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太陽と月  作者: 高槻博
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2人の凄いは全くの別種だけど2人は凄い。

意識も朦朧とするなか、壁を支えに何とか玄関までたどり着く。覗き穴から覗くとそこには雨宮さんの姿があり、パニックに陥った。僕が慌てふためいていると痺れを切らしたのかもう1度インターホンが鳴った。僕はとりあえず扉を開ける。


「やぁ。体調はどうかね?」


「まぁなんとか。それより急にどうしたの?」


「お見舞い?みたいなかんじ。月も誘ったら来るだろうけど月誘ったら日向くんがここまで頑張った意味ないでしょ。」


「ありがとう。」


「どういたしまして。日向くんお母さんとかは何時頃帰ってくるの?」


「僕1人暮らしだから。」


「へぇ高校生なのに1人暮らしかぁ。すごいね。私は暮らせてく気しないよ。」


勘の鋭い雨宮さんだ。僕の口から言わずとも僕の家族事情が普通でないことをなんとなくは察してくれただろう。


「なら尚更看病してくれる人が必要だね。なんか作るから食欲が出てきた時にでも食べて。熱は計ったの?」


そこらのお母さんに負けない手際の良さでぱっぱぱっぱと作業進めていく。これで1人暮らしができないなら誰にもできやしない。


「計ってないよ。」


「なんで?」


「計った体温見たら急にだるくなるから計らないタイプ。」


「日向くんってたまにバカだよね。つべこべ言わず計る。」


そういうと雨宮さんは僕の顔に体温計を押し付けてきた。僕は押されたら負けるタイプだ。物事にもよるが大体の自分の意見なんて簡単にかなぐりすててしまう。言われるがままに体温を計った。


「39.8℃。」


「たっか。ほぼ40℃じゃん。」


「雨宮さんも移ったら大変だし帰って大丈夫だよ。」


「なに?私の看病がいやだっていうの?」


雨宮さんはそういって女子特有の凄みを出してきた。恩田くんに対しての態度といい雨宮さんは本当に貫禄のある女子だと思った。同時に怒らせてはいけないとも思った。今ならなんとなく父さんが母さんの尻に敷かれていたことを理解できる気がした。僕の家は基本的に母さんと妹の絶対王政だった。


「あ、お願いします。」


「はーい。」


僕はキッチンに背を向けて横になっていた。トントントンと手際のよい包丁の音が聞こえる。普段から料理しているのがわかるほど綺麗な音がした。あまりにリズミカルな音なもんだから目視で見たくなり、寝返りを打つ。横になったままキッチンに目を向けると雨宮さんと目が合った。


「寝ないの?寝れないの?」


「どっちも。」


「つまり寝る気がないのね。」


「昔から風邪をひくと夢を見るからね。なんとなくそれが嫌で。」


「どんな?」


雨宮さんは僕と会話しながらも手際よくリズミカルに作業を進めていく。僕は風邪をひいているせいか口がいつもよりやけに回る。


「ヨーグルトおばけの夢を見ることが多いかな。」


雨宮さんは柄にもなく彼女のようにゲラゲラと笑い出した。


「ちょっと包丁使ってんだから笑わせないでよ。」


ただでさえ恥ずかしいことを言ったとわかっているのに雨宮さんが予想以上に笑うもんだから僕の体温がまた1段と上がった気がした。


「まぁせっかくだし寝る気がないなら何か談笑しようか。何か話題振ってよ。」


「これ以上ない無茶振りだね。」


「まぁね。」


「恩田くんについてどう思う?」


「男としてはまずキモい。ナルシストだし、月への好意丸出しだし。月と仲の良い日向くん敵意むき出しだし。とにかく気に食わないね。日向くんはどう思う?」


僕が逆に聞かれるなんて考えもしてなかった。でもこれが普通の会話のキャッチボールだ。


「彼のことどう思ってるかはうまく説明できないけど、なんていうか彼の考えてることが理解できないかな。」


だってそうだ。僕から言わせてみれば誰かにあんなストレートに想いを伝えられる意味がわからないし、平気で人のものを盗る意味もわからない。想い人の友達ってだけで敵意を向けられる意味もわからないし、誰かに対してあんなふうに執着できる意味もわからないから。


「そりゃあそうでしょ。同じ人間とはいえ家族でもない兄弟でもない、ましてや血も繋がってない相手のこと理解するなんて無理な話でしょ。例えば私だって月のこと理解できてるかといえば、全然できてないと思うよ?親友っていう肩書きがあったって所詮元は赤の他人だもん。人間が10人いたら全員考え方が違うんだから理解できなくて当たり前だよ。簡単に人のことを理解したいっていうのはただの怠慢だよ。」


「じゃあ、考えるだけ無駄なのかな。」


「理解できないからと言って理解しようとしないのは違うと思うよ。大事なのは理解しようとすること。男ならできるかできないかじゃなくてやるかやらないかっていうでしょ?私さっき月のこと全然理解できてないって言ったけど他のクラスメートや日向くんよりは理解できてる自信はあるよ。だって理解しようとはしてきたしね。」


「雨宮さんには教えてもらうばかりだ。」


「柄にもなく熱く語ちゃった。」


雨宮さんは私生活から考えに芯があって同年代の人より大人だと思ってた。でも僕のそんな私見は大きく外れていた。雨宮さんは僕が思ってるよりずっと大人で僕が思ってるよりずっと相手のことを思ってて僕が思ってるよりずっと凄かった。


「雨宮さんも彼女もほんと凄い。」


本当に今日の僕は自分でもわかるほどに口が開く。


「ありがと。私からしたら日向くんも十分凄いよ。みんな違ってみんないいだよ。」


僕がその言葉を言っても全然意味がないだろうけど、ちゃんとした考えを持った雨宮さんがいうことで意味を持つような気がした。


「これ、おかゆ作ったから食べれるときに食べてね。あとこれ風邪薬と飲み物ね。明日は無理しないようにね。月にとか変な気を使わなくて大丈夫だよ。じゃあお大事に。」


「ありがとう。」


僕は重い体を持ち上げて雨宮さんを玄関まで見送ろうとする。そうすると雨宮さんが今日の彼女のような目で鋭く睨んできたので寝てろという無言の指示と受け取りありがたく横になった。



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