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拝啓異世界の皆様へ  作者: ポプラ
第三章 ゴーレム式機関車駅前研究所
21/43

21 事故は起こるさ

 ガタン、ガタタン。ガタン、ガタタン。

 機関車は走る。


「いよいよだな当夜」

「ウルトラ待ったな龍之介。正真正銘、ノンストップ暴走機関車の完成だ!」


 目的地は王国のゴーレム製造所。そこには魔王軍幹部最後の一人がいるって情報をつかんだ。

 ただもし情報が間違っていた場合、俺たちは無意味にトレインジャックをしたことになる……。何とかなるさの精神は大事。もうすぐ長い長い旅が終わると思うと、一抹の寂しさがあるような気がしなくもないかも。 

 現在地は『王都メトロポリス』。細かく言うなら王都の中にある路面機関車の中。もっと細かく言うなら機関室。石炭とかを炉に入れたり汽笛を鳴らす場所と言ったら分かりやすいかな。


 機関室の中にいるのは龍之介(俺)、ロロ(停止中)、当夜(勇者)の三人だ。

 唐突に現れた当夜トウヤは誰かって?

 説明すると短いんだがざっくり言うと当夜は俺の友達。

 俺以外にも異世界に来た人は学校単位でいたわけだがこいつはなんと勇者にまで上り詰めていたらしい。すごい、努力家だね。

 まあなんにせよ、俺と当夜の再開は数時間前に遡る……。

 夜が明ける直前、俺は新たな力、雷龍で魔王軍幹部「リリー」を空のはるか彼方に消し去った。リリーは屋敷の天井を突き抜けていったわけで、これはもう文字通り消し去ったといってもいいだろう。

 立ち上る朝日は俺とロロを明るく照らして、ようやく魔王軍幹部を倒したことに実感がわいてきた。


「疲れた」


 思えば夜通し「リリー」と戦ってたんだな。もう屋敷中がボロボロ。随分と風通しがよくなってしまった。

 俺は動かなくなったロロを椅子に座らせてからひとりひとり、黒服さんたちの息を確認していった。

 幸いなことに全員命に別状はなく、ほとんどの人がすぐに働けるほど元気だと答えた。

 全員の安否を確認した時の俺の顔は真顔になってたかもしれない。



 黒服さんたちからは洗脳を解いてもらったお礼として朝食を貰った。

 思えば黒服さんたちと一緒にご飯を食べるのは初めてだったかもしれない。ボロボロになったテーブルを全員で片付けて、お尻とか足をケガをした人には柔らかい椅子を優先した。

 みんなの食事が終わるころ、ロロの目の前に料理を運んでみたけど目は覚めなかった。

 戦っていた時は突然起きたのにどうして今は意識が戻らないのか。理由も条件もさっぱり分からなかった。


 食事が終わった後ようやく国から冒険者が到着した。

 この時俺は、自分が指名手配されていることをすっかり忘れていて、王国の兵士たちと接触してしまった。

 縛り付けた「ガーデナ(偽)」を引き渡そうとしたところで、「お前も捕まえる」などと言われて心底驚いた。

 でもなんだかんだ拘束はされなかった。


「うそ、お前……どう見ても……」

「あ、お前は……」


 冒険者の一人とお互い目が合った。

 銀色に輝く鎧を全身に着て、左腰には水晶のように輝く剣を指しているけど間違いない。


「当夜!」

「龍之介!」


 喜ばしいことに俺は異世界に来てから初めて地球出身の友達と会えた。


「嬉しいよ、こんな山奥でマジの知り合いと会えてさ」

「こっちもウルトラ驚いているぜ龍之介。まさかマジで生きてるとはな」

「あん? 久々に再開した友人に向ける言葉かそれ」


 ちょっとムカッときたが当夜はまあまあといった様子で手を動かして苦笑した。


「悪気はなかったんだって。お前は知らないかもしれないけど、こっちはいろいろあったんだぜ。まさかウルトラって言葉でも足りないような大事件が起こるとは思わなかったよ」

「どういうことだ」



 当夜から告げられた事実は驚くべきものだった。

 異世界に呼ばれた生徒の半分が失踪するか殺されたこと。

 生徒のドッペルゲンガーが現れて悪事をやりたい放題していたこと。__クラスのみんなは指名手配された俺をドッペるゲンガーだと思っていたらしい。


「クラスのみんなが半分以上消えた。魔物に殺されたり操られたり迷子になったり、文字通り異次元に消えてった奴もいるとか。もう俺たち生徒は半分もいない。いったいどうなってるんかねぇ」


 やれやれといった感じで当夜は肩をすくめた。

 俺は一つ気になっていたことを質問した。


「なあ、花子は元気か?」


 アーニーに喰われて最期は俺に命乞いをしてきた彼女。もしかしたら彼女はドッペルゲンガーなのではないか、要するに偽物なのではといった俺の淡い期待は当夜の言葉で砕かれた。


「ああ、あいつは死んだよ」


 あっさりと当夜は答えた。それはもう、新聞の内容を人に説明をするかように。その他人行儀な様に俺には当夜が異質な存在に思えた。普通知り合いが死んだならショックを受けないか?


