目から雫が落ちた時
「どうよ?私の自慢の妹は?」
「雪ちゃんは君と違って本当にいい子だと思うよ。」
確かに彼女が自慢したくなるわけだと僕は思った。
「太陽くんあっという間に雪と仲良くなったね!それに雪のこと雪ちゃんって呼んでたよね?アルファベット少女じゃないの?笑」
「君という共通の話題があったからね。それに少年Aとか少女Aっていうのはあくまで例えだからね。」
「つまり私のおかげで二人は仲良くなったというわけだ!私ったらいないところでも活躍しちゃうなんて罪な女だね!」
彼女のなんでもポジティブに考えるところを僕も見習いたいものだ。心の底からそう思った。
「あーーーーーお鍋の匂いがしてきたよ!!」
「そう?わからないよ。」
「この匂いはキムチ鍋とよんだ!」
彼女のこういった野生的なところには驚かされることは多々ある。
「太陽くんはなんのお鍋が好き?」
「わりとなんでも好きだよ。」
「なんでもって会話にならないでしょ!太陽くんデートでどこ行きたいって話になってもどこでもいいっていうタイプでしょ!!」
「知らないけど多分そうだと思うよ。」
「かあああああああ。」
おっさんのような声を上げながら彼女はソファーに寝転んだ。
「二人とも鍋ができましたよーー席についてくださぁい。」
雪ちゃんに言われ彼女は勢いよく起き上がり席に着く。僕も手招きされ、言われた席に座る。
そうすると席には豪華なキムチ鍋が用意された。
「ほら!やっぱキムチ鍋!ビンゴッ!!」
「すごいね、美味しそう。」
僕が本音をこぼしたことに彼女は驚いたような顔をした。
「今日はやけに素直じゃん!熱でもあるの?」
「熱があったらここにいないよ。」
「たしかに!!!!」
「さぁ、冷めないうちに食べましょ!」
彼女の母親も席に着き、四人で手を合わせいただきますをした。
みんなで一斉に鍋をよそい、周りが食べ出すのを見て僕が一口食べると彼女の母親が「辛くない?」と気を使ってくれたので「本当に美味しいです。」と素直に感想を述べた。
それから鍋を食べながら色々な話をした。
学校での話から私生活までの話まで。
もう気がつく頃には鍋も完食し空の鍋だけがテーブルに残っていた。
「そうだ!太陽くんが買ってくれたケーキをデザートに食そうではないか!!!」
彼女がそういうと雪ちゃんが「お姉もたまにはいいこと言うね!」と皮肉を重ねながらデザートを食べることに同意した。
彼女の家に来る前はとても嫌だったし、緊張だってしていたのに今では本当に居心地が良かった。
「はい!ケーキ持ってきたよ〜!」
「太陽くんは何食べたい?」
「僕が食べたら君のお父さんのぶんなくなっちゃうし大丈夫だよ。」
「パパはダイエット中だし大丈夫だよ!」と彼女は言う。
「これを買ってきたのが男の人だって知ったら倒れちゃうしね。」と雪ちゃん。
「せっかく四人ぶんあるんだし食べましょ。」と二人のお母さん。
そんな三人からの勧めに僕は甘んじてケーキをいただくことした。
彼女にはショートケーキ。
雪ちゃんにはチョコケーキ。
彼女の母親にはモンブラン。
僕にはチーズケーキが配られた。
「こうやってご飯とか食べたりしてると息子ができたみたいでとても面白いわね笑」
「私もお兄ちゃんできたみたいだった!」
「太陽くんどうしたの?」
心配そうに僕を見つめ、話の腰を折った彼女の言葉の意味がわからなかった。
彼女の言葉の意味がわからなかった僕だが、すぐさま自分の異変に気付く。目から涙が出てきていた。
「あれ?」
僕は何度か涙を拭ったが止まることはなかった。
「太陽さん大丈夫ですか?」
ふと我に帰ると心配そうに僕のことを見ている三人の姿があった。
「すいません、用事を思い出したので帰ります。今日は本当にありがとうございました。ご飯とても美味しかったです。ケーキはお父さんに上げてください。おじゃましました、失礼します。」
僕は深々と頭を下げ、逃げるように彼女の家を後にした。
彼女の家から僕の家は徒歩五分ほどの距離しかないのにも関わらず極度の脱力感に追われ道中の公園に立ち寄り一人ブランコに腰をかけた。
しばらく休んでいると息を切らした彼女が隣のブランコに腰をかけた。