現実逃避することは間違っているんだろうか
僕を我に戻した八雲くんを見た途端に僕がとった行動は逃げることだ。なぜ逃げたかはよくわからない、数分前まで八雲くんを彼女を雨宮さんを探していたはずだ。自分の意と反して矛盾した行動をとった。その日僕は人生で初めて仮病を使った。幸い考え事をしていたからか、顔色も優れてなかったようで先生の方から早退を勧めてくれた。本来なら友達に一言をかけていくのが普通なんだろうけど僕はそういう意味では普通じゃない。彼女、雨宮さん、八雲くんの3人と友達であるかさえ怪しくなってきたし、僕はその3人と友達でいる資格すら持っていないだろう。途方に暮れながら自宅に帰る気も起きない僕はスーパーに立ち寄った。これといって買い物するものはなかったけれど暇つぶしには丁度いい。何のアテもなくフラフラしながらお眼鏡に叶うものがあればと思った。スーパーのカートにカゴを入れ、しばらくボーッとしていた僕がふとカゴに視線をやるといつの間にか菓子パンやらデザートやら僕には似合わないものがたくさん入っていた。記憶にないものを入れるほど僕は血迷ったのかと思った。そもそもこんなに悩むことなんだろうか?そんな風にも思ったけれど、今までまともに人間関係を作ってこなかった僕は高校生までに拾わなきゃいけない常識がないからこんなにも悩んでいるんだろうと思った。どうせいつかぶち当たる壁だと思い、また僕は考え事をしだした。数分してまたカゴに目をやると今度は大量のおやつが入れられていた。ここで僕は流石にここまでは血迷ってないと思い直し、知り合いがいないか周りを見渡す。左右と正面を確認したけれど知っている人なんていなかった。すると後ろからクスクスという笑い声が聞こえた。僕は首が飛んで行くんじゃないかという勢いで180度振り向いた。
「太陽さん奇遇ですね!おサボリですか?」
「違うよ、体調不良で早退。」
「へぇー仮病なんですねー!」
この会話のキャッチボールが正常に行われないあたり彼女と話しているようだった。僕の認識では雪ちゃんはそういうタイプの人じゃない気がしてたんだけれど。
「そういう雪ちゃんはどうしたの?」
「私は創立記念日なので休みですよ!」
「それでこのカゴの中に入ってるものはどういうつもりで入れたの?」
「いや、最初は普通に太陽さんに声をかけようと思ったんですよ!でもなんか深刻そうな顔してましたし、ここいらでカゴにメロンパンを入れたら、すんなり会話に入れるかなぁと思ったんですけど驚いたことに気づかないんですもん!それで次入れたら気づくかな?気づかなかった。次こそは気づいて、気づかなかったを繰り返してるうちにいつのまにか気づかれないようにカゴに入れてくゲームに変わっちゃいました!」
「意外。雪ちゃんもお姉ちゃんみたいなことするんだね。」
「そりゃあ私だって子供ですし、お姉ちゃんと血を分けた姉妹なんですから似るところは似ますよ笑 ただお姉ちゃんがいるからそういうことは控えてるだけですよ笑」
僕からしたら中学3年生とは思えない大人の返答に驚いた。
「それはそれで窮屈じゃない?」
「別にそんなことないですよ?今回みたいなことを常日頃してたいわけじゃないですし、お姉ちゃんみたいなタイプがいるから太陽さんのイメージする普段の私であられてるわけで、だからといって別に猫かぶってるとかそういうわけじゃないですけど我慢してるとかじゃなくて、まぁなんていうか言葉にしにくいですけど私が楽しいようにやってるだけです笑」
僕が拾い忘れてきた常識を雪ちゃんはとうの昔に拾ってきてるんだなと思った。
「それでそんな深刻そうな顔してどうしました?」
「いや、なんでもないよ。」
「私の知ってる太陽さんは気難しい顔はしてますけどそんな深刻そうな顔はしてません!問い詰められたくないならそんなわかりやすく落ち込んでないで下さい!私はそれを知って流せるほど器用じゃないです。あ、だからといって悟られないように無理して振る舞えっていってるわけじゃないんですよ?」
近くにミラーなら鏡なりがあれば自分の顔を見てみることができるんだろうけど近くにそんなものはない。きっと僕は相当わかりやすく、深刻で落ち込んでいる顔をしてるんだろうと普段はあまり口数の多い方ではない雪ちゃんが彼女バリに話すことがそれを物語っている。
「ごめんごめん。でも女子に相談するだけならまだしも友達の妹に相談するのはちょっと僕が恥ずかしいし遠慮しとくよ。ありがとう。」
「そうですか!まぁ悩み過ぎもよくないですからね!」
「そうだ。こうしてても無駄に頭抱えちゃうし雪ちゃんの受験勉強でも図書館でしようか?」
「名案ですね!やりましょう!」
こうして僕は初の仮病を行うと同時に家に帰ることなく図書館へ勉強しに向かった。




