二重人格並みの変わりよう
もう到着したのかと思い、僕は忍び足でモニターまで向かった。この時は普段はこれ以上ないほど嫌な宗教勧誘の人だったらいいな。などと淡い期待を寄せたけれどそんな僕の期待は儚く散っていった。僕がモニター越しに用件を聞くとドスの聞く声で「早く開けて。」と言われた。雨宮さんの言われるがままに僕は扉を開ける。
「お邪魔します。」
雨宮さんはそういって僕の家にズカズカと入り込んできた。
「あ、えーとお茶でいいかな?」
「いらない。」
「あ、はい。」
そこで会話は終了し、雨宮さんは僕の家の椅子に堂々と座っていた。一応家の主人である僕はというと縮こまるどころか床に正座をしてもう既に虫の息だった。
「それでここまで来たけど何かいうことは無いの?」
「LINE返さずすいませんでした。」
「聞きたいことがたくさんあるんだけど。」
「はい。」
「どうして昨日何も言わず帰ったの?」
「体調の方が悪くて移したら悪いかと。」
「どうして昨日何も言わず帰ったの?」
「えーと、体調の方が悪くて移したら悪いかと。」
「どうして昨日何も言わず帰ったの?」
「だから、体調の方が悪くて移したら悪いかと。」
正座をしたまま怖くて下を俯いている僕に雨宮さんは容赦無く同じ質問を繰り返してきた。
「私は無視したことを怒ってないとは言わないけど別にそんなことでここまで怒らないよ。昨日夜遅くまで空が日向くんの家の前で帰りを待ってたのを知ってたでしょ?ちなみに空は日向くんの帰りが遅いから諦めて帰ったんじゃないからね。私が逃げるように自分の家を離れてく日向くんを見たから、空を無理矢理引っ張って帰っただけだから。そうでもしないと空は朝までだって居続けてたしね。」
僕の脳内では【なんで僕なんかのために】その言葉だけが大量に発生し消化できないでいた。
「なんで僕なんかのためにとか思ってるんだろうけど問題はそこじゃないでしょ。そこまで思ってくれる人がいながら日向くんはそれを簡単に踏みにじったんだよ。別にその時、空と話したくなかったらそう言えばいいじゃん。空はそういうところ空気読めるし、それで怒ったりもしない。」
「はい、ごめんなさい。」
僕が謝罪をすると雨宮さんは机を大きく叩いた。それに呼応したかのように雨宮さんの携帯が鳴った。僕はあいも変わらない姿勢で正座をしながら下を見ている。雨宮さんはしばらくコールを鳴らしたあと、電話に出た。
「うるさい。」
雨宮さんは冷たい声でそう言うとすぐさま電話を切ってしまった。
電話を切った直後、今度は僕の電話が鳴った。僕のスマホは雨宮さんが座っている椅子の前にある机に置いてあった。
僕はソーっと自分のスマホ取りに行き、電話の相手を確認する。そして僕は出ることをやめ、雨宮さんに相手がバレないようにソッとスマホを隠した。
「空でしょ?貸して。」
僕の隠蔽行為もすぐ見透かされてしまい、黙ってスマホを差し出した。
僕のスマホを手に取った雨宮さんはその着信にすぐさま応じ、またしても「うるさい。」と言い放った。今の流れからするに雨宮さんのスマホを鳴らしたのは八雲くんで間違い無いだろう。通話が切れると僕にスマホを返してきた。
「さっきは机叩いてごめん。」
「大丈夫。僕が悪いんだし。」
「今だって空はきっと心配して電話してきたんだと思う。私が早退して日向くんのとこに行ったんじゃないかって。それで私が通話を切るもんだから日向くんに電話して、そしたらまた私が出て、速攻で切られる。多分今頃、空は大慌てだろうね。」
僕は雨宮さんのそんな話にも下を向くことしかできなかった。