「お前……本物か?」

「本物ですけど」


 何を言っているんだかわからないといった様子で当夜は答えた。


「まあ、お互いいろいろあってすぐには信頼しあえないのかもな」


 当夜は残念そうに言葉を発した。その態度で、一瞬罪悪感を覚える。

 もしかして俺、異世界に来てから性格が捻くれてきた? 認めたくない新事実の発覚に頭を抱えたくなる。


「何うなだれてるんだ。それよりお前、王都に一緒に来てくれよ。何をやらかして指名手配されてんのか知らないけどさ。戦力が足りないんだ」

「戦力?」

「王国経営の研究施設に魔王軍幹部幹部が居たんだ」

「襲撃か?」

「違う、スパイだ。魔王を倒すためにはまず幹部を倒さなきゃいけない。俺たちが帰るには魔王を倒すしかないんだからな」

「でも魔王軍と王国はグルだぞ?」

「え?」

「え?」

「えええええええええええええええええ!?」


 すごく驚いた顔をしている当夜。なら驚くついでに俺が魔王軍幹部と戦ってたことを話しちゃいましょう。


「そうか……『リリー』が勧誘に来たか……。あいつめ、『魔物と人間が分かり合えるわけないでしょ』とか俺に言ってきたのにバリバリ人間(りゅうのすけ)と手を組もうとしてたじゃねえか……消えたけど」


 ガビーンとショックを受けてうなだれる当夜。かわいそう。きっと勇者として散々王国のために戦ったんだろうなぁ。やりたくもない委員長をさせられてたみたいで不憫だ。


 あんまりにも哀れなんでついついある提案をしてしまった。「こうなったら俺たちで王国をとっちめてやろうぜ」と。数時間後、俺は非常に後悔するんだけど、まだこの時は分かっていなかった。


「できるのか?」

「今生き残ってる俺たちなら余裕っしょ」


 俺の回答に当夜も気が大きくなったみたいだ。


「いいだろう、いざという時のために転移石もポーションも買いだめしてカバンに詰めてある」

「あ、そうそうそこの椅子の上で寝てる彼女、ロロって言うんだけどあいつも連れてくね」

「えっ?」

「あとお前転移する前に鎧ごとでいいから温泉浸かれよ。呪いが解けるぞ」

「鎧ごと!?」


 なんやかんやあって当夜は温泉に入った。もちろん裸で。

 転移する前、俺はロロを背負う用のロープの用意、当夜は剣と鎧の手入れをそれぞれ黒服さんたちにしてもらった。何から何まで頼りっぱなしだったが黒服さんたちは俺たち三人をお見送りしてくれた。


 転移石で三人とも王都にワープした。

 そこは今までの街とは比べ物にならないほど発展していた。まず転移石なんてどう使っても侵入道具になりそうなのに、座標を王都に設定したら強制的に転移門というところにたどり着くらしい。


「すげーなここ。なんつーか観光地みたいだ」

「実際旅人も多く来るよ。なんせ名前が『メトロポリス』だ」



 メトロポリス、確か主要都市って意味だったかな。あんま地理用語に詳しくないけど……。

 転移門は床も壁も白く四角い石で囲われていた。床は魔方陣が刻まれている。手作業だろうか、一つ一つが細かく丁寧に削られている。



 壁はブロック塀のようにも見えるけどデカさが半端じゃない。城の石垣ぐらいあるね。

 門の出口には二体の石像が金剛力士像のように立っている。

 石と言っていたけど、一つ一つのブロックに細かな文字や細工が施されている。



 もしかしたら建造物全体で一つの大きな魔方となっているのかもしれない。

 とにかく古代彫刻のような美しさがあった。


「門だけじゃなく建物もすげーや」


 あまりにも門が綺麗だったけど当夜に引っ張られて門の外に出た。

 すると建物が目に入った。

 建物は綺麗というより奇妙、摩訶不思議といった言葉がしっくりするような形をしていた。

 金属ともガラスともつかない透明感のある素材で建てられた大きなビル、レンガで敷き詰められた道路。

 観光地みたいでテンション上がるなぁ。



 この町の凄いところは門や建物だけじゃない、路面電車、いや路面機関車が走っているところだ。レンガの地面いっぱいに広がる線路。模型でだってこんなに線路を張り巡らした街を見たことが無い。

 圧巻だ。移動が便利そうで大変良い。


 ここでふと気になった。


「地図ないのかよ」

「じゃじゃじゃじゃーん。勇者特権ウルトラメトロ地図」

「……」

「そんな踊るナメクジを見たような顔するなって。正式名称だよこれ。何がすごいって列車の発車停車時刻が完璧にわかるんだ。しかも移動時間から値段まで事細かに書いてある」

「載ってないぞ」

「手をかざすだけでいいのさ」


 実際当夜が手をかざすと文字が浮かび上がった。


「すげーハイテクじゃん」

「だろだろ」


 ボオオオオオオという音が聞こえた。機関車ってもしかして蒸気で動いてる?


