1年=365日の中の特別な日
ケーキを買い終えた僕たちは彼女の家まで徒歩で向かった。ケーキ屋さんからの距離はかなりあり、歩き疲れはしたが、雨宮さんが話し手に回ってくれたので、会話には困らなかった。彼女の家にたどり着くと2度目なのにも関わらず僕は妙な緊張感を覚える。
「待機。」
「え?」
雨宮さんはそういうなり僕のことを引っ張って物陰に隠れる。
「まだちょっと時間が早いからね。」
「集合時間決めてたの?」
「月のママとね。」
僕の理解力の足らないせいか、それとも雨宮さんの言葉足らずなのか、その両方なのかはわからないが、全く雨宮さんの言ってることが理解できなかった。
「私も月の誕生日まともに祝うの初めてだから。」
「そうなの?中学時代から仲良かったって聞いたけど。」
「そうだけど、中学時代は私と月、陸上部に入ってたから夏休み中も部活で会ってたからこういうのは初めてなの。」
雨宮さんと彼女が陸上部という初耳の情報の方が僕の頭の中に強く残ったが、今はそれを突っ込むところではないと思い、発しかけた言葉にブレーキをかける。
「とりあえず作戦を伝えるね。心して聞いて。」
「うん。」
雨宮さんはふざけ半分でシリアスな雰囲気を醸し出し、作戦を説明し出した。
「まず、月のママがベランダの鍵を開けといてくれるからそこから潜入。潜入に成功したらバレないように2階に登っていく。ここで月の部屋に入るんじゃなくて、雪ちゃんの部屋に入る。あ、雪ちゃんっていうのは妹ね。雪ちゃんの部屋と月の部屋はベランダがつながっているからベランダから月の部屋へ侵入。あらかじめ雪ちゃんが鍵を開けといてくれてるからクラッカーを鳴らしてハッピーバースデーね!質問は?」
「僕クラッカーなんて持ってきてないよ。」
「そこは抜かりなしだよ。」
そういってカバンの中から誕生日用のクラッカーを取り出し僕に分けてくれた。
「よし、じゃあ行くよ!ヘマしないでね。」
まるでコソ泥のように彼女の家に潜入する。1階のベランダから家内には難なく入ることができた。別に悪いことをしているわけではないのになんだか申し訳ない気持ちにもなる。キッチンを通ると彼女の母親がいたので、失礼のないように会釈で挨拶をすると優しい笑顔で返してくれた。2階に上がる道中1度躓いてしまい大きな音が出てしまったが彼女に気づかれることはなく、なんとか雪ちゃんの部屋に到着した。
「雫姉も太陽さんもお久しぶりです、お姉ちゃんは予定通り部屋にいて鍵も解錠済みです。」
雪ちゃんは小声で隣の部屋に聞こえないようにそして僕たち2人には聞こえるように言った。
「日向くんと雪ちゃん会ったことあるの?」
「まぁ、うん。」
「仲良しなのはいいことだね。よし、気を引き締めて最後の盛り上げといこう!」
「健闘を祈ります。」
「何言ってるの?雪ちゃんも行くよ。お姉ちゃんの驚き顔みたいでしょ?ほら、クラッカー持って。」
「ありがとう!」
小声なのにも関わらず喜びが表情だけで見て取れた。
そろりそろりとベランダを渡り、彼女の部屋を雨宮さんが覗くとこっちを見て指でカウントダウンをし始めた。
10、9、8と徐々に減っていくカウントにちょっとしたワクワク感と少しの緊張を覚える。
3、2、1、0とカウントダウンを終えると雨宮さんが勢いよくドアを開け、一斉にみんなで部屋に押しかける。
パカーーン!!!!!!!!!
「誕生日おめでとう!!!!」
僕にしては声を張ったつもりだったが僕の声は女性陣2人の声によってほとんどかき消されてしまった。
肝心の彼女はというとこれほどかというほど驚きを露わにし、落ち着いたかと思ったら大きな口を開け、呆然としてしまっていた。




