変わり始める僕と変わらない彼女
「遅いぞー!」
図書室に行くと彼女が図書室で待ちくたびれているようだった。校庭にでもいるんじゃないかという声量で声をあげた。
「ごめん。でもここは校庭じゃないんだからさ。」
「知ってるよ?急にどうしたの?変なの〜笑」
キョトンとした顔で何当たり前のこと言ってるのくらいの感覚で彼女は言った。僕が言葉足らずということもあったが、それくらいは理解してほしい。
「君の声がデカイから遠回しに注意したんだよ」
「あっいっけね!」
彼女はウケを狙うつもりだったのか拳を頭に当て、最上のぶりっ子をかましてきた。
「ちょっと!そんなマジな顔で引かれたら普通に恥ずかしいでしょ!ボケだよボケ!」
「僕にそのタイプのボケを使うのやめたほうがいいよ。ところでテストの順位の方はどうだったの?」
「もう太陽くんったらセッカチなんだから!」
「じゃあいいよ、聞かない。じゃあね。」
「ちょっと待って!!そういうノリでしょう!帰らないでよ!」
「僕もこういうノリだよ。帰らないよ。」
そういうと彼女はケラケラ笑いながら席に腰をかけた。
「太陽くんもノリを習得してきたかぁ。笑」
「まぁね。」
「そうだそうだ、テストの点数だったね。その結果がこちらです!」
彼女が嬉しそうに鞄から取り出したテスの結果には学年19位の数字が刻まれていた。テスト返却の時点で目標を達成したことはわかってはいたが、前回180位の人がここまで成績を上げてくるとは思いもしなかった。先生もびっくりしてるに違いないし、職員室の話題にはなっただろう。
「よかったね。それで僕は何をすればいいの?お昼も言ったけど、常識の範囲内で頼むよ。」
「勿体ぶるのもなんだから言うけど、私のお願いは太陽くんとデートっていうのでどうかな?」
「遠慮しておくよ。」
僕がそう言うとすかさず反論してきた。
「ちゃんと常識の範囲内でしょ!」
僕の予想通り彼女の常識の範囲内は広かった。
いや、もしかしたら僕の常識の範囲内が狭かったのかもしれない。
「デートっていう響きが違う。」
「体裁なんてどうでもいいわ!夏休み私とあそびにいく!それでいいね?」
ずっと思ってたことだが、彼女は本当に物好きだと思う。仲良くしてくれるまでに収まらず、夏休みまで遊ぼうとしてくるのだから。それこそクラスの少年AからRのクラスメイトが言うように優しさだけで僕と仲良くしてくれてるんじゃないかなと思うほどに。けれど真相なんて考えたところで僕にわかるはずもない。それは彼女のみぞ知ることだ。
「わかったよ。」
「太陽くん出会ったばっかの頃からだいぶ変わったね。あ、もちろんいい方にだよ?なんか上から目線だけど笑」
「人間は簡単に変わらないよ。そういう君はいい意味で変わらなくてブレないね。」
「太陽くんが私を褒めるなんて珍しいね!背筋がぞくぞくするよ笑」
「じゃあもう言わないよ。もう用も済んだし帰ろう。」
「もっと褒めて!!太陽くんのテスト結果はどれだーー」
そういうなり僕のカバンをゴソゴソ漁り始めた。
「恥ずかしいからやめてよ。」
僕は彼女から鞄を取り上げようとする。
「さては私より順位低いんだなぁ??」
「そうだよ。そうだから勝手に見ないで。」
「あったーー!」
彼女は紙を掲げその後、結果を拝見しだした。
「1位じゃん!騙したな!」
「騙される方が悪いよ。」
「人を騙す悪い人にはこうしてやる!」
彼女は騒ぎだして僕の鞄をひっくり返した。
僕の鞄中身は言うまでもなく地べたに無残に広がった。
「ちょっと何してんの。」
「早く片付けないと置いてっちゃうからねー!」
彼女は満面の笑みで言った。
僕はそんな彼女の笑顔を見て、こう言う風景は高校生にとっていたって平凡な日常なんだろうと思ったけれど、そんな平凡な日常が続いて欲しいと切実に思った。
入学当初の僕はこんな気持ちを抱くなんて微塵も思ってなかっただろう。