月と雪
「たっだいまぁ!!長女、月!帰宅しましたぁ!」
彼女の騒がしく派手な声に引き寄せられたかのように彼女の母親であろう人が出てきた。
「あら、いらっしゃい〜」
一瞬、彼女のお姉さんではないのかと思ったが、先ほど彼女は長女であると帰宅の際、豪語していたので母親であることを認知した。
「初めまして。月さんと同じクラスメイトの日向太陽です。これつまらないものですが食べてください。」
帰りの際買ったケーキを彼女の母親に渡した。
「わざわざありがとう。気を使わなくて大丈夫よ。いつも月がお世話になってるでしょうし。」
「そうでしょ?私は白菜持ってけば安心だっていったんだよ!あとママ!太陽くんは私がお世話してるの!」
彼女のコメントを聞くなり、彼女の母親はニコリと笑みをこぼした。
「まだ夕飯の支度ができてないからリビングで待っててちょうだい。」
母親の指示に従うように僕は彼女にリビングへ案内された。リビングへ行くと彼女の妹であろう人物の姿が見えた。
「紹介するね!妹の雪!中学三年生ね!」
「月さんのクラスメイトの日向太陽です。おじゃましてます。」
「雪です!お姉ちゃんがいつもお世話になってます!今日はゆっくりしていってくださいね!」
「こらっ雪!勘違いしちゃいけないのは私が太陽くんをお世話してるんだからね!」
先ほど行った会話を繰り返してるのを見てこれがデジャブというやつかと僕は一人感心する。
「じゃあ私は着替えてくるから、そこのソファーにでも腰を掛けててくださいな!」
出会って数秒の僕らをリビングに置き去りにして彼女は部屋を出ていってしまった。
「普通、お互い初対面の人を二人きりにしませんよね笑」
どうやら妹さんも同じことを考えていたようだ。
「お姉ちゃんといるの体力使いませんか?」
本来、年上である僕が話題を作らなければいけないのだが、妹さんが気を利かして会話を作ってくれた。
「そうですね。いつも元気なんで振り回されっぱなしです。」
「年上なんですからタメ口でお願いします!確かに太陽さん優しそうですし、お姉ちゃんのわがまま聞いてくれちゃいそうですもんね笑」
「ワガママというか自由?みたいな感じですごいと思ってるよ。」
「私とお姉ちゃんは太陽さんから見て似てますか?」
「顔は似てると思うけど性格は妹さんの方がしっかりしてると思うよ。」
「雪でいいですよ!私がしっかりしてるというより、お姉ちゃんがダラシないだけだと思いますよ!部屋は汚いし、風呂上がりは下着姿でウロウロしてますし笑」
失礼かもしれないけれど、そんな彼女のだらしのない姿は容易に想像ができた。
「まるで雪ちゃんの方がお姉さんだね。」
「部屋着に着替えて再び参上!!!!」
彼女は勢いよく入ってきて報告してきたがすぐさま僕たちを見るなり騒ぎ出した。
「二人ともいつの間に仲良くなってたの!?ていうかなんの話してたの!私も混ぜて!」
「君がダラシないって話。」
「お姉ちゃんが風呂上がり下着姿で部屋をウロウロしてるって話。」
僕らの話を聞くなり、「風呂上がりは暑いんだから仕方ない!」とまたズレたことを言いながらいつも以上に騒いでいる。そんな彼女の姿を見て、思わず二人とも笑ってしまった。
「いや太陽くん聞いてよ!雪なんか料理できないんだよ?女子としてどうかと思わない?」
「料理はできるよ!」
キッパリと雪ちゃんがそういうと彼女は吹くように大爆笑を繰り出した。
「あれを料理とは言わないよ?あれは罰ゲームとかで食べさせられる系統の食べ物だよ!今度太陽くんにも見せてあげたいものだよ。。」
中身がへっぽこな彼女が料理ができて、中身がしっかりしている雪ちゃんが料理ができないという意外な事実を知ってしまった僕は見た目で人は判断しちゃいけないなと思った。
「雪ちょっと手伝って!」
「はぁーい!」
彼女の母親から呼ばれた雪ちゃんはキッチンへ向かって行ったため、広いリビングで彼女と二人きりになってしまった。