1 異世界に召喚されたら処刑されかけたんですけど
拝啓、異世界のお父さんお母さん。お元気ですか?
この世界では相変わらずモンスターと人間が殺意バチバチで争っています。
そんななか、私柴田龍之介は勇者になったり、内政を行ったりしているわけでもなく、……牢屋にいます。
「ああああああちっくしょーどうしてこうなった!! あんぽんたん王様の奴俺がチートスキルを持っていないと知ると直ぐに牢屋にぶちこみやがって。こっちだって好きで異世界に来たんじゃねーぞ直ぐに元の世界に戻せよ。バ~~~カ」
「貴様、王を愚弄するとは即刻斬り捨てるぞ」
「あっハイすみません」
石でできた牢屋の外から兵士の怒気のこもった声が聞こえる。命が惜しいので取り敢えず黙った。
俺の名前は柴田龍之介、高校一年生だ。7月のある日、もうすぐ夏休みだーとクラス全体が浮かれているなか、突如学校全体が光だした。
床にはよくある魔方陣が描かれていて、気が付いたら絨毯の上に寝転んでいた。絨毯にはゲームでよくある魔法陣が描かれている。
そこにいるのは俺だけじゃなく、クラスの皆、あと担任の先生がいた。
でかい窓、大きな木の扉、高い天井。観光地のお城の内装にそっくりだ。
ご丁寧なことに王様自ら「勇者よ、魔王を倒し、この世界を救うのじゃ」とか何とか言って俺たちを出迎えた。
要約すると、この世界は魔王が復活して危機に晒されている。何とかしてほしいから学校単位で召喚した。だそうだ。
王様の話が終わると王宮直属の魔法使いが俺たち生徒を調べ始めた。生徒だけでも五百人はいるだろうにご苦労なことだ。
他のクラスは分からないが俺のクラスの半分は「剣豪」とか「魔術師」とか強そうな名前のスキルを持っていた。中には「加治屋」とか良くわかんないものもあったが。
残りの半分は「スキル」がなくとも何故か身体能力、または魔力が常人より高かったらしい。
ゲームで言うところの前者は大器晩成型、後者はお助けキャラといった所か。
ちなみにこの俺は「スキル」の数ゼロ。身体能力も魔力も一切上がっていなかった。
あっというまに俺は役立たずのレッテルを張られて地下牢に入れられた。まあ、こうなるよね。異世界召喚なんてする奴がまともである筈がない。
ワンちゃん逃げられないかなと牢の扉が開いた瞬間走って見たものの、兵士に一瞬で捕まった。
「貴様、いい加減にしろよ」
「子供だから見逃せよ!」
「……」
「無視かよ!」
兵士に連れられたまま薄暗い地下を抜け、階段を上ると木でできた大きな扉の前に着いた。
「着いたぞ」
「ここは?」
「見てわからぬか。召喚陣のある部屋だ」
入った部屋は俺たちが召喚された場所だ。相変わらす石の上に絨毯という謎のセンスをしている。
そこには王様と俺のクラスを担当した魔法使い、そして担任の先生がいた。
「これよりこの者、柴田龍之介の処刑を始める。何か言い残すことは」
「王自ら処刑を?」
「それが遺言で良いのだな?」
髭面ハゲ爺の王様が意地悪そうに笑う。心のなかでクッソふざけんなよと罵る。いきなり処刑されると言われた奴の気持ち考えたことあんのか。
「待ってください。最後に先生と話させてください」
「良かろう」
「先生、他の皆は?」
俺は先生の方を向いた。先生は申し訳なさそうな顔をしてうつむきながら話始めた。
「皆さんは、今のところ無事です。あなたのお友だちは私が責任を持って守ると誓います。すみません。私を恨んでも構いません。ですがどうか、もしあの世というものがあるならば、皆を見守ってください」
おいおいおい、何諦めムードになってんのねぇ。俺はまだ死にたくないんですけど。お友だちがどうとかも重要だけどまず俺を助けてくれませんかね。
「では、この者を国家転覆の罪で処刑する」
「ハッ!」
国家転覆とかもみ消しに都合のいい法律だなおい。
紫色のローブを着た魔法使いが俺の前に出る。そして呪文を言い出した。
「『炎よ。我が魔力を喰らいて、かのものを焼き払え』」
次の瞬間めちゃくちゃデカイ火の玉が俺めがけて飛んできた。
目玉焼きを作ったときとは比べ物にならない程の熱が俺の体を襲う。
「う、うぎゃー燃えるー死ぬー。……あれ?」
「ば、馬鹿な」
