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拝啓異世界の皆様へ  作者: ポプラ
第一章 魔物使い
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7 悪意との遭遇

 バルトは不機嫌そうな顔をしながら俺たちを呼び止めた。


「お前ら、さっきの奴の話をどう思う?」

「どうって何だよ」

「そのままの意味だ。アーノルド、あいつは胡散臭い。きっと裏がある」


 俺としてはいきなりガキ呼ばわりしてきたこのおじさんよりアーノルドの方が信用できるんだけど。

 俺と同意見なのか珍しくロロが会話に参加した。 


「元リーダーを胡散臭い呼ばわりされて黙っている訳にはいかない。理由を聞いても?」

「ん? なんだいお嬢さん。あいつのことを知っているのか」

「理由を教えてくれたら答える」


 そう言われるとバルトは急に困ったように自分の頭に手をやった。そして少し悩むようなそぶりを見せた後答える。


「勘だよ。そこそこの間冒険者をやっていると分かるんだがあの男は昇級が早すぎる。Cランクと言えばベテランだぜ。俺よりも年下なのに怪しいだろ」

「それって妬みでは?」


 じとっとした目でロロはバルトを見つめる。

 ナイス突っ込みだ。もっと言ってやれ。という言葉を何とか飲み込んで俺は続きを促す。

 バルトは違うんだそうじゃないと言って何とか言葉を出そうとする。


「いや、例外だっているにはいる。賢者とか勇者とか才能のある奴はどんどん上のランクに上がるだろうよ。だが、あいつはどう考えても俺よりも弱いだろ」

「それだけじゃあまだ判断が付かない」


 ロロはほんのわずかにだが眉を寄せながら言った。

 お手上げだと言わんばかりにバルトが肩をすくめたので俺は会話を打ち切ろうと思った。


「結局具体的な証拠がないんじゃ話にならない。もう行こうぜロロ。さよならおじさん」

「さようならバルトさん」


 俺たちがもう出て行こうというとき、最後に一言だけバルトは残した。


「信じられないなら別に構わん。ただ一つだけ教えてやる。お前たちが連れて来たっていう役人の女、死んだらしいぜ」


 俺は任務で魔物を倒している間、ずっとバルトの言葉を考えていた。役人の女性が死んだなんて信じられない。

 ロロは気にする必要がないと言って受付から聞いた場所で適当に魔物を狩る。

 ドライ過ぎて俺から言う言葉はないよ。ロロさん少しクールすぎませんかね?

 馬鹿なことを考えながら気をまぎらわせる。変に考えすぎて魔物から目をそらすわけにはいかないしね。

 数時間たって俺たちは魔物を狩り尽くした。それはもう、元の世界だと市役所の人たちに怒られるぐらい。

 ロロも俺も満足げにうなずいて森から帰ろうとする。

 そのとき、聞こえた。


「フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」

『ッッ!!』


 男が、黒い服を着た男が現れた。背格好は俺と同じぐらい。そして声はおじさんというには少し若い。俺よりほんの少し年齢が上か。

 俺たち二人(と龍三体)に気づかれることなく無音で現れたその男は、じっと俺たちを見つめていた。


「……合図したら逃げよう」


 ロロが小声で俺に話しかける。


「大丈夫なのか? 相手は相当頭がおかしそうだぞ」

「フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ。ずいぶんと失礼なことを言うようじゃないか少年よ」


 俺たちの小声は相手に聞こえていたようだ。

 不意をついて逃げることはできなそうだ。俺はまず対話を試みる。もしかしたらただ声がうるさいだけの親切な人かもしれない。


「いきなり失礼なことをいってすみません。ちょっとこのへんは魔物が多くて警戒してたんですよハハハ」

「ふーむ、ほー、うむ」


 俺の返しを聞いているのかいないのか、男は妙に頷く。そして、いま、もっとも聞きたくなかった言葉を喋った。


「少年と、そして美しい少女もどきよ今からお前たちを殺そうーー」


 バッと男は黒いフードを引き剥がす。そこには男の身体がなかった。正確には()()()()()()()

 骨と骨を繋ぐ筋もない、それどころか喋る喉を動かす筋肉もない。なのに肋骨の隙間からは肺やよく分からない臓器が見える。胃腸もある。眼球もある。脳みそもある。まるで普通の人間。

 ただ、男には肉と呼べるものが無かった。

 人体模型のようで少し違う見た目はただひたすらに不気味だった。


「名を、聞いておこう」

「ロロ。魔法使い」

「おいっ、そんなペラペラ個人情報を__」


 途中で言葉を止めた。何故なら、ロロが今まで見たことないような怯えた表情をしていたから。もしかしたら、コイツは危機って奴なのかもしれない。俺の人生で最大の。


「俺の名はリュートだ」

「違う。本当の名を__」

「チッ! 俺は龍之介。柴田龍之介(しばたりゅうのすけ)だっ!! よく覚えておけ!!」


 偽名を見抜くとはなんと不気味な奴だろうか。

 俺は龍三体を呼び出す。ここまで本気になったのはいつ以来だろうか。

  もしかしたら処刑されそうになったとき以来かな。

  男は俺が龍を出したのを見てから名乗りをあげた。


「僕は魔王軍幹部が一人。魔物使いのアーニー。冥土の土産にするんだな。お前たちの精神へのな」


 俺たちは交戦を開始した。異世界にも冥土の概念があるんだなと思いつつ……。

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