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キロ  作者: 中島レノン
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0話

  その日のことは鮮明に覚えている。

 まだ、季節は冬で雪も降っていた1月23日の夜8時半ごろ。ある一通の電話の着信音が私の携帯のマイクから甲高く鳴り響いた。いつも数回は鳴り響いている着信音でもう聞き慣れてしまっていたのだがその日は父も母も家に在宅しておらず私だけだったため、心なしかいつもより音量が大きく感じた。見てみると母からの着信だった。どうせ、この時間帯なら父が仕事で晩御飯がいらないとか母がお米を炊いていてほしいなど簡単な内容だろう。

 携帯の通話ボタンを押して「もしもし」と言うと「満美...」と案の定、母の声が聞こえてきた。やっぱりかと思ったがそれ以上におかしいことに気付いた。いつもなら内容を簡単にまとめて話してくる母が私の名前を呼んでから何も話してない。どうしてなのかわからないがとにかく母に「どうかした?」返答を求めてみる。すると母が声をガタガタと震えさせながらこう言った。


 「真維が死んじゃった...」と。


 ...え?今なんて?

 「え?お母さん何言ってるの?真維が死んだって?嘘でしょ!?」

 母に自分の聞き間違いだと言ってほしい。だが、そう思っていたが現実的に考えてみても母がそんなこと冗談でもいうはずがない。それを分かっている、分かっているはずなのに信じたくなかった。だから何度も母に聞き直した。

 「お母さん!冗談でしょ!?ねえ、私の聞き間違いだよね!?」

 目頭を熱くさせながら普段絶対に出さないような大きな声を電話越しの母に向かって叫ぶ。だが母からの返答は一向にない。 今まで感じたのない焦りと様々な感情が私に大きな声で叫ばしていた。完全に冷静になることを忘れ母に向かって電話越しに叫んでいると母の携帯を持ち帰るような音が聞こえてきた。

 次の瞬間、電話から声が聞こえた。母ではなく今仕事をしているはずの父の声がそのにはあった。

 「満美、お父さんだ」と父が声を発した。

 「お父さん、嘘だよね?真維が死んだなんて...!」と母に向けていったことを今度は父に向かって言う。

 「......」

 数十秒の沈黙。その沈黙を破るように父はこう言った。

 「あのな...真維がなぁ...交通事故にあって...病院に運ばれたんだけど今さっき...先生から死亡したって言われたんだ...」

 多分、父は涙を流している。今まで聞いたことのないくらい震えていて今にも聞こえなくなりそうな父の声だった。それを聞いて私の目から涙が出ていることに気付いた。それによって私はようやく確信した。


 私の真維は死んだのだ


 その後、真維の亡骸を病院で泣きながら見た後に父から聞かされた。どうやら真維はバイトの帰り道に飲酒運転した車に自転車と一緒に衝突し体を強く強打したため死んだそうだ。もっと細かく詳しい死因は先生から聞いたのだが全然覚えていない。多分、ずっと泣いていたから先生や父の言っていることがあんまり聞き取れなかったのかもしれない。その日は、ずっと病院で泣いていた。

 それからというもの、忙しい日々がやってきた。真維が死んだことによって葬儀やたくさんの手続が数か月間ずっと続いてた。悲しんでいる暇はないぞと言わんばかりに忙しい毎日がやってきた。学校も何日も休んで父も仕事を休んでずっと忙しくしていた。

 葬儀や細かい手続きがひと段落して落ち着きを見せてきた5月初旬。真維の死後、母は精神を病んでしまいまともに食事をしなくなった。母は母方の祖父と祖母の家にしばらく住むことになった。そうした方が精神的に改善がみられるかもしれないという病院の先生からの助言によるもので父も母の回復を望んで祖父と祖母に母を預けたのだろう。

 一方の父は、私の前では明るくいつも通りを装っているが実はお酒を以前の数倍飲むようになっており確実に以前よりも家に帰るのが遅くなっている。確実に体の調子が悪くなっているのが見ていてわかる。

 私自身も以前よりも口数が少なくなり、食事もなかなかとらなくなった。父が手料理を作ってくれるようになったが父に遠慮してしまいお金だけもらっていつもコンビニのパンを昼食に、スーパーのお弁当を晩御飯としている。

 私も母や父と同じように壊れてしまった。

 そう、私の家族は壊れてしまったのだ。

 逆に言えば真維がそれだけ私たち家族を繋げていたのだ。

 だが、その真維はもういない。

 まだ、大人の世界にも足を踏み入れることがなく、姉である私よりも出来が良く、性格が良く、私が親しい人よりももっと親しかった。みんなとまでは言わないがそれでも多くの人から好かれていて、頼りにもされていた。

 そんな真維がなぜ死んだんだろう...と、今でも考えている。

 それと同時に私は今の家族にいるのだろうか?

 真維が家族を繋げていたのなら私は何の存在意味があって生きているのだろうか?

 真維が死んでからずっと考えてきた。

 私はいてもいなくても別にどっちでもいいのではないかと...。

 そう考えてきた。

 そして、一つの解が出た。


 そうだ、死のう。


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