9 動けよ世界
ここは人間界最後の砦。勇者召喚の儀式が行われる城。
龍之介たちが異世界で初めて訪れた場所だ。
そこでは王様と大臣が話をしていた。
「遂に魔王軍幹部が倒された。報告が多数来ている。数百年変わらなかった均衡が、今、崩れようとしている!!」
大声で話した後、王は咳き込む。
「大丈夫ですか王、水です。所で一つ心配なことがあるのですがーー」
魔王城中央部。そこは魔王軍幹部が日夜会議をしていた。
最も魔物なだけあって協調性はなく、常に誰かしらは欠けているのだが。
「定期連絡の前に話がある。魔物使いアーニーとの連絡が途絶えた。誰か心当たりのあるものは?」
魔王軍幹部の一人、スーツを着たいかにも側近のようなものが言葉を発した。しかし、答えるものはいない。
「何でもいいのだぞ? 始まりの街へ行ってからあやつは常に連絡をしてきた。だが、もう三日もたつというのになんの情報もない」
「死んだじゃないのー?」
鞭を持った軽薄そうな女が冗談交りに答える。その答えを受け、スーツの男はプルプルと震え出す。
「彼女の言う通りだよ。僕たちの中で一番弱かったじゃんあいつ」
少年のような口調と格好の少女が相槌を打つ。
スーツの男は、「俺だけじゃないか、集まった幹部の中で男なのは」とか「お前少年と言うには見た目も年齢も無理があるだろ」という言葉をぐっと堪えて
「あやつがただで死ぬはずないであろう。そもそも幹部には強さの序列はほぼない」
と言った。
「そんなに言うならさ、あたしが行ってこようか? 始まりの街!」
チャラチャラしたイメージのネックレスを指で弄りながら鞭の女は提案する。
ふむ、とスーツの男は頷いてから
「では頼んだぞ。『拷問教』」
と言葉を締めた。
俺とロロはウキウキでギルドに向かっていた。いや本当はもうものスッゴい疲れていたんだけど、それでも魔王軍幹部を倒したし無理矢理にでもテンションを上げた。あ、でも俺たちが倒したって信じて貰えなかったらどうしよう。
そう思っていたのは杞憂だった。正確には信用するしないの問題じゃなかった。
ギルドに着いて、「信じられないかもだけど俺たち、魔王軍幹部を仕留めました」と報告した。
そしたらギルドの職員はしかめっ面をして返してきた。「その報告、本日だけで30件目です」