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太陽と月  作者: 高槻博
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第2家族は僕とにとっては第3の家族の中

時間というのは過ぎるのが早いもので、2週間の準備期間も最終日に差し掛かっていた。僕なりにかなり濃い2週間だったと思う。揉め事の方が多かったと思うし、練習もこんな残暑の残る暑い中でやるもんだからクタクタになったりもしたけど、ダンスの多数決の一件以来、後藤くんと理沙さんとも話す機会が少しあったりもしたので悪い気持ちにはならなかった。今になっても僕は2人の行動を理解することはできないけど、そんなに焦って理解しようとする事でもないんじゃないかな、と僕は思った。行事事とは凄いもので、他のクラスメイトと話す機会が何度かあった。もちろん僕に用があったとかそういわけじゃなくて、彼女や雨宮さん、八雲くんに用があって、一緒にいる僕にも話しかけたという感じだけど。


「おーい、たいよーくんー!探したよー!」


僕が図書室のベランダで黄昏ていると彼女は駆け寄ってきた。


「どうしたの?」


「どうしたのじゃない!猫じゃないんだから勝手にふらつかないでよね!首輪つけてペットにするよ!」


「それはペットじゃなくて奴隷にしか見えないと思うよ。」


「お!ナイス提案!」


「君にそんな残虐性があるとは思わなかったよ。」


「冗談ですよぉ〜」


「あ、そう。で、どうしたの?」


「あー!話が脱線しちゃったよ!えーとね、明日ママがお弁当作ってきてくれるんだけど、一緒に食べようってお話!あ、ちなみにパパは仕事だから大丈夫!」


「親が来るの?」


体育祭と聞けば、親が応援しにきたりすることは当たり前なんだろうけど、それは中学生までの話だ。高校生になって体育祭に人が集まる学校はそうそうないと思った。


「来るよ!!雫の親も来るって言ってたよ!」


「うちの学校の体育祭って親来る人多いんだね。」


「親だけじゃないよ!近所の高齢者から小学生まで招いてるからね!かなり大規模だよ!」


そんなに大規模だと知らなかった僕は体育祭出席への意欲が急激に右肩下がりになった。全校生徒に見られてるだけでも嫌だっていうのに幼少から年配まで出席なんてたまったもんじゃない。だけど、ここまで練習させられて、休むなんていうのもたまったもんじゃない。昔の僕なら迷わず休んでいただろうけど今回はそれはしない。僕が変わったなんて大層なことを言うつもりはない。現に僕が変わったなんて自分でもこれっぽっちも思ってない。変わったとするならば今いる環境だ。直接伝えることはないはないだろうけど、嫌でも休むことをしないのは僕のために尽くしてくれる彼女の期待に応えたくて、日頃相談に乗ってくれている雨宮さんに自分もやればできるってとこを見せたくて、付き合いは2人より浅いけどいつも優しくて男らしい八雲くんと楽しみたいからだ。


「やっぱり人が集まったりするのは嫌?」


「嫌だよ。」


「うーん。じゃあ休む?」


「ここで休んだら君は僕を幻滅するでしょ?」


「幻滅はしないよ!私のサポートが足りなかったんだなぁってなる!まぁ残念な気持ちにはなるだろうけど!」


「僕はそっちの方が嫌だよ。」


「ほへ?」


「なに、そのアホみたいな返事は。」


「太陽くんが変なこと言うからでしょ!」


「変なことは言ってないでしょ。」


「そうだけど、もしやなんか企んでる?」


「なんでそういう風になるの。そもそもなんかってなに。」


「そうだよね!違うよね。じゃあこれか!」


彼女は掛け声とともに僕のデコに触れてきた。


「うん!熱なし!体調よし!」


「バカにしてるでしょ。明日休むよ。」


「はぁー?さっきと言ってること真逆!」


「前言撤回だよ。」


「うけつけてませーん。」


「はいはい。」


「ていうか!そろそろ戻ろうよ!」


僕のせっかくの1人の時間が彼女によって騒がしい時間に塗り替えられてしまった。半分嫌で半分普通そんな心情だ。


「そうだね。」


「あ、じゃあ明日忘れないでね!お昼の時、私といなくても私の家族の場所まで来ること!」


「その件だけど、そこまで迷惑はかけられないし、1人で食べてたら死ぬってわけでもないから大丈夫だよ。」


「だってよ、ママ、泣かないでね。」


「うん。ママ我慢するわよ。帰ってくるまで我慢するから早く慰めてちょうだいね。笑」


彼女と彼女の母親が電話越しに話した。


「いつから繋いでたの。」


「太陽くんに声をかける前から?太陽くんを探しながらママと電話してたんだけど、太陽くん見つけてからも繋がってたみたい!」


なにをしてくれてんだ。僕は彼女から彼女のスマホを受け取り彼女の母親と通話することにした。


「こんにちわ。日向です。体育祭のご飯の件ですが、そこまでご迷惑かけられません。御気持ちだけで嬉しいです。」


僕は丁寧に断りをいれた。もちろん誘ってもらえたことは嬉しいし、彼女や雪ちゃんとご飯を食べたら楽しいだろうけど、家族でもない僕がそこまでしてもらうのはあまりにも申し訳なさすぎる。


「日向くん、ちょっと月から離れて。」


彼女の母親が電話越しでもわかるほど小声で言ったので、ベランダから図書室の中に入り、ベランダの鍵を閉め、彼女を締め出した。彼女は全く状況を理解してないようで、ベランダのドアをドンドンと叩きながら楽しそうに笑っている。きっと捕まった囚人ごっこでもしてるつもりなんだろう。


「離れました。」


「今回のお昼ことは月から言ってきたんだけど、そこに日向くんはおそらく家族の人がこないからって気持ちは少なからずあったと思う。でも根底にあるのは日向くんとご飯を食べたい。ただそれだけだと思うよ?そこは月の気持ち汲み取ってあげて?もちろんおばさんも迷惑だなんて思ってないし、嫌だとも思ってないわよ。前も言ったと思うけど息子ができたみたい、そう思ったの。だから、第2の家族だと思って思う存分わがまま言ってちょうだい。」


初めて食事をさせてもらった時同様、僕は家族らしいこの温もりに涙が出そうになった。


「わがままとかはさすがに言えませんけど、明日もご馳走になっても大丈夫ですか。」


「もちろんよ!おばさん腕によりをかけるわ!あとおばさんが登場するまでの会話聞いてたけど、日向くんも青春してるようで何よりだわ。じゃあ明日楽しみにしててちょうだいね。」


彼女の母親はそう言って電話を切った。僕はあの会話を聞かれたと思ったら一気に小っ恥ずかしくなり、明日どんな顔して会えばいいのか悩んだ。


ベランダに締め出した彼女はというと楽しそうだったのもあり、もうしばらくそこに放置しようとその場を去ったら、後々これでもかというくらいイジケられた。


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