「ほへ? うわっ!」
俺の目の前にあった火の玉は綺麗さっぱり消えていた。やった、生き残ったぞ。と思ったのもつかの間、魔法使いは別の魔法を俺に向けてきた。
「『風よ、我が魔力を喰らいてかの者を切り刻め』」
今度はつむじ風が俺の前に迫ってきた。枯れ葉とかもないのに目に見えるのは風が空間を歪める程鋭利だからか。取り敢えず逃げようとした。でもできなかった。
「風が強すぎてこけたー。死ぬんだ。俺、死因風という意味不明な状況になるんだー。……あれ?」
いつまでたっても風の刃は襲ってこない。良く見ると魔法使いは凄く目を見開いて驚いていた。
「ま、まさかドラゴンが。いやそんな筈は。お主、さっさと確かめろ。水じゃ。水」
「ハッ。『水よ。源は母なる海が如く、力は流れる流水の如く、全てのものを薙ぎ払え。アクアブレイク』」
魔法使いは自分と王様ついでに|担任を泡で包んだかと思うと部屋全体に水が現れた。
「おぼベベビぬー」
あれ、いつまでたっても苦しくならないぞ。
今度こそ、王も魔法使いも担任も驚愕した。
多分俺が死ななかったからだ。
水が霧となって霧散したころ、王様は口を開いた。
「貴様、やはり魔族の力を。その力は紛れもなく『ドラゴン』のも」
「で、ですが、ドラゴンにしては魔力の形がおかしいのです。まるで蛇のようか体で『竜種』の特徴である翼がありませぬ」
「それではなんだと言うのだ」
王様と魔法使いが言い争っている。
「柴田君。君の名前は確か『龍之介』でしたよね?」
「それが何か」
「体を見てください」
「うぎゃー気持ち悪っ!」
俺の体から何と三匹の『龍』が出てきた。
ゴクッと唾を飲み込む。俺の右手には炎でできた龍が、左手からは風でできた龍が、背中からは水でできた龍が出てきていた。
西洋とかにある羽の生えた奴ではなくではなく、日本や中国で見られる体が長い方の龍だ。
「これが、俺の力なのか?」
異世界に来て手に入れたものはチートスキルではなく『三匹の龍』だった。その龍は王宮の魔法使いの魔法でも消し去る程の力を持っている。
防御力は十分。なら攻撃力はどうだろうか。
「奴を殺せ!」
王も魔法使いもなりふり構わず俺を殺そうとしてくる。
王は城中の兵士を集め、魔法使いは次々詠唱しては魔法をぶつけてくる。
「無駄だ。ドラゴンたち。潰せ」
もう担任の姿は見えない。一言「生きてたら裏庭で」と残して何処かに行ってしまった。まあ、足手まといが居ないから良いけど。
俺たち高校生は男女問わず何かしらの力を得ていた。にもかかわらず、先生が牢屋に入れられていないのは、力は無くても子供たちの心の支えになるから、だそうだ。
「ええい、お主何者じゃ」
「魔族の使いであろう」
「邪教徒じゃ」
何か好き勝手言われているけど無視だ。
ドラゴンたちは効率良く兵士を焼いたり斬ったり水浸しにしている。……最後だけショボい気もするけど濡れるだけでやる気というものは削がれる。案外一番効果的かもしれない。
「えっと、ドラゴンたち。水だけ吐き出してくれないかな」
そういったら今まで勇ましい顔をしていた火龍と風龍はしょぼーんとした顔になったあと霧散した。多分俺の体の中に入ったのだろう。
逆に水龍はめっちゃやる気をだしてくれたのか吐き出す水の量が増えた。そして召喚部屋に水がたまってくる。体育館ぐらいの大きさはあるのに凄いな。もう水の深さは膝ぐらいまである。
ここで俺は王様に呼び掛ける。
「王様。俺を解放してください。城から出すだけで良いのです。そうすれば俺は直ぐにでも城じゅうにある水を霧散させましょう。このまま水が増え続ければいずれ食料も書物も無駄になります。そんなの嫌でしょう?」
ハッタリだ。適当な敬語だし、水が綺麗に消える保証もない。それでも生きてここから脱出するにはこのタイミングしかない。
「仕方ない。皆の者、武器を降ろせ。魔法使いも詠唱を止めるのじゃ」
うおっしゃあああああ。何とかなったあああああ。あぶねえええええ。
無事、俺は異世界の一日目を乗り切った。
主人公の現在のステータス
特殊スキル「龍神の加護」
ステータスと言っても戦闘力とか道力とか捕獲レベルみたいに数値化はしません。絶対インフレする。