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太陽と月  作者: 高槻博
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この日の僕の運勢は間違いなく最悪だ。

雨宮さんと静かな談笑の時間も結構経ち、次は僕の出る借り人競走の時間になったので、席を立つ。


「日向くん頑張ってね!困ったお題なら私を連れ出していいよw」


雨宮さんはこちらにウインクをしてきた。

あー僕みたいな卑屈な奴じゃなく、純粋無垢な男子ならこれで一瞬で落とされるんだろうなと思った。

先ほどまで前線で応援している彼女に目をやると、そこにはいつの間にか八雲くんも参戦しており、2人ともヒートアップしていた。2人は俗に言うお祭り男とお祭り女なんだろう。汚れ等を気にすることなく騒ぐ2人の姿は見ているものまでも魅了する力があるんじゃないかと思った。


借り人競争の出席確認しているとどうやら僕らのクラスの人が1人来ていないようだった。


「あのー、1年4組のもう1人の出場者は来てないですか?」


体育祭実行委員であろう女性が僕に聞いてきたが、そもそも出場する人すら把握していない僕は首を横に振ることしかできなかった。


僕は多数決により、借り人競争に出る羽目になってしまったが、僕が借り人競争が最上に出たくない競技だった。理由は言うまでもなく、例えばお題が先生、高齢者、だったりしたら難なく行きそうなもんだけど、友人、好きな人、親友、そんなお題が出た時にはお手上げだ。迷惑かも知れないが、彼女や八雲くん、雨宮さんの力を借りるしかない。けれど僕の3択のうちの1人は候補から真っ先に消えた。


「すいません!遅れました!1年4組八雲空です!」


彼はハチマキを巻き直し、凛とした姿で現れた。1人が候補から消えたのはこれが理由だ。さすがに出場者を借り人として借りることはできない。


「お、日向じゃん!がんばろーぜ!」


「うん。」


「祭りだっつーのにテンション低いな!」


「僕が祭りを理由にテンションが高かったらきっと周りも驚くよ。」


「それもそうだな!」


このあと僕の借り人候補の1人がまた候補から消えてしまうこととなる。


「各クラス3名ずつ揃いましたのでルールの説明をします。特にこれといって難しいルールはありませんが、抽選で3人ずつ走者を選んでいきます。その走者はスタートラインに立ち、コールとともに走ります。カードを取ったらお題に従い、ゴールまで到着してください。ゴール位置はスタート地点と同じです。つまりグラウンド1周ってことです。ゴールした際に念のためカードのお題を確認しますが、明らかにお題に反していると判断された場合は失格0点とさせてもらいます。点数の配分は1位から5点、3点、1点の順になってます。反則さえしなければ1点は入るということですね。3人とも1位を目指して合計15点を目指してください。」


僕は恥をかきたくはないのでルールはしっかり聞いていたが、周りはというと完全に浮かれてしまっていて、実行委員の説明など耳には入っていない様子だった。まぁ理由を聞く限り難しい点もないし、 聞かなくてもできるということなんだろうけど。


入場門からスタート位置までまとまって軽く走っていくと彼女の姿が目に入った。彼女は体全体を右に左に動かし、跳ねてはしゃがんでを繰り返し、どこから持ってきたのかわからない、扇子を振り回していた。


「たーいーよーうーくん!ファイト〜!」


あー今すぐ消えて無くなりたい。と思ったけれど現実はそんな甘くない。下を見ながら極力視界に入れないようにした。雨宮さんは変わらず後ろの席の方にいたけれど、先ほどまでとは違い、視線は競技の方へとあった。


競技は淡々と進んでいき、7クラス各3人計21人いた人もラスト2グループの6人まで減っていた。この時僕は2つのことに気づいた。1つは僕らのクラスから誰1人としてまだ走ってないこと。これはつまり確実に同じクラスで競い合うことになるし、最悪同じクラスのメンバーだけということもあり得るということだ。もう1つは僕と八雲くん以外のメンバーが恩田くんであるということだ。敵意むき出しの彼と目が合ったので咄嗟に目をそらした。今日は本当についてない日だと思ったが、僕の不運はこれにとどまらなかった。次のグループの走者には八雲くんだけが呼ばれた。この瞬間、僕と恩田くんが同じグループであることが決定した。


「そんじゃいってくるわ!」


「がんばって。」


僕のか弱い声援に「おう。」と答えてスタートラインに走っていた。僕はこの時、友達である恩田くんからエール1つないことが気になってしまった。八雲くんはたしかに恩田くんに対し、反対の意を唱えてはいたけど、敵意を出したわけではない。だけど僕と仲良くしたせいでこのような不仲を招いてしまったのなら申し訳ないと思った。八雲くんなら「自分の正しいと思ったことをしただけ。その程度で壊れるなら所詮そんなもん。」みたいなことを言うんだろうけど。今はそんな雑念を捨て、か弱い声援とは違い、心の中で逞しく声援を送った。あくまで僕の中では逞しい声援であり、感じ方には個人差がある。そして声には出さず、心の中でだ。


僕の声援が通じたのか、いや彼の持ち前の運動能力でカードが置いてあるとこまでは1番に到着した。八雲くんがカードを拾い、中身を確認すると瞬く間に自分のクラスの方へ走っていった。最前列の人らを借りるのかと思いきや、最前列の人をかきわけ、後ろの席で静かに観戦していた雨宮さんに声をかけた。どんな会話があったかはわからないけど、雨宮さんをつれ、再びコースに戻ってきた。人選びに時間のかかった八雲くんはその時点で最下位になっていた。けれどここでまたしても彼の運動能力が光った。八雲くんはお題の中に書かれていたのかそれとも独断なのかはわからないが、雨宮さんをお姫様抱っこし、駆け出した。これには父兄も高齢者も声援を送っている生徒さえも、バカ騒ぎだ。気がつけば2位も1位も蹴散らし、トップでゴールインしていた。正直、僕が借りれる数少ない人がいなくなってしまったのは手痛いけれど彼の雨宮さんへの好意を知っているからか嫌な気持ちにはならなかった。


「次!日向がんばれよ!」


「うん。期待しないでね。」


「日向くんファイト!」


雨宮さんはいつもとなんら変わらないトーンで僕に声援を送ったけど、その頬は熱中症なんじゃないかと思うくらい、赤く染まっていた。


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