ママの超直感
「雫一緒にお風呂はいろー!」
「いってらっしゃい。」
「はーい!」
こんな噛み合わない会話も私たちにとっては日常茶飯事だ。素晴らしいほどにスルーされた私は1人お風呂場のある洗面所に向かう。階段をリズム良く降りていると雪が1階から上がってきた。
「お、雪ちゃーん!お姉ちゃまと一緒にお風呂に入りまちゅかー?」
雪とは喧嘩はしてしまったけれど太陽くんと雫の仲介もあり、仲直りすることができた。それ以来特に気まずくなることもなく、むしろ仲は喧嘩以前より向上したようにさえ感じる。
「いってらっしゃい。」
見事に雫と同じ返しをされた私は1人クスッと笑った。
私が雫に親近感が湧くのは雪という妹と返答などが似ているからで、雪に友達のように接することが出来るのは雫と雰囲気が似ているからだ。
「何1人で笑ってるの?」
「ないしょー!お風呂入ってくる!」
私は選抜リレーの選考でかいた汗を洗い流し、疲れを浴槽に浸かってとる。私は浴槽に浸かっている最中は1日を振り返ることが多い。性格上過去は振り返らない質だけれど、この時間だけはそれを許している。
「あーぁぁぁ。。」
浴槽に浸かったと同時に中年男性のような低い声が出た。どうやらそれをママに聞かれたようだ。
「あんた、女の子がなんて声あげてんのよ。」
「かわいかったでしょ?」
「ゴリラみたいだった」
実の娘に対して中年男性飛び越えまさかのゴリラ扱いなんて親の顔が見てみたいものだ。
「私がゴリラならその親のママはゴリラだね!」
「はいはい。」
ママくらいの年齢の大人になると私のこういった冗談にも飛びかかってきたりはしない。
「それよりあんた雫ちゃんから聞いたわよ。ママとパパがいない間、雪と喧嘩したんだって?」
雫がママにバラすなんて予想だにしなかったことだけど、わたしには雫を責めることはできない。事の発端は私たち姉妹の喧嘩から始まったんだもの。
「無言な間は肯定の意として捉えて大丈夫?」
「はい。ごめんなさい。」
2人の旅行中に留守を任されていたのに喧嘩をしてしまい、台風の中駆け回っていたんだから、叱られる覚悟はできていた。1歩間違えれば怪我人はおろか、死者だって出かねない状況だったもの。
「雫ちゃんがママに告げ口したとか思っちゃダメよ?」
「もちろんです。」
「だって本当に雫ちゃんからは何も聞いてないもの。」
「はい?」
風呂場の曇りガラス越しでママの表情は見えず、姿だけが捉えられる状況だったけど、謀られたことだけはすぐにわかった。それと同時に雫はこの喧嘩のことは言わないって約束してくれたのに信じなくてすいませんと心の中で深々と頭を下げた。そう心の中で。
しばらくの間無言の時間が続いたけれど、ママが洗面所を後にする前に「根掘り葉掘り聞く気はないし、どんな仲の良い姉妹でも喧嘩とか仲違いはするから最後仲直りすればそれでいいけど、それでも人様に迷惑かけるのは控えなさいよ。」と言われた。
ごめんなさいお母さん既に迷惑かけまくってます。雫の家にびしょびしょの姿で上がり込み、観測史上最強の台風の中、太陽くんに走り回ってもらっちゃいました。ここでママに人様に迷惑かけまくってましたって言おうと思ったけれど、隠すことにした。隠すことにはしたけれど私の心の片隅がチクチクと痛んだ。浴槽に浸かりながら少し落ち込んだけれど、やってしまったものはしゃあない、ちゃんと仲直りしたし切り替えていこう!と自分に言い聞かしてお風呂から上がった。
下着をつけながら、ママたちが帰ってきたときはちゃんと仲直りしていたのに喧嘩していたことに気づいちゃうなんて親とは末恐ろしいんだなと思ったけれど、私がいつかママになったときはそんな些細な変化にも気づいてあげられるママになりたいとも思った。
私は下着をつけるなり、急いで自分の部屋に上がっていく。
「雫お待たせ!」
「走ってこなくたって逃げやしないよ。」
「うししししし、さぁ恋バナをしようじゃないか!」
そう雫がお泊りに来たのは私の恋バナを聞いて欲しかったのと、あわよくば雫の恋バナを聞けないかなというやましい気持ちがあったからだ。あ、もちろん普通にお泊まりは楽しみだけどね?
「その格好で?」
「そうこの格好で!」
「本当に下着姿で家をウロウロする女子っているんだ。都市伝説並みに思ってたけど。」
「小さいことは気にしない気にしない!さぁスタート!」
私達のお泊まりはこれからが本番!夜は長い!




