあります。彼女の髪は生まれつきからこの色で確かにみんなとは違うけれど

髪の色が違うからっていってもそれ以外はみんなと同じだからみんな仲良く接してあげてね」


はーい。と一斉にみんなが声を出す。


私はどんな顔をして立っていれば良いのだろうか。

私はこの先生に異端であると宣言されたのだ。

確実に上から目線で見下していた。先生は無意識であろう。しかしその親切心は私の心をひどく傷つけることになった。

余計なことを言わなきゃよかったのに。


私は異端だ。


私はこの歳で人と違う部分を指摘されたんだ。

私の人生が急降下しているのを感じた気がした。


同じクラスの生徒からは特別扱いされるようになった。

私は本当に心を開いて友達と関わりたかったのだがそれは結局できなかった。。あの先生の宣言以来私は近づけない存在になってしまっていた。

私だって普通の人間だ。そう、あのせんせいが言ったように。しかしそのことを宣言されてしまってはまた意味が変わってしまう。無駄口を叩いた先生を今でも恨んでいる。


そのあとほとんど何も変わらない生活が待っていた。特別仲良くなる子もおらず何かイベントがない限りは常時1人だ。

それが私にとってあまりにも当たり前のことだったので人間の本質というものがわからなくなっていた。

人は助け合うものなのに。


家に帰っても家族はいない。いるのは家政婦と雌の三毛猫のナナだけだ。

家政婦は私のことを何不自由なくさせないために世話をしてくれたが特別思い入れもなく、仕事を淡々とこなしている様子だった。私自身も特別干渉しないように常に若干の距離感を保っていた。

この家政婦は生前生きていた両親の遺産を使って親族が依頼したものだ。

ナナは私のたった1人の友達だった。いや、家族だ。私には家族が1人だけいたのだ。

きっとナナは私の気持ちが分かるとても賢い猫だ。

私が悲しい時、涙を流して帰ってきた時、ナナは頬を私に優しく触れさせて慰めてくれる。

ナナは私のことを知っているのだろうか。私の正体を。

いや、ナナはこの私のことなんか人間の事情なんか分かるはずがない。

むしろそれがありがたかったし心を許せる要因であった。


ある日私は私の正体が何なのか知りたくなった。

私のことだ、全て受け入れる覚悟で私の病気のこと、これから待ち受けているであろう人生を調べに図書館に足を向けた。


あ、あ、ある、び


あ、あった。きっとこの本だ。私の幼少期に似た写真が表紙に印刷してある。

私はそのわずか厚さ2センチほどの本を脇に挟みカウンターへ行きその本を借りた。

カウンターの人がやたらと対応が良かったのは今思えば心許ないことだ。


家へ帰り、ナナとともにその本の頁をめくる。

私はすでに読み書きはできる方だ。もっとも小学生程度でのという話なので意味を理解するにはあまりにも難しい本だったのだが。

意味のわからない頁をめくりめくった。そこに目を伏せたくなる写真が存在していた。

小学生でも異常なのだと理解できる。

しかし私の運命から目を背けたくないという思いから再びその頁に目を移す。

黒人の少年数人が、ひとりの白人女性を囲んで槍を突きつけている。

しかしその白人女性は肌は白いものの顔つきはアフリカ系の顔であり、髪は真っ白でパーマのかかったような髪だ。

私は必死に食い入るようにして文章の理解に努めるがやはり理解出来ない。しかしそこに一文、


アルビノの人の一部を煮出してから使用される。


と書いてあった。この写真から推測するにこの黒人少年達は白人女性を食べるためにこの女性を攻撃しているのではないかと頭の中を巡らせる。


人を食べる、、?


