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拝啓異世界の皆様へ  作者: ポプラ
第三章 ゴーレム式機関車駅前研究所
39/43

37 先の領域

最近寒い日が続きますが皆様いかがお過ごしでしょうか。

 極銀の世界とやらはとにかく寒かった。常に雪が降りしきり、地表に近づくと水の凍り付く音が聞こえる。

 とりあえず黒龍の空中浮遊と水龍による体内の水温管理は必須だった。とてつもなく過酷な環境だ。


 何度となくシルバーに攻撃を繰り出し、繰り出されること数回。続けているうちにわかったことがある。俺とシルバーは“考え方が近い“。俺もシルバーも宙に浮くことができる。そして俺は龍を、シルバーは氷塊を使って遠距離攻撃ができる。


 攻撃スタイルが近いんだ。本体は安全な後方にいつつ、遠距離から特大の物理的ダメージを与える。近づかれたら超パワーで相手を無理やり引きはがす。

 安定した戦い方のはずだ。なのにどうしてお互いに攻めあぐねているんだ?


「この戦いに勝ったらあなたをワタクシの仲間に引き入れてあげますわ」

「冗談じゃない、お前の仲間になったら死んじまうだろ!」


 俺はまだ強豪のレベルに行けていない。あと一歩、何かあれば相手に勝てるのに。

 状況はまだ均衡している。ただ、時間が経てばこの世界(極銀の世界)に氷が積もってしまう。

 何か見落としはないだろうか、まだ会話の余地はないだろうか、相手に隙は無いだろうか__あと少し何か……。


「時間稼ぎのつもりですか?必ず明日が来る、また日は昇ると人は言いますが……来ません!!死の世界とはそういうものです!!救助が来るなんて期待しないことですね。諦めて凍死を選びなさい!!」

「くっ……!」


 実際ヤバい。地面はもう氷で覆われている。降りたところで氷漬けにされるのがオチだ。今さら空中浮遊を止めることはできないからエネルギー消費も止まらない。


「よそ見していいんですかドラゴンさん」

「げっ!」


 間一髪でシルバーの氷塊攻撃を避けられた。

 嫌な汗が背中を流れ服に張り付き凍った。今の攻撃が避けられたのは相手がお姫様だからだ。これが仮にガーデナの様な戦闘のプロの攻撃なら負けていた。声をかける程度にはシルバーは素人ということだ。


 問題は俺も素人だということ。寒さと黒龍のせいで思考もまとまらない。まずい、ドツボにはまった、何も解決策が浮かばねぇ!

 だんだんと雪が激しくなってきた。シルバーの表情も見えやしない。

 

「ぐああああああ!!根性ぉぉぉ!!」


 黒龍の空中浮遊を解いて地面に降り立つ。そして積もった雪と氷を顔にぶっかけた。


「これで冷静さを取り戻す!! お前と決着をすぐに着けてやるから……?」


 おい、なんでシルバーはにやにやしているんだ。いつも懸命な表情をしているのがお前だろう。


「フフ……ワタクシの仲間になってもらいますよ、()()()()()

「ああああああしまった!!!」


 シルバーの竜の王子様(ドラゴンプリンス)呼びでもドラゴンさん呼びでもなく、名前で呼ばれたときに気が付いた。

 氷漬けを避けるため宙にいたのにそれを忘れた!! 水龍で水温管理してたのにわざわざ冷たいもんを顔にぶっかけて体温を下げてる!!


「完全に冷静じゃない!!足も凍ってうごけねえ!!」

「ワタクシが作り出す死の世界の前にすべての生物は滅びるんです。この世界を生きて出られた人は一人しかいないんですから」


「悔しい!!ロロに啖呵切ったのに負けるなんて」

「そうですかそうですか」


「ぐああああ完全に判断ミスだ、これだけはやりたくなかったが赤龍の炎で消し飛ばす!」


 空気の膨張とか知ったことか今は立て直しを__。


「龍之介さん、あなた今炎のドラゴンは使えないんでしょう?」


 サーっと血の気が引いた。今の今まで俺はいざとなればなんとかなる、どうせ死にはしないと高をくくっていた。それがどうだ、完全に追い詰められているじゃないか。


「安心してください凍死って死に方の中では意外と苦しくないんですよ。脳の機能から滅茶苦茶になるので意識はそんなにつらくない筈ですよ!」


 にっこりと笑うシルバーの笑みが心底恐ろしかった。


「ロロさんもすぐに連れてくるので待っててくださいね」


 そう言うとシルバーは呪文を唱え始めた。恐らくロロをこの世界に引きずり込む気だろう。

 すぐに大きな鏡が空に浮かぶとシルバーはその中に入り消えていった。


「『無事に戻ってきてね』か。約束破っちまったな」


 頭に浮かぶのはロロのことだ。あいつのことだ、生き残りはするだろう。けどまた出会った頃のような不機嫌な顔に戻るのだろうか。


「いやだな」


 最後に思い出すのはロロの肩に手を置いたとき。思った以上に華奢だった。

 

「君を守りたかったよ……ロロ」


 呟いた瞬間、急に足の感覚が元に戻った。

 いつの間にか桃色の龍が俺の周りを覆っていた。両手を広げても足りないほどの大きさに成長した桃龍は四方八方に花畑を出現させていた。


「綺麗だ」


 氷が降り乱れる死の世界に春が訪れた瞬間だった。

皆様良いお年を。

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