頑固な僕は良くないことが起こる確信を抱く。
「日向くんちょっといいかな?」
机に突っ伏して子供のふて寝のような真似をしている僕に一人のクラスメートが声をかけてきた。声に聞き覚えのあった僕は寝たフリをしてその場をやり過ごそうとする。しかしそのクラスメートは僕の体をゆすり、起きるよう促してきた。寝たフリを継続するわけにも行かないので渾身の演技で寝起きのフリをする。
「日向くん、俺部活休みだから放課後勉強教えてくれない?部活ばっかで勉強全然わからなくなちゃっててさ。」
ゆくっり顔を上げると僕の人物予想はしっかりと当たっていたが、その人物の表情と言動は明らかにいつもと違うもので予想外だった。
「いや僕そういうの向いてないし。」
「いや大丈夫だから!あと月と雨宮さんも誘っといて!よろしくな日向くん!場所は図書室で!」
僕の返事を聞く間も無く、彼は男子の輪の中に戻っていった。
彼が僕に笑顔で話しかける姿を見て何かしらの策があると思っていたが、あからさまに彼女を誘うようにいっていたので目的は明らかだった。彼女に勉強の妨げをしないよう言われていたのでそんな誘いもできるわけもなく、休み時間も勉強に励んでいる彼女と雨宮さんに視線を移すと、雨宮さんが心配そうにこちらを見ていた。おそらく雨宮さんも彼の僕への視線に気づいていたんだろう。僕はすぐに視線を外し、どうこの修羅場を抜けるかを考えることにした。授業中も休み時間も昼休みも使って僕は考えたが、打開策は浮かばなかった。だからと言って勉強の妨げになるような真似はしたくなかった。
昼休みも終わる頃、僕の前の席に雨宮さんが座ってきた。
「別に盗み聞きしてたわけじゃないけど放課後大丈夫なの?普段の対応から見るに好意で誘われてないよね。狙いは月?」
やはり雨宮さんは彼の悪意ある対応に気づいていて、彼の彼女への好意にさえ勘付いていた。
「大丈夫だと思うよ。狙いはわからないけど僕ではないのは確かだよ。」
「大丈夫じゃなさそうだから聞いてるんだよ?日向くんの嘘を私が見抜けないと思ってるの?」
僕の嘘なんて容易く見抜いてきた。
「正直どうするか迷ってる。とりあえず僕だけ行こうかなと。」
「私たち行こうか?」
「君らに迷惑かけたくないし、勉強の邪魔はしない約束だから大丈夫だよ。」
そういうと雨宮さんが珍しく大きなため息をつき、いつもクールな雰囲気を少し緩めたあと、いつも以上に締まった顔に戻った。
「日向くんもう少し周り頼りなよ。一人でできることって限られてるし、どんな人でも一人じゃ限界がある。頑張るのと無理するのじゃ訳が違うよ。別に赤の他人に頼れっていってるんじゃないでしょ。私たち友達なんだから頼りなよ。私だって力を貸して欲しい時があれば頼るんだし。」
確かに僕は一人で過ごしてきたからか人を頼るということが他の人より少ないと思う。雨宮さんの言う通りで誰かに頼らなきゃいけないことはあるんだと思う。だけど誰かに頼ることが簡単にできる人ばかりじゃない。頼るということはある程度信頼しているというこだ。雨宮さんが僕を友達だといってくれたことにさえ驚いてた僕が雨宮さんを頼るのも簡単じゃない。
「確かにね。これからはそうするよ。だけど今回は大丈夫。彼女に勉強教えてあげて。」
彼からの誘いを嫌悪している彼女を誘うのも気が引けた僕はなんとかするよう雨宮さんに説得する。
「日向くんって意外と頑固なんだね笑放課後はある程度月に教えたら月に勉強は家でするよういっとくから、月に教え終わり次第私が図書室いくよ。それが最大の譲歩。恩田くんのいつもの日向くんへの表情を知ってて見逃せるほど私はスカしてないからね。」
彼女にも引けを取らないくらい強引に雨宮さんは物事を片付けた。拒否することなんてできるわけもなく、それを了承した。
「私もできるだけ早く行けるようにするから、それまで一人で頑張ってね!」
話も終えた頃、教室に姿のなかった彼女が教室に戻ってきたので雨宮さんも彼女の指導に戻っていった。
実際のところ雨宮さんがきてくれるということで少し安心はしたが、依然僕の不安は変わらず何かしらよくないことが起こるという確信を抱きながら放課後を迎えた。