人が人を食べるなんて考えたこともなかった。

なぜ食べるのか、どうしてそんなことをするのか全く理解ができない。

結局後々わかったことは、アルビノを持って生まれた人は神聖な力を持ったものとされ、その体の一部をお守りとして高値で売られたり、薬にして呪術医という医者から殺害されていたということが分かった。

またアルビノを持った人と性行為をすることで性病が治るとされる地域もあり、レイプ被害が深刻化したという事だった。

その本に出会って以来、私はいつか人に殺されるのだと信じてしまい完全に心を閉ざした。

今考えれば全くの勘違いなのだが、たかが10歳程度の子供が知ってしまう真実としてはあまりにも辛いものだった。


そんなこともあり、心を頑なに閉ざしたまま高校生にまでなってしまった。恋愛など一度もしたことがない。

恋愛感情などというものは持ち合わせていないものだと思っていた。

しかし高校生になり人生が変わる。

そう、彼との出会い。






ここで私は頭の中で今までの人生を整理していたのだと気づく。無意識に。しかし足は止めずに彼に合わせ歩いている。


さあ、さっきの続きを想い巡らせよう、彼との出会い。





時は文化祭。年に一度だ。私はすでに高校生活を全うしようとしていた。高校3年生だ。

文化祭はこの秋の時期に開かれる、それは大学に行くもの、就活に勤しむものがある程度の落ち着きを見せ始める時期だからだ。


「では私たちのクラスでの出し物はビデオ作成ということでいいですか。」

クラスでの出し物を話し合うのだ。多数決でビデオを作成するということに決まった。

ビデオを作成すれば文化祭当日は皆それぞれのしたいことが自由にできるからだ。

文化祭の目玉は勿論各クラスが出店するポテトや唐揚げ、飲み物など飲食物だ。

そこに人だかりだでき、皆それぞれの仲の良いもの同士で話し合う。意味のない話ができなくなるのは社会に出てからだろう。

話し合うものはある程度は前日までには決まっている。要するに友達もおらずに誘う相手がいない私は一人孤独にそのいちにちをすごすことになる。

まあ今更その程度なんでもないのだが。


そう思っていた。



今クラスがそわそわとし始めている。

ビデオに誰が参加するかという話し合いが始まったからだ。クラス委員長は皆の前に立ち参加を促しているが一向に人員が集まらない。

そこでひとり手を挙げた。その手は微かに震えている。

みんなが視線を向ける先には君がいた。

君のことを知らないわけではなかったが、クラスのみんなは私以外の誰かであり、私ではないのでどうでも良い。特段その時は何とも思わなかった。


しかし君は手をあげるだけでなく付け足してこういう。

「ぼくはビデオ撮影係をしたい、そしてそれはそこの君と撮影することが条件です」

なんかくさいこと言ってるなと思った。

誰と誰が交際しているなんて私は知らない。私にはそのようなことが入ってくる情報網が皆無だった。

しかしふと君をみて頭がおかしくなりそうだった。

君は私のことをしっかりとみて君と言っていたのだ。

君と私が結びつかない。ビデオを撮られるのが私?

