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太陽と月  作者: 高槻博
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WIN-WIN

「どうして雨宮さんが謝るの?悪いのは僕だ。」


「私は自分の家から離れたく日向くんの背中を見ながら何かしらの理由があると察しながら、心のどこかで私たちと居たくないんだとかそんなことを考えてた。1人で葛藤してることを知らず、心配していたとか言って追い込んでたって思うと申し訳なくなって。」


雨宮さんのこんな表情は初めて見た。喜怒哀楽の激しい彼女と違って雨宮さんは表情を表に出すことが少ない。けれど今この瞬間は雨宮さんが落ち込んでいることを。僕が悪いのにも関わらず誠意を持って謝罪してきていることを感じることができた。これは僕が雨宮さんを理解しようとしているからなのか、それとも雨宮さんが理解してもらおうとしてるのか、それとも汲み取ろうとせずともわかるほどに落ち込んでいるのかはわからない。


「雨宮さんは何も悪くない。もちろん彼女も八雲くんだって悪くはない。全部僕の身勝手が引き起こした事態に過ぎないよ。3人と関わっていて、仲良くしてもらって気づいたことがあった。いや、再認識したことがあったんだ。僕はどうあがいても君らのようには生きられない。どうやったって物事を損得勘定で考えてしまう。そんな自分が嫌で一歩踏み出そうとしてもすぐ引いてしまい、無自覚に人に迷惑をかける。そんななら僕は少し前みたいに1人でいた方がいいのかもしれない。」


本心では1人でいた方がいいなんて思っていなかったし、みんなと居たいと思っている。だけどそれ以上にこれ以上迷惑はかけられないと思っている。最初はその生活に退屈な気分になるかもしれない、でも元の生活に戻るだけだ。僕には小説だってあるし、何ら問題はない。


「なんで日向くんが私たちのように生きなきゃいけないの?物事を損得勘定で考えちゃう?そんなの私だってそうだよ、私だって損得勘定で物事を考えてる。私は日向くんや月、空といれば楽しいだろうなっていう私の中の得の感情に従い、人を無闇に傷つけて何食わぬ顔でいる恩田くんといるとイライラしてしょうがないし、時間の無駄だっていう私の中の損の感情にしたがってる。大半の人がそうだよ。日向くんが本当に1人に戻りたいって思うなら私は関わらないし、月だって説得する。でもじゃあなんで日向くんはそんな顔をしてるの?」


雨宮さんは僕の顔を見て優しく微笑んだ。


「今はまだいいかもしれない。でもいつか本当に取り返しのつかないような迷惑をかけてしまうかもしれない。僕は君たちのことを大事に思ってるつもりだ。だからこそ取り返しのつかないことをしてしまったことを考えると1人になるのが最善なのかもしれないって思うんだ。」


僕がそういうと雨宮さんは床から立ち上がり僕を見下ろして話しだした。


「日向くん風にいうならば今が1歩踏み出せるか踏み出せないかな瀬戸際なんじゃないの?1人で何かをしようって思った時には必ず不安が付きまとうし、ネガティブな思考になる。それは万人に共通して言えることだと私は思う。1人で踏み出すのが怖いなら誰かの力を借りればいい。私はそう思うよ。友達関係ってWIN-WINじゃん?」


「WIN-WINは双方に利益のあること。僕が返せるものなんて何もないよ。」


「案外自分で何かをしたことって気づかないもんだよ?私からしたら日向くんは充分私たちに利益をもたらしてるよ。わかりやすい例をあげるなら台風の時、雪ちゃんを見つけたでしょ?あれは日向くんだからこそ出来たことでもしあそこで日向くんが見つけてなかったら、見つけるのがあと少し遅かってたら結果は180度変わってたかもしれない。あれは紛れもなく日向くんが日向くんの力で引き寄せた結果でしょ?日向くんは自分を過小評価しすぎだし、周りを過大評価しすぎだよ。もう少し視野を広くもって見な?違った結果が見えたりするよ。」


「それでも、」


僕がまたしてもネガティブな発言しようとすると雨宮さんが僕の言葉を遮断する。


「うじうじしすぎも良くない!結局は日向くんがどうしたいかでしょ。私も月も空も日向くんと仲良くしたいと思ってる。迷惑をかけるとか思ってるならそれはお互い様。私たちが迷惑をかけない保証なんてどこにもない。私が迷惑をかけたら叱ってくれていいし、私が困っていたら助けてほしい。そのかわり日向くんが迷惑をかけたら私が叱ってあげるし、困っていたら私が助けてあげる。それでこその友達でしょ?私たちが友達ならこの手を取りなさい!なんちゃって笑」


雨宮さんは柄にもなく右手を差し出しながら左を手を握り頭に手を当てた。僕はその手を迷うことなく握った。


「じゃあ行こっか、空も心配してるだろうし。」


「うん。」


「日向!!無事か!?」


僕らが立ち上がるとインターホンすら鳴らすことなく、忙しい足並みで八雲くんが僕の家に入ってきた。


「ほらね?みんな日向くんを心配してる。」


「無事だよ。昨日は本当にごめん。練習で疲れてる八雲くんが居るのを知りながら逃げたんだ。」


「詳しいことはなんでもいいわ!俺は雫が鬼の形相ででていくもんだから日向食われちったかと。」


「おい。さすがに人肉は食わないわ。私の推しは牛だわ!」


「牛を推したところで牛の乳は得られないぞ?慎ましく生きろよ。」


八雲くんがそういうといつも以上にメタメタにされていた。僕らは3人で笑ったけれど現在彼女の姿はなかった。

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