逆転する姉妹関係
お昼前最後の競技であり、尚且つ僕のお昼前最後の出場する種目である綱引きを無事終えた。無事に終えたというだけで決して良い結果だったわけではない。7クラス中、7位という結果に終わってしまった。つまり最下位だ。午前中の競技を終え、クラス全体の点数を見たときにも7クラス中、7位となった。僕としては願ったり叶ったりの展開でもある。別に最下位になることを望んでいるわけではないけど僕が1番に避けたいのはクラス代表リレーにクラスの勝敗が委ねられることだ。ましてや勝敗の分かれ目でバトンが回ってくるのだけは勘弁だ。プレッシャーに弱く、勝負事に向いてない僕は重大な何かをやらかす自信しかない。
気温の上昇に反比例するように僕の気分は下がっていった。
「太陽さーん!こっちです!こっち!」
普段はクールな雪ちゃんだけど彼女と見間違えてしまうほど気分が上がっていた。
出来ればうまく逃げてお昼を食べたかったところだけど見つかってしまった以上そうもいかない。
まだ彼女の姿はなかったけど彼女一家が居座るシートに着席した。それから15分ほどたったころ、汗をダラダラにかいた彼女が現れた。
「ど、ど、どうしたの!お姉ちゃん!」
「いやぁ!太陽くんのことだから逃げると思ってたから人目につかないところを片っ端から探してた!まさかもう座ってるとは!」
「たしかに太陽さんは人目につかないところにいそうですね。笑」
「君らは僕をなんだと思ってるの。」
「うーん、嫌なことをかわすのが上手い人?」
「うん、弱虫だといいたいんだね。」
「そんなことないですよ!良いところもたくさんです!怒らないでください!」
「怒ってないよ。」
「雪はわかってないなぁ。太陽くんは太陽くんでしょ!」
「間違ってない間違ってないけど君はちょっと黙ってて。」
「お姉ちゃんウザがられてやんの!笑」
「そんなこと言うのはどの口だ!この口か!」
周りの目すらも気にすることなく彼女は雪ちゃんに覆いかぶさった。
「ちょっと臭い!汗臭い!離れて!」
「しゃあないなぁ。」
「ほら、いつまでも騒いでないでお昼食べちゃいなさい。」
彼女の母親の発言により、僕らは各々の席に着いた。
「僕までご馳走になっちゃってすいません。」
「いいのよ。食べ盛りなんだから栄養あるもの食べないと!」
「太陽さん!私も作ってきたんです!」
雪ちゃんは自信ありげにそういったけれど以前彼女の家で鍋をご馳走になったとき、彼女が雪ちゃんの料理を悪魔専用ご飯と命名していたことが脳裏に浮かんだ。
「あ、そうなんだ。ありがとう。」
僕は心の中でどんなにパンチのある料理が出ても顔に出さない、どんなに不味くても顔に出さない、そう決意した。
「はい!どうぞ!」
でかい弁当箱に入れらたおかずは様々で全くもって悪魔専用ご飯とは思えなかった。
「いただきます。」
僕がいただきますの挨拶をいって雪ちゃんのおかずに手を出そうとすると彼女が僕より早く箸を伸ばした。モグモグモグと吟味したのち、彼女は呟いた。
「よかった!冷凍食品だ!」
「お姉ちゃんは黙ってて!」
そんな痴話喧嘩を見てるだけで僕の心は和んだ。
冷凍食品だけのお弁当だろうと少しでも自分のために作ってくれたと思うだけで全然嬉しいものだ。僕のうれしい気持ちが少し顔に出ていたのか雪ちゃんは「ほら!太陽さんも嬉しそうだしいいの!」と彼女に対抗していた。
それから彼女の母親と雪ちゃんが作ってくれた弁当を食べていると雪ちゃんが耳打ちで「こないだ会った時は元気なかったですけど元気そうでなによりです。お姉ちゃんも元気ないところを見ると喧嘩でもしてたんですか?」といってきた。その返答をしようとすると彼女が食べ物を口に入れながらすかさず間に入ってきた。
「そこ!こしょこしょ話してなんだ!堂々と話したまえ!」
「え、お姉ちゃんの悪口言ってたんだけど堂々と話していいの?」
「お姉ちゃんは悲しいよ。オムツを替えてあげたことだってある妹がこんな生意気になっちゃうなんて。」
「年子でそんなわけないでしょ。そんなんじゃ太陽さんに嫌われちゃうよ?」
この風景を客観的に見てると雪ちゃんと彼女、完全に2人の姉妹関係が逆転していると思った。




