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太陽と月  作者: 高槻博
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昔と今

久しぶりに家族の夢を見た。その夢は僕にとって懐かしいものであり、僕が昔から成長できていない何よりの証だ。内容は細かくは覚えていないけれど、父さん、母さん、小学校低学年の妹、僕の4人でどこかに出かけているんだけど僕を残していなくなってしまうというものだ。家族が亡くなって以来、風邪を引いた時やふとした時に見る夢は家族のものかヨーグルトおばけだ。家族の夢を見るたびに身体中に冷や汗をかき、家族が亡くなった日のことを鮮明に思い出す。亡くなったと報告を聞いたときは半信半疑で遺体を見た瞬間、一気に現実味を帯びて体全体の力が抜けたこと。葬儀が終わり、僕のことを誰が引き取るかと揉めているのを目の当たりにしたときは僕も死んでしまおうなんて思ったりしたこと。そんな中、母さんの姉とその家族が唯一快く引き取ってくれたこと。


家族が亡くなり、当然のように変わっていく環境の中で僕だけが変われずにいた。もしかたら突然家に戻ってきてるんじゃないかと元自宅に行ったり、これは夢なんじゃないかと顔が腫れるまで頰を叩いてたりちぎったりした。そんなんだから転校先の学校では馴染めるわけもないし、よくしてくれた第2の家族にまで心配をかけ続けた。僕だけが家族の影を追い続けていた。もう帰ってくるはずなんてないのに。


冷や汗も引いてきて現実に引き戻された頃、なんとも言えない香ばし匂いがあるのに気がついた。匂いの元をさると雨宮さんが作っていってくれたおかゆからだった。寝る前は体調が悪かったせいか嗅覚も鈍っていてこんなにもいい匂いだったことを知らなかった。お昼からまともに食事をとっていなかった僕は急な飢餓状態に苛まれたので暖めて美味しくいただいた。雨宮さんに感謝の言葉をLINEで送ると【私が日向くんの風邪移ったら看病してね。】との返信が来た。もちろんできる限りの協力はするけれど家族と住んでいる雨宮さん宅に僕が看病しにいったら確実に在らぬ誤解が生まれると思った。僕が上手い具合に返信をしようとたどたどしくキーボードを打っていると彼女からの着信がきた。スマホの時間を見ると夜の11時を回っていたのでまたしても雪ちゃんと喧嘩したのではないかと思い、慌てて着信に応える。


「もしもし。」


「あ、太陽くんバンチャ〜」


「なにその頭の悪そうな挨拶。」


「失礼な!この挨拶中学生の間で激流行りなんだよ!」


「太陽さんバンチャ〜」


「雪ちゃんもいたんだ、こんばんわ。」


雪ちゃんの声が登場したときに別に揉めたりしているわけじゃないことがわかったので安堵した。


「太陽くんもバンチャ〜でしょ?」


そんな頭の悪そうな挨拶は絶対にしないだろうけど強く押されたらどうせ渋々いうんだろうなと情けない自覚をする。


「雪ちゃん 、またお姉ちゃんにいじめられたりしてない?」


「もう雪は自分の部屋に戻ったよ〜それに私たちは仲良し姉妹だから喧嘩なんてしません〜」


どの口がそんなこと言えるんだと切実に思ったけれど言うとまた面倒なことになるので心の中でしっかり留めておく。


「それで何か要件があったんじゃないの?」


「そうそう!要件があったんだよ!いやぁ今日のお昼言おうと思って作戦立ててたんだけど言うのにも勇気いるし、なんか聞き間違いされるしね。だから電話で言おうと思って!思いだったが即日っていうでしょ!」


「思い立ったが吉日ね。」


「そうともいう。」


「そうとしか言わない。」


「じゃあその思い立ったらなんとかに従って要件をいうね!」


変に余計な溜めを作ったりするから言いにくくなるんじゃないかと思ったけれどまたしても心の中に留めておく。


「体育祭の最後にあるフォークダンス私と踊ろう!」


「え、いやだよ。」


「即答!?なんで!?」


「なんでそんな競技でないといけないのさ、他の競技を選ぶよ普通。」


僕がそうわけを話すと少し間が開いた。


「ん?」


彼女は電話越しに?マークを浮かべる。


「ん?」


僕は彼女の疑問形に疑問を浮かべる。


「太陽くんフォークダンスって全員参加だよ?」


「え。」


「あーでも太陽くんがイヤっていうなら他を当たらないとなぁ。どうしようかなぁ。早く相手見つけないと先生と踊って恥ずかしい思いすることになるしなぁ。」


彼女は僕から頭を下げろと言わんばかりに皮肉を次々と投げてきた。でもここで彼女の誘いに応じなかったら、あと僕がまともに話せる女子生徒なんてそれこそ雨宮さんくらいだ。もし雨宮さんが踊る人が決まってたなら、先生と踊るという最悪のパターンになってしまう。別に余ってしまい、先生と踊ることになってしまうのはいうほど嫌じゃないけれど、それによって目立ってしまうことだけは避けたい。


「いやさっきのはちょっと勘違いがあって君がいいならお願いします。」


「もう!仕方ないな!太陽くんが踊りたいっていうしいいよ!」


踊りたいなんて一言も言ってないけれどもちろん今この場でそんな爆弾を投下するほど僕は馬鹿ではない。


「ありがとう。」


「じゃあ今度踊りの練習するからね!おやすみ!」


そういって彼女は電話を切ったけれど僕はこの時、彼女と踊るということの意味を色んな意味で理解していなかった。


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