失う苦しみと一人の苦しみそれを天秤にかけた時
「僕が前に海である日を境に人と関わるのは嫌になったって言ったの覚えてる?」
「うん。覚えてる。」
「気づいてるかもしれないけど、僕は実の家族がいないんだ。両親と妹3人とも中学の頃事故でなくなってる。ある日を境にっていうのはその日のこと。僕はそれから誰かと関わろうとすることはなくなった。なぜなら自分のなかで大事な人を作れば、その人がいなくなった時、その人を思っていた分だけ苦しみになって返ってくることを知ってるから。君はどういうつもりか知らないけど一人で居続けられる僕が強いって言ったけれど全然そんなことなくて、ただそれ以上の苦しみから逃げてるだけ。でも今日君や君のお母さん、雪ちゃんと鍋を囲んで本当に楽しかった。涙の理由は僕にもわからない。不快な思いさせてごめん。」
本音を話して羞恥の心が先に立つと思っていたが、なぜだか僕の心は少しだけ軽くなっていた。
「何を謝る必要があるの?むしろ謝らなくちゃいけないのは私。太陽くんの事情もろくすっぽ知らないで辛いことを無理強いするようなことしてごめん。」
彼女は涙ぐみながら僕に謝罪をしてきた。
「君の言ってることの方が正しいんだし謝ることはないよ。僕だって本当はこのことと向き合わなくちゃいけないんだ。君は優しいからクラスで一人の僕に話しかけたりしてくれたんだろうけど、もう無理する必要ないよ。」
僕がそういうと彼女はブランコから腰を上げ、僕の背後に回った。
「私は太陽くんが思うほど優しい人間じゃないよ。最初に太陽くんに話しかけたのは興味があったから。交換ノートを始めたのは太陽くんのこともっと知りたかったから。料理を作ったのは私の長所を見て欲しかったから。今日呼んだのは私の自慢の家族を見て欲しかったから。太陽くんの成長がなんだとか理由をつけて結局は全部自分のため。ただの自己中野郎だよ。」
彼女は僕の背後を右に左に、そしてまた右にとゆっくり移動しながらそう言った。
僕は何も返答できず、ただただ黙っている事しか出来なかった。
口先だけで何かをいうのは簡単なんだろうけど、彼女の芯の通った意見の前では全て無だと思ったからだ。
しばらくの間、沈黙が続き、その間も彼女は僕の背後をゆっくりと右へ左へ歩いている。
もうすっかり暗くなり、人通りも少なくなってきた彼女の足音だけが僕の耳に入る。またそこからしばらくすると彼女は僕の真後ろで足を止めた。
「太陽くんは嫌がるだろうけどさ、私はもっとこれからもっと太陽くんと仲良くしたいんだけどダメかな?」
「僕は根暗だし、ひねくれてるし、仲良くしたっていい事ないよ?」
「そう?太陽くんと仲良くできるじゃん。」
「それ恥ずかしくないの?」
「恥ずかしいよ?勇気出してるもん。これも成長かな。」
「君が嫌じゃないならこれまで通りクラスメートでいてくれるとありがたいです。」
「何それ笑一年間はどうやってもクラスメートでしょ!友達って言って!」
「嫌だよ、そんに恥ずかしいこと言うわけない。」
「じゃあ、はいかいいえで答えさせたあげる。私とこれまで通り友達でいてくれる?」
「はい。」
「ほんとにほんと?」
「うん。」
彼女は「やったーーーー!」と喜びを体全体で表現するように謎のダンスを踊っている。
「太陽くんも私と友達で居たいなんて照れちゃうなぁ!!!!」
彼女は僕の頭を容赦なくバチバチと叩き続けてきたが、今日だけは許そうと潔く叩かれた。