クラスという名の縦社会
雨宮さんの看病のかいあって1日で体調も万全に近い状態になっていた。少しダルさを覚えたりもしたけど、これはきっと学校へ行くことへのだるさと未だ残る残暑に対してのダルさだろう。重い足を右左と動かし教室に入るとクラス全体の視線が僕に移る。主に男子からの視線が多かった。そんな悪目立ちするようなことをした覚えはこれぽっちもないので視線に気づかないふりをして自分の席に着く。僕が席に着くと数ある視線の中で最も鋭い目をしていた少年Aこと恩田くんが彼女の席に座って僕に接触を図ってきた。
「おはよ、日向くん。」
「おはよ。」
「体育祭のフォークダンス誰と踊るか決まったの?」
「いや。まだ。」
僕が彼の反感を買わないように嘘をついた。すぐにバレるというのに真実より今現在の自分の保身に走った。けど僕のそんな嘘は既に見抜かれていたようで彼は僕の口から真実を聞こうとしたんだろう。椅子を僕の机のところまで持ってきて周りに聞こえないように独り言のように囁いた。
「周りの視線の理由にも気づかないとか鈍感かよ。月と踊るのは俺だよ。」
彼の囁きで僕は周りの視線の意味にやっと気づく。不意に後ろを振り返るとフォークダンスのペアが決まった人から記入して下さいという紙に僕の名前と彼女の名前が表記されていた。視線の理由がわかって周りを見渡すと男子の目線が登校して来た時よりも悪意のこもった目だった。彼女は僕と踊ることを僕は彼女と踊ることを了承しても周りはそれを認めないという意思の表れだった。目立つのは嫌だけれど人に嫌われても嫌味を言われても特に傷つくことがない僕はそれをあっさり受け流す。
「あ、太陽くんおっはよーー!!」
既に登校していた彼女と雨宮さんは教室に姿はなかったが、視線の数がピークになったところで2人揃って現れた。
そうすると驚いたことに僕への視線は全てどっかに消えて無くなってしまった。きっと彼女の前では変に勘付かれて自分の印象を下げたくなかったんだろう。時折勘の良い彼女だが、全くクラスの雰囲気の異変を感じ取っている様子はなかったが隣にいた雨宮さんとは目があったので何かしら勘付いたのかもしれない。慣れとは怖いもので最初は驚いていた雨宮さんの勘の良さだったり洞察力も今では雨宮さんだからなと変に納得してしまうところがある。
2週間ある体育祭週間最初の時間は競技決め等に時間が割かれた。彼女が一生懸命僕の隣で話しかけれくるけれど僕は上の空でうんうんと答えているだけだった。
体育祭実行委員に名乗りを上げた恩田くんはリーダーシップをとって話し合いを進めていく。こんな善人面を振りまいてる彼に裏がると知ったらどう思うだろうか。クラスという1団体には社会と同じように序列がある。クラスを取り巻く中心グループがあってその人らを持ち上げる人がいてそれに従う人がいる。僕はクラスの序列でいうならそれのどこにも属さない底辺の底辺だ。そんな底辺の地味男が容姿の良い女子と踊るいうのだから反感を買うのは当然の報いだ。それでも彼女や雨宮さんと仲が良いのは脅してるからだとか弱みを握ってるなどの有らぬ噂が立っているようだが、それはひどく心外だ。
「太陽くんじゃあ約束だよ!?」
彼女は僕の手をグッと握ってそういった。僕が完全に上の空だった間に何かしらの話が進んでいるのは明白だった。そしていつの間にか彼女の席には雨宮さんもいた。
「え?」
「クラスの選抜リレー出るの約束ね!」
「え、やだよ。」
「さっき出るっていったじゃん!」
「そもそもあれって選考してやるもんでしょ。やりたいからやれるものじゃないでしょ。」
「でも日向くんさっき足に自信あるの?って聞いたらうんっていったよね?」
僕が上の空だったのを知っていて雨宮さんは僕に追撃を仕掛けてくる。こうなったら彼女も雨宮さんも僕の手には追えない。短い付き合いだがそれくらいはわかって来た。僕は2人に選考で勝てるよう努力することを誓った。




