6 街を守る冒険者
俺とロロは運命の赤い糸で結ばれた。
ただそれは、恋に関係するものというわけでない。
「なんで5メートル離れただけで引き寄せられるんだよ‼」
「こっちはプライバシーがなくて迷惑している」
俺たちは糸に繋がれたせい二人三脚とまではいかないがそれなりに近い距離で歩いている。離れようとしたら磁石みたいに強制的に引き寄せられるのだ。
この糸の厄介なところは他人からは見えないところだ。俺たちは動きづらくて苦労しているが他の人からは珍妙なダンスをしているとしか思われないだろう。
ああ、周りの視線が痛い…。
いたたまれなくなったのでロロに俺が泊まっている宿に帰ろうと提案した。承諾されたので俺たちは糸に引っ張られない絶妙な距離を保ちながら宿に帰った。
「もう、覚悟を決めよう。ね?」
宿に帰ってきてからロロは諦めたような顔をしてそんなことを言ってきた。
そんなんだから受付の女将さんは俺が女の子を連れてきたのも合わせて驚いた顔をしている。
「諦めようよ。受け入れれば楽だよ」
こ、こいつ、誤解を招くような言い方をしやがって。それに風呂とか着替えとかどうするつもりなんだ。
そういえばロロって凄い服を着ているな。
赤、青、黒の三色の布を合わせた服を着ている。めっちゃ派手。顔が良いから服と釣り合いはとれているけど。
「それ呪いだから。解くには三ヶ月待つかお互いが信頼したら勝手に消滅する」
「まず切ろうと思わないのか。というか俺は信用できないのか?」
「どっちも無理だから」
ロロは即答して二階に向かった。
信用しないと言われたが、ショックうんぬんの前に疑問が浮かんだ。信用するとかしないとか以前に部屋の場所を聞くべきじゃないか?、と。
仕方ないのでロロを追いかけようとしたとき、俺は階段の中ぐらいの場所に立っていた。
「……何が起こったんだ?」
いつの間にかロロが隣にいたんだ驚くなんてもんじゃない。
「離れすぎたら二人ともお互いの中点に瞬間移動するのを忘れてた」
ちょっと困ったような顔をしてロロは言った。
なんて面倒なんだ運命の赤い糸。高いところから落下したら二人とも死ぬな。下手しなくても命に直結する問題だ。
こんな重要なことを伝え忘れないで欲しい。
これ以上新しい情報はないよね?と聞いたら「ない」と言われたので今日はもう眠ることにした。着替えも風呂も全部明日以降考えようと言われれば従うしかない。
寝る直前、ロロにベッドを貸すと言ったときロロは「ありがとう」と言った。それなりに嬉しかった。けれど顔をよく見ていなかったのは不覚だったかな。
「おはよう」
ロロの挨拶で俺は目を覚ました。
何だか体の動きがかたい。床で寝るのは思った以上に疲れるんだな。
太陽の光が窓から差し込んできている。今日は良い天気だ。
「よく眠れた?」
ロロは純粋に聞いてきた。相変わらず眠たげな目をしているけど多少は心配してくれているのかも。
だとしたらここで正直に伝えるとロロが気を遣うかも。ここでは多少は見栄をはるか。
「ぐっすり寝れたよ」
「そう。無理しないで」
ばれたかな? まあ、気にしても仕方がない。それより今日は何をしようか。
「今日はギルドで依頼を確認しようと思うんだけど、どう?」
「それでいいんじゃない」
ロロの提案にのるか。
俺たちは準備を済ませてからギルドに向かうことにしたが問題が発生した。
それは着替えだ。お互い手を繋がれているせいでプライベート空間なんてない。どうしようか俺だけが悩んだ末、部屋の扉を閉め、着替えない人が廊下に立つことにした。
俺がアイデアを出さなかったらロロの奴は俺の目の前でも着替えを始めただろう。何故なら本人がさっき諦めようよと言ったから。
「何でお前が先に諦めてんの? 今までの言動から糸を繋がれたことあるだろ」と俺が言ったら「今までは女同士だから問題なかった」と返された。
ギルドにつく頃には俺はへとへとになっていた。
相手に気を使わないといけないし微妙に自由に動けないしでもう散々だ。
今日は楽な依頼だといいなぁなんて思いながらギルドの扉を開ける。すると中にいた冒険者たちが一斉に俺たち二人の方を向いた。
「あのー、何かありましたか?」
ついつい敬語で話してしまったが気にしてられない。なめられないようにとかその前に緊張でついうっかり喋ってしまった。
「何かあったの?」
ロロはお気楽そうに言う。そんなに緊張していないなら俺の代わりに喋ってくれないかなと思いながらギルドの中に入る。いつまでも入り口の前で立っている訳には行かない。
「二人も来たことだし、そろそろ本題を言うよ」
「お前はアーノルド!」
「やあ、リュウノスケ。これから重要な話があるしロロと二人で空いている席に座ってくれ」
昨日とは打って変わって真面目な顔でアーノルドは言った。俺たちはひとまず空いた席に座る。
アーノルドは俺たちが座ったのを確認してから話を始めた。
「単刀直入に言おう。今、この街は危機に晒されている! 受付から聞いたと思うが魔物の目撃例が増えていたのには理由があった。さらに二十歳未満の少年少女が失踪している事件も増えてきている。ここは、俺たち冒険者の出番じゃないか!!」
両手を広げて、アーノルド演説している。心なしか周りの冒険者たちが興奮してきた。一体なぜ。
俺の様子に気が付いたのかロロが小声で説明してくれた。
「アーノルドはああ見えてCランクの冒険者。つまりどんな言葉が冒険者が燃え上がらせるか知っているの。普段の一人称は『僕』だけど今は『俺』って言っているのはそのため」
「へー」
俺たちが話している間にアーノルドの演説は終盤にきたようだ。
「みんな、受付から依頼場所を聞いたらすぐ現場に向かってくれ。くれぐれも失敗するなよ」
『オオッッ!!!!』
冒険者の雄叫びは建物中に広がった。
「スピーチは終わったみたいだな。俺たちも受付に向かうか」
「そうね」
俺たちは席を立って受付に向かおうとした。そのとき、一人のおじさんが大声を上げた。
「待ちやがれそこのガキ共!」
『ッ!』
俺とロロは同じタイミングで振り返る。そこにはいつかの返り討ちにしたおじさん「火剣のバルト」がいた。