それぞれの価値観と彼女からの鉄槌
5時間目の予鈴がなる頃にはクラスの全員が揃っていて担任の先生とルールを話し合った恩田くんから選考方法の説明があった。僕たちのクラスは男子が19人、女子が21人いる。男子は4、5、5、5に分かれ、女子は5、5、5、6に分かれ、各グループで上位2人が決勝進出となる。男子も女子も4グループあるので、決勝は8人での勝負ということになる。
選考方法は至って普通かつ妥当なものだった。各グループ1人が決勝進出になってたりすると、くじ運次第ではクラスで2番目に速い人が落とされたりもしてしまうからだ。
女子の予選から始めるということで女子はスタートラインにぞろぞろと移動し始める。僕は1人隅っこで準備体操をしていると八雲くんが近づいてきた。
「日向〜」
「なに。」
「露骨に嫌な顔すんなよ笑」
「元々こういう顔なんだけど。」
「内心は?」
「1人の方が楽。」
「じゃあ一緒に雫と夜科応援しよーぜー!」
完全に僕の意見を無視してくるあたり野球部の彼もまた話を聞かない人なんだろうか、強引にに女子のゴールラインに連れられた。周りの男子はそんな光景を物珍しそうに見る。普段の八雲くんがどんな生活を送っていたか詳しくはわからないが、恩田くんなどの中心メンバーと一緒にいたイメージがある。普段はニコニコしているイメージなんかがあるが、誰かの陰口を言ったりしているときは不満気な表情をしていたことが印象的だった。
「なんのつもりで僕に絡んでくるかわからないけど、周りの目見なよ。八雲くんの評価が下がるだけだよ。」
僕が言える範囲精一杯の皮肉を見つけると坊主頭の彼はそこらの地蔵ばりにキョトンとしてみせた。
「え、俺の評価下がるの?」
「周り見て見なよ。自分の株下げるだけだよ。」
「よくわかんねぇけど日向は卑屈なやつなんだな笑、別にそんなの関係ねぇし、俺が話したいやつと話したいときに話してるだけだろー、そんなんで評価や株が下がるなら勝手に下がってくださいって感じだわ!それにお前は自分過小評価しすぎだ!たしかにお前は夜科みたいに万人ウケするタイプじゃないけどお前の良さをわかってくれるやつはたくさんいるだろ。夜科も雫だってそう。俺はまだお前を語るほど知らないけど面白そうなやつだから話してるだけだし、シャキッとしろ!そんなんじゃこの後リレーで転ぶぞ!」
彼はそういうなり僕の背中をバチンと強く叩いた。それと同時に周りがざわつき出したので僕らの会話を見てざわついてるのかと恐る恐る周りに視線をやると、ただの自意識過剰のようで予選の1組目の彼女と雨宮さんが断トツのワンツーフィニッシュしていることに対してだった。
「日向のせいで見逃しちっただろー。」
彼女と雨宮さんは僕らを発見するなり、こっちに駆けてきた。
「どうだどうだ?見ちゃったか!!速いでしょ!!私1位!」
恐ろしいほどにテンションの高い彼女を見ているとなんだか笑えてきた。
「残念ながら見てなかったんだよなぁ。誰かさんのせいで。なぁ日向?」
「僕に振らないでよ。」
「月気をつけた方がいいよ。このハゲの見るポイントは私たちの走りじゃなくて胸だよ胸。」
「待て待て。言いがかりすぎだろ。そもそも雫に限っては見るほどのもんでもないだろ。」
バチン!!
彼の言い分を信用してないのかまたは話を聞いていないのか彼女は本日2度目ではあるが、彼を思いっきり叩き、彼は絵に描いたように飛んで行った。
「次は太陽くんね。」
「え、僕も?僕全然見ようとしてないよ。」
「問答無用!」
僕は彼の巻き添いで彼がくらった100分の1程度のビンタをくらった。
「八雲くんのせいで僕まで叩かれたけど。」
「あれは叩かれたって言わねーよ。叩かれたっていうのはこーゆーのをいうんだよ。」
彼はそういうなり自分の頬を指差して笑った。
「自業自得だよ。」




