彼女と彼女の唯一無二の妹
「雪来てない?」
彼女は息を切らしながら明らかにおかしな様子で僕に聞いてきた。
「知らないよ、どうかした?」
「喧嘩して家から飛び出しちゃったの。だから心当たりあるとこ探してるんだけど見つからなくて。もし太陽くんの家来たら家に入れてあげて。」
そう言うなり彼女は背を向け、汗と雨で濡れ切ったTシャツで顔を拭いながら再び走ろうとした。それを見逃すほど僕もバカじゃないし天候もそんな甘くない。僕は咄嗟に彼女の腕を掴む。
「どうしたの?」
「君はバカなの?外の天気見なよ。君自身に何かあったら話にならないよ。」
「外の天気?そんなの知ってるよ。知ってるからこそ早く雪を探さないと。」
「そうだね。でも危ない。それにそんなびしょびしょで風邪ひくよ。」
「でも。」
「でもじゃない。そもそも僕の家に来た時点でもうほとんどアテなんてないんでしょ?雪ちゃんが僕のところに来る可能性はかなり低いしね。」
横殴りの雨で玄関まで濡れてきたこともあり、僕は彼女を無理やり家に入れる。さすがの彼女も観念したようで大人しく従っていた。
「これ、バスタオル。」
「ありがとう。」
「あと洗面所のとこに僕の学校のジャージ置いてあるからそれに着替えて。ちゃんと洗ってるからそこは心配しないで。」
「本当にごめん。」
「なにが?謝ることなんてなにもしてないでしょ。下着は流石に用意できないから濡れてるだろうけどそれで我慢して。」
普段の彼女ならエッチだとか何かしらの冷やかしを入れてくるのにそれが無い事が今の彼女の様子の異常を表している。僕は彼女が洗面所で着替えている最中に出かける用意をする。今まで使ったことのないカッパを着て気休めにもなるかもわからないが傘を用意する。僕の身支度が整った頃、彼女が僕のジャージを着て出てきた。
「太陽くんどっか行くの?」
「うん、雪ちゃん心配でしょ。僕が探してくる。」
「なら私も行く。」
「ダメ。」
「意味わかんない!太陽くんがよくて私がダメな理由なんてないでしょ!変なとこでお節介焼かないでよ。」
「お節介か。そうかもね。でもいつも君がしてることと変わらないでしょ。」
「そうだけど。」
「でもそんなお節介に僕は少なからず恩は感じてるんだ。ここらで少しその恩を返させて。」
「だったら私も行く。」
「足。怪我してるでしょ。そんなんで来られても足手まといなだけだよ。それに携帯に連絡してこなかったってことは今携帯持ってないでしょ。」
「持ってるよ、落として踏んで壊れたけど。」
そういうなり、彼女は自分の着ていた服からバリバリに割れたスマホを登場させた。
「とにかく怪我してて連絡手段のない君を外に出すわけには行かないから。それに雪ちゃんのことに関しては心当たりがある。」
「本当に?」
「うん。もし外れても必ず見つけてくるから。」
「ごめんね。本当にお願いします。」
彼女は僕の手を握り泣きながら「お願いします。ごめんね。」を繰り返し続けた。こんな表情の彼女を見るのは初めてだったこともあり、どうしたらいいかなんてわかりもしなかった。それでも彼女が雪ちゃんをどれだけ大切に思っているかは十分にわかった。喧嘩した理由も気になりはしたけどそれは僕が詮索することじゃない。
「見つけたら僕の自宅の電話にかけるから出てね。」
「わかった。」
「わかってると思うけど絶対に外に出ないでね。」
「わかった。」
コクコクと頷く彼女だが未だ動揺は抜けず僕を心配そうに見つめる。
そんな彼女の表情を見て僕は【ある行動】に出ると彼女の表情は少しだけ和らいだ。自分自身その【ある行動】をとったことに驚愕してしまったので彼女の和らいだ表情を確認するなりすぐさまやめた。
僕は彼女の心配を背に家を出て気休めの傘をさしながら雪ちゃんの捜索のため心当たりの場所へ向かおうとしたが、さすが気休めで持ってきた傘だ。ものの数秒で強風に煽られ骨組みだけになってしまった。僕は危なくないようにその骨組みだけになった傘を飛ばされないところに置き、意を決して走り出した。




