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太陽と月  作者: 高槻博
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本当の想い

部活動見学も昨日で終わり、放課後は何をしようか。スーパーに行かなければ。

そんなことを考えていると、いつの間にか放課後になっていた。

教室からみるみる人が消えていく。僕もそれに賛同するように席を立つ。

廊下に出ると僕の前にはまたしても彼女が立っている。

しかし、昨日や今朝とは雰囲気が違うことに気づいた。

僕でも彼女が怒っていることだけはわかった。

怒っている理由はもちろんわからないが。。。。

自分の中で危険信号が出たので、僕は忍者のように忍び足でその場を去ろうとする。


「待ってよ。」


僕の危険信号が的中した。

僕は忍び足を止める。


「今から何するの?」


「スーパーで買い物。」


「私も行く。」


拒否する勇気が僕にはなかったので渋々了承する。


僕の家のすぐ近くに位置するスーパーへの道中彼女は何も喋らない。

春風で桜の木が揺れる音だけが僕の耳に聴こえる。


スーパーに着くと、僕は毎朝恒例の食パンを手にする。

そのあとはパンのお供であるイチゴジャム、牛乳を手に取る。

最後に夕食に食べるお惣菜を手に取り、レジに並んだ。

彼女は紙パックのカフェオレを手にしていたので、

「一緒に会計してたら?」と言ったが、「大丈夫。」と断られてしまった。


会計を済ませ、袋に商品を詰めていると小声で「次は?」と聞かれた。

僕は「家。」と答えると、彼女が「今度は私の用事に付き合って。」と言ってきた。

別に僕は買い物に付き合ってと頼んだつもりはないが、なぜか様子の違う彼女に免じて付き合うことにした。


彼女に黙ってついて行くと、海にたどり着いた。

4月中旬の海は浜風が強く、肌寒い。

彼女は近くのベンチに腰を掛けた。

彼女がベンチを手で軽く何度か叩いたので、座れという意味だと思い、人2人分ほどの距離を開けて腰を掛けた。

長い間沈黙が続いた。沈黙の時間が何分ほど経つだろうか。

日も沈み始め、本格的に寒さを感じ始める。

彼女は何がしたいんだろうか。

そういった疑問を抱いた僕は彼女の顔に視線を移す。

彼女も僕の視線に気づいたのか、こちらを見る。

彼女は一息、いや二息ほど、大きく、そしてゆっくり深呼吸をした。


「太陽くんは私のこと嫌い?」


「嫌いじゃないよ。」


「でも私のこと避けてるよね?」


「そんなことないよ。」


「嘘つかないで。太陽くんは私のこと避けてるよ。本当のこと話して。話してくれるまで帰さないから。」


半ば強引かつ傲慢だとは思ったが、彼女の真剣な顔を見て、本当に帰してくれそうになかったので正直に話すことにした。

そして何より4月の海は寒い。早く帰りたい。


「君のこと嫌いじゃないよ。むしろなんの取り柄もなくて地味な僕を気にかけてくれるなんて、君はとてもいい人なんだと思う。それでも僕はある日を境に人と関わるのが嫌になったんだ。そうしてしまう方が楽になるからね。自分の殻に閉じこもってしまえば恥をかかずに済む、傷つかずに済むって気づいたからね。」


流れで余計なことを言ってしまったことに気づいた。

今更聞かなかったことにしてなんて言えないので、帰ろうとベンチを立つと彼女が僕の二の腕を掴んできた。


「座って。まだ話は終わってないよ。」


本当のこと話したんだから帰ってもいいだろうと思ったけれど、またしても彼女の真剣な顔を見てその気持ちを抑える。


「ある日を境にって何があったの?」


知り合って数日、初めて話してから2日目の人間に対してズカズカとプライベートな話に踏み込んでくることに対して、かなりの疑問と少々の苛立ちを覚えたが、人との関わりが少ない僕は人間関係とはこんなもんなんだろうと思い、会話を続けた。


「それは言いたくないけど、君のこと嫌いじゃないのは本当だから。」


「あれ?じゃあ、なんで今日私が友達だよね?って聞いても反応してくれなかったの?」


「人と関わりたくないってことは、目立ちたくないってこと。君といると否が応でも目立つ。」


「人と関わらないと人として成長しないでしょ!」


「僕は未来の成長じゃなくて今の安泰を選んだんだよ。」


彼女は「ふーーん」と納得してなさそうな顔を浮かべた。


「まあ、私のこと嫌いじゃないってわかっただけでも良しとしよう!暗くなったし帰ろっか!」


最後までなぜ彼女が怒っているかはわからなかったが、余計なことを話してしまった気恥ずかしさからか、すぐさまその場を離れたくなったので、浜風の吹く海を後にした。





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