「結構ハイテクだからここは魔力で動かしてほしかったぜ」

「同感だ」


 当夜もわかってくれた。こんだけ魔法チックな街なら移動手段も魔法であってほしかった。

 そういや俺たちお金持ってたっけ。

 そのことを言うと当夜はものすごくいい笑顔になった。もう満面の笑み。


「走れ!」


 当夜は叫んだかと思うと線路近くまで侵入して猛ダッシュした。

 すると線路を走っていた汽車がピーという音を鳴らして警告した。あくまで警告であってスピードを緩める気配がない。

 __引かれる、俺がそう思った瞬間当夜はひらりと身をかわし、貨車の策に手をかざしてそのまま飛び乗った。鎧を着ているのになんて身のこなしだろうか。

 そう思っていると


「急げ急げおいてかれるぞ」


 と言われた。

 いやどうしろと、飛び乗れってか? 無理だろ。

 ぼんやりしていると何者かに背中を押された。


「なっ!?」


 貨車にぶつかりそうになり慌て策をつかむ。

 すげー怖かった。将来絶対にスタントマンにはならないと心に誓った。


『ビー、ビー、ビー、データにない魔力が感知されました。侵入者を排除しにかかります』


 驚く暇もないまま人間の形をした土の塊がやってきた。でかい、3メートルくらいはある。列車の上だから結構揺れがあるのにゴーレムは器用に歩く。


「これが噂のゴーレムか。すげえ警備員みたいだ。でもおかしいな、マニュアル的に魔物が襲ってきたみたいな態度だぞ」


 いつの間にそばに来たのだろう。隣に立っていた当夜は相手をゴーレムと見抜いた。


「こいつがゴーレムか? まあ、土の塊だしイメージのまんまだな。ただ……しゃべっている内容は物騒だが」

「そういえば……罪によっては人間を魔物扱いするって法律を誰かから聞いたことがあるぞ」



 ちらっと俺のほうを見る当夜。その顔には汗がにじんでいる。


「そういやお前指名手配犯だったな。何やらかしたんだ……?」

「国家転覆……未遂?」

「重罪じゃないかばかぁぁぁ」


 当夜の叫びとほぼ同時にゴーレムは襲い掛かってきた。

 まあ、でも余裕でしょ。


 へいドラゴンかもん。最近現れた雷の龍を呼び出してみる。ゴーレム両手両足がバキッと砕け散った。四匹目の龍も、今までの三匹と同じような戦闘力はあるとみていい。

 勝ったな。

 と思ったら土くれが浮かび上がるようにして体とくっつき再生した。物理攻撃効かない? しゃーないね水の龍で洗い流すか。

 俺は体から水龍を出現させるとブレスでゴーレムを攻撃させた。


「すげーなそれ。俺の考えた最強の能力って感じの魔法だな。その龍」

「お前は驚かないんだな。異世界来てから龍を見せると『ドラゴンだ!』とか言って驚くやつばっかだったから突っ込みが新鮮だ」


 なんやかんや話している間に土が洗い流されたのかゴーレムは小さくなってきた。そして普通の人間サイズになるとピキッとひびが入って__中から全裸の少女が出てきた。その少女は床に倒れ伏したまま動かない。


「俺たち罪に問われるかな」

「完全に事案だな」


 不安になってきたが客車からゴーレムが次々襲ってきたのでもっかい水で流す。すると中からやっぱり裸の女の子が出てきた。


「おかしくねえか?」

「ああ、まるで戦隊もののロボットだ」


 少女たちがゴーレムを操縦していたのだろうか。


「いやそうじゃなくて、女の子たち、見た目一緒じゃね?」


 当夜がそういって少女たちを指さす。さっき襲ってきたゴーレムは合計三体。全裸の少女は全員金髪で中学生くらいだ。


「姉妹なんじゃないのか? 体格とか似てるし髪色は同じだし」

「いや、顔をよく見ろ」


 そう言って当夜はひとりひとり少女を仰向けの体制にした。


「な!?」


 少女の瞳は最初から開いており若干不気味だった。瞳の色は青色、三人とも鼻や口の位置、果てには耳までそっくりだ。


「な…、こ……らク…ーンか!?」


 同意を求めてたのかもしれないが当夜の声は俺の耳に入らなかった。


「ロロ!」


 少女たちは全員、動かない筈の俺の相棒にそっくりだった……。

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