何かの間違いかと周りを見渡したが皆私に視線を送っている。確信した。私はいま人生でもっとも死にそうだ。

確かに体が熱くなり苦しくなる。首が締まっているようだ。

私は勿論何も言えない。言葉が出るはずない。

そんな私をみて生徒会長はニヤリとした。

「では、ビデオに映る人はその案でいいと思う人は手を挙げてください。」

全員一致。手が挙がった。

私は生徒会長を睨んだが全く気にしていない様子だった。


どういう風の吹き回しか理解できない。

まず、彼はなぜ私を指名したのだろうか。

全く理解できない。


放課後放心状態の私のところに彼は寄ってきた。

「ごめん無理言って。どうしても君とビデオが撮りたかったんだ。」

と、言われるもののその理由を私は知らない。

私は不思議な顔をしていたのだろう、それを彼は察したようにして言う。

「んー、なんでかって言われたらそれは難しいな、それはいずれ話すことにするよ」

そして彼は付け足す。

「うまく言えないけれど僕は君のその髪の色を見て使命感を感じたんだ。もう2年以上前のことだけどね。」


彼は運命だと言った。運命、、、

これは告白なのだろうか。


私は飛び出てしまいそうな心臓の音をどうすることもできずにいた。


「だから僕と一緒に動画を作ってくれないか。

おそらく、あのクラスの様子だとメンバーは2人だけになってしまうと思うのだけど」


初めて必要とされた。個人指名。これは過去もこれからもこの時だけだった。


そしてこれが生きる意味となった。たった今。

私に初めて生きる意味を与えた人。

きっと貴方はそこまで大したことは言ってないと思ってるのかもしれないけれど、私にとっては人生で初めてだったの。

心を鷲掴みにしてここまで信用したいと思った人は。

今まで信用をして来なすぎていたがためにここまでの信用を寄せてしまっている自分が不思議でならなかった。


私は返事はしなかったものの彼は承知したと思ったらしい。2日後に再び私のところへ来た。


「あの、、ビデオの打ち合わせなんだけど」

わたしはうん、と頷く。

「映画を撮りたいと思ってるんだ。話の内容は僕たちのオリジナルでどうかな。」

戸惑ったがまた再び頷く。

彼は満足そうによしと呟くと何処かへ行ってしまう。


その後何度か打ち合わせを行い、内容が決定した。

肝心な撮影だが、1人でも出演というのはあんまりだということで彼も出演するという。

カメラを交代しながらの2人出演映画という何とも学生らしいというか、らしくないというかあまりにも特殊な映画ができる予感がしていた。




撮影を終えた。

わたしにはこんなことが出来たんだ。

わたしの髪の毛の色は役に立ったんだとひしひしと感じ嬉しくなった。

このあと動画を彼が編集してくれるそうだ。

もしこの編集がうまくいなくても私はすでに満足だ。

こんなこと恥ずかしかったし慣れていなかった、それ以前に誰かと話すことが久しぶりだった。しかしやり遂げた。

自分の中で自信が芽生え始めていた。




映画の題名は、、、、、まだない。

題名をつけるほどの映画でもないのかもしれない。

しかし、内容はわたしの人生そのものだった。

孤独で過ごすわたし。小学生の時に私が異端だということを気付かされたこと。図書館で知った私の病気のこと。そして猫への愛情。

——— 最後に彼との出会い。



映画の全てが私自身の自己紹介であり私の全てだった。あまりにも薄っぺらい人生のようだけど誰も経験してない珍しい経験。


彼はそんな人生を歩んできた私のことが気になっていたのだという。

彼は結局撮影に途中に私を指名した理由を教えてくれた。


彼の父は盲目で目が見えなかったという。

彼の母が彼を生んだ次の年に交通事故で視力を完全に失った。

彼の父はこれまで不自由した生活はしてきておらず五感を持つ健全者な男だった。

そこに急に襲った運命。彼の父は絶望し泣いた。

彼の父は常に言っていたという、目が見えなくても自由に動けるようになりたい。僕は誰にも迷惑をかけたくないのに、、、と。


烏滸がましい運命を受け入れることはできずに彼の父は自殺した。家族に迷惑をかけるのがあまりにも心に負担を与え、彼を責め立てていたのだという。


彼の父が死に、途方に暮れながらも彼は高校に入学。

そんな運命、不条理な運命を背負った個体、父のような存在を近くに感じ見た先に私がいたのだという。


