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太陽と月  作者: 高槻博
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呼び出し

昨夜家に帰るなり、ぐっすり眠ってしまった僕はいつもより早めに目が覚める。

朝ごはんに昨日買った食パンを食べ、制服に着替えテレビを見てから家を出る。


僕は今日もまた彼女が家に来るのではないかと肝を冷やしていたが、そんな僕の考えは杞憂だった。


夜雨がふったんだろう。満開に咲いていた桜が無残に散り、薄汚れている。


僕はこう見えて、満開の桜を見るのは結構好きだ。

しかしそれ以上に花びらが無残に散り、道行く面々に踏まれ汚れていく花びらを見るのが嫌いだ。


「日向くん、おはよう。桜の花びらをジッと見て、どうしたの?」


背後から聞き覚えのある声の持ち主に話しかけられた。それは昨日彼女から紹介のあった雨宮雫さんだ。僕はこんな気持ちを理解されるとも思ってないし、わざわざ口に出して言うのも気恥ずかしいので雨宮さんの質問に「どうもしてないよ。」と答えた。


「この汚れた花びらを見るのは嫌だな。とか思ってたんでしょ?」


昨日も感じたことだが、僕の内心は雨宮さんにバレバレのようだ。

これは雨宮さんが観察力に優れているのか、それとも僕がわかりやすい性格なのか、それともその両方なのかはわからなかったが、とりあえず僕は負けを認めてコクリと一度頷いた。

雨宮さんは「私も。」と言ってその場を去って行った。


隣の席の彼女は僕より一足先に学校に来ていたようだ。彼女の性格上目があうなり拡散機のような声で挨拶をしてくると思っていたが、昨日の話を聞いて気を使ってくれたのかはわからないが、小声で「おはよ。」と挨拶を交わしてきた。僕はよそよそしくはあるが、一度会釈をし、席に着いた。


1時間目、2時間目、3時間目と僕にとっていつもとなんら変わらない時間が過ぎて行った。

成長することをあきらめ、今の安泰を選んだ僕にとって、なんら変わらない時間というのは平和の象徴だ。


そんな時間を打破してきたのは、やはり隣の席の彼女だった。

4時間目が始まる前にお手洗いを済ませ、席の戻ってきたときのことだった。


僕の机にはノートの切れ端が綺麗に折り畳まれて置いてあった。

周りを見渡すと彼女と目があったので、すぐに彼女の仕業だとわかった。


嫌な予感しかしない。

授業が始まってしばらく経ってから、僕は綺麗に折りたたまれたノートの切れ端を1つ1つ広げていく。

そこには切れ端いっぱいに『昼休み屋上に集合!』と書いてあった。横目で彼女を見ると彼女は親指をしっかり立てグッドポーズをしていた。


正直、屋上に行くのは嫌だし、休み時間を削られ本を読めなくなるのも嫌だが、押されたら断れないたちなので、渋々行くことにした。


とりあえず、授業に集中しようと努力したが、僕の些細な努力が実ることはなかった。

彼女はなんのために僕を呼び出したのだろうか。それが気になって仕方なかった。それは期待とか楽しみとかそういう感情ではなく、面倒ごとには巻き込まれたくないとかそういう感情だ。

しかし、僕がなんのために呼び出されたか考えたって無意味だと思ったし、天真爛漫な彼女の考えを読もうなんてもっと無意味だと思ったので、再び授業に集中する努力をすることした。




 

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