5号ケーキと16本のロウソク
彼女の誕生日の朝は文句なしの快晴で幕を開けた。快晴がよく似合うため、晴れたことを心より嬉しく思う。そして何より雨だと出かけるのが面倒になるので快晴で喜ばしい。朝9時家の近くの人気のケーキ屋さん付近で雨宮さんと集合になった僕は集合時間の15分前には到着し、なんとなく店名を検索して商品を閲覧していた。最近の流行りになっているだけあってお洒落で美味しそうなものばかりだ。
「おはよう、待った?」
「おはよう、今来たとこ。」
いつもよりトーンの低い声で登場した雨宮さんに嫌な予感をしながらも恐る恐る聞いてみる。
「あの、なんかあった?」
「ん?別に〜恩田くんを見かけただけだよ。」
見かけたというだけで機嫌がこんなにも悪くなるのなら彼にはとてつもない才能がある気がした。もちろんいい意味ではないが。そんな雨宮さんの言い分を半信半疑で聞き入れ、僕らは足並みをそろえてケーキ屋さんに向かう。店内に入ると想像以上に人が多くて並ばないといかない状況だった。
「最後尾あっちだね。並ぼ!」
さすがは雨宮さん。機嫌を引きずることなく、もうすっかり切り替えているようだった。
最後尾に並ぶとアルバイトであろう店員さんにメニューを渡される。さすが人気店舗だ。価格もそこらの安物よりひと回り程高かった。
「うわー、一杯あるね?ホールケーキでいいかな?」
「いいと思うよ。」
「なんのケーキがいいかな?」
「ベタだけどショートケーキ、チョコケーキ、チーズケーキあたりがいいんじゃないかな。」
「よし、じゃあそれのどれかにしよう!」
「雨宮さんはどれがいいとかないの?」
「日向くんがせっかく意見出したんだから文句なし採用でしょ!」
「僕をなんだと思ってるの。」
「別に変な意味じゃなくてね?なんというか前までは何でもいいんじゃない?とか、わかんないとか言ってたじゃん?だからお姉さんは嬉しいよ。」
言われてから気づいたが、確かにそうだ。心の中で思ったことがあっても口に出すことなんてほとんどなかった。僕が意見を言ったところで迷惑になることはあっても助けになることはないと思ってたからだ。今もそれは変わらないけれど、思っているだけでは何も変わらないことだけはわかった気がする。
「雨宮さんと僕は同級生だよ。それとも留年でもしたの?」
「え、それボケだよね?ていうか突っ込むとこそこ?」
「いや、まずそこかなと。」
「太陽くん頭いいのにおバカさんだね笑」
雨宮さんの今日1番の笑顔を見てとりあえず良かったのかと安堵した。
「あ、順番来たね!えーとこのショートケーキの5号1つで!」
「ロウソクはおつけしますか?」
「はい。16本で!」
「16本ですか?」
「16本なの?」
店員さんも自分の聞き間違いではないかと聞き返してきた。もちろん僕も聞き間違いではないかと雨宮さんに聞いた。
「はい、16本で!」
店員さんは少し驚きを見せた後、手際よくケーキを用意し出した。
「こういうのって大きいロウソク1本で10歳ぶんって数えるんじゃないの?」
「普通はね?あの子は普通じゃないでしょ?」
「すっかり忘れてたよ。彼女は普通じゃないね。」
支払金額が5000円と映ったので僕は女子に払わせるわけにはいかないと、大きなお世話かもしれないけれど福沢諭吉を店員に手渡した。ケーキを受け取り、お店を出ると雨宮さんが2500円手渡ししてきた。
「いいよ、大丈夫。」
「大丈夫じゃないよ、これは2人で月のために買ったケーキでしょ?日向くんだけ払ってどうするの。」
「じゃあ有り難く貰っておくよ。でもプレゼントの助言もしてもらったし、2000円で大丈夫だよ。」
「文句言わない。はい、全部受け取る。」
雨宮さんは彼女ばりの強引さで僕にお金を手渡ししてきた。
「でも、」
「あー喉乾いたね、さっき日向くんに渡しちゃったから、小銭無くなっちゃった。」
僕は頭に?マークが浮かんだが、割とすぐに雨宮さんの意図を理解した。
僕は雨宮さんにもらった500円を自販機に入れ、お茶を2本購入し、雨宮さんに1本手渡しする。
「これ、プレゼントの助言ももらったし、そのお礼。」
「じゃあ、お言葉に甘えていただきます。どっちが先に飲み終わるかでも競争する?笑」
「その競技はきっと僕も雨宮さんも向いてないよ。」
「そうだね、ついでに月は500ミリの炭酸一気飲みできるんだよ。」
「彼女はとても似合うよ。」