なんとか自分にできることはないのかと自問自答を繰り返したが経験の浅さも手伝い答えが出ることはなかった。

事実、私は誰の手助けも必要とはしていなかったのだから間違ってはいなかったのだと思う。

そしてその2年後文化祭でビデオ作成をするということが決まった。彼はその時に使命を感じた。2年前の思いをここで行動にしなければ後悔する、、。

そして彼は震える手を挙げ撮影係を立候補したのである。私を犠牲にして。



「ねえナナ私自身ないよ上手くビデオに映れてたのかな」

私はナナの前だけでは弱気になれる。


大丈夫だよ、君が強いのは僕が一番知ってる。どんな辛い仕打ちにだって耐えてきたじゃないか。


ナナはいつものように頬を私に寄せてくれる。

この仕草に私がどれだけ助けられたのだろう。


「ナナは優しいね、これからも私だけには味方でいてね」


もちろんさ。

ナナはにゃーと鳴いた。







文化祭当日、ガヤガヤと今日に限り、かなり学校が騒がしくなる。


年に一度だ、地域の人も承諾を得てのことだろう。

予定通り映画はクラスの教室で上映される。

15分の短編の映画を永遠とリピートするらしい。

以前では考えられないことだがなぜかいまは平気でいられた。彼の存在のおかげなのだと思う。



私はもちろん一人だ。一人でなければ冷静でいられなくだろう。

意外と何も起こらず難なく1日を終えることが出来た。

と、ホッとしていた矢先の放課後。


彼は再び私の前へ現れた。


「1つ、お願いしたいことがあるんだ」


私は少し身構えるがこの感じどこかで感じたことがある安心感、、。


私は弛緩した。


そうか、私は彼をすでに信用してしまっているのだ。

彼に身構える必要がなくなっているのだ。


「どうしたの」

声が出る。声を出すのは彼とナナにだけだ。


「これからも僕と友達で居てくれませんか」


私としては考えてもいなかったことだが今では堂々と顔を縦に振れる。


「そっか、良かったよ、君とは今日限りで終わりそうな気がしてたんだ。ビデオ作成班以外ではあまりにも繋がりが弱いからね」


確かに私は意味もなく人とは関わらない。意味があっても極力関わらないのは生まれてからの性分だ。

自分でも気づかなかったが顔が紅潮しているのを察してのことだろう。

彼は「あ、いやいや、やましい気はないからね。

単純に君との繋がりを断つのがあまりにも勿体ない気がしたんだ」


素直に嬉しくなった。心から。

私はこれまでここまで信頼を寄せた人物はいなかった。そう両親からの愛情が皆無なのだから仕方ないのかもしれない。初めて味合うこの信頼は私にとってかけがえのないものになる。そう確信した。


しかし彼はその後大学へ入学して以来、そして今まで一度も顔を合わせることはなかった。








彼はどこへ向かい歩いているのだろう。

私は彼に歩速を合わせるがそれは一定で鈍足だ。


彼は歩いてはいるが足は動いていない。

正確に言えば歩いていない。ただ音を立て動いている。彼をまとったこの車椅子。

この椅子がただただ等速運動を繰り返す。


車椅子の端に私はリュックから取り出した薔薇を添えた。

あなたの行く末を見てみたい。気になって仕方がない。しかしここでやめておこうと思います。

君は次なる人の場所へ向かうのでしょう。

君なりの想いがあるのでしょう。君は私だけと関わったわけじゃない。君の自由にするんだ。


もっとも君に判断することができればの話だが。




私はあなたへの想いを私の中に留めておきます。

いつか溢れ出るかもしれない。その時はまた会いに来ます。

もう会えないかもしれないけれど。



私を少しだけでも愛してくれてありがとう。

いや、彼は私を愛してなんかいなかった。

しかし今はそう言うことにしておいてはくれないか。私の気持ちを君は鷲掴みにして置き去っていったんだ。

その資格は私にはないのだろうか。



私はリュックから折り畳み傘を取り出す。

傘を広げ彼の頭上に固定する。

雨が降ったらいけないから。


貴方が目指す場所に行けないといけないから。




私はなぜか溢れ出る涙を地面にこぼし、彼の元を去る。




私の病、全てを愛してくれてありがとう。





白い髪の毛はひらりと舞い、彼の掌へと落ちた。

微かに彼は掌を握った気がした。



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