名前のない感情それは。
「で、何があったわけ?」
好きな女の部屋に入ったというのに現状が理由で全くの邪念がなかった俺は第一声に雫に問いた。
「何がって?それはこっちのセリフなんだけど。話したいって言ったのはそっちでしょ?」
「ん?ああ、そうだったな。」
俺は一通りことの顛末を話した。それと一緒に日向と夜科の誹謗中傷が書かれた紙を見せた。
「はぁ。色々言いたい事はあるけど、まずこれ教室のは間違いなく全部剥がしたんだよね?」
「多分。」
「まぁ、そこはありがとう。明日私も早目に登校して見てみる。」
「それは助かる。俺も早目にいくよ。」
「ありがとう。で、空はこれ全部読んだの?」
「いや、半分読んでねぇ。めっちゃあったし。」
「まぁそうだよね。全部読んだならこれを私に持ってこようとはしないもんね。」
「いや、持ってきたぞ。多分。」
「空は持ってこないよ。だってこれ私の悪口も書いてあるもん。」
俺はそれを聞いた瞬間自分の読める範囲で一気に紙に書いてある誹謗中傷を読み出した。
その間、雫は静かに俺の姿を見ていた。爪の甘い俺を哀れと思っているのか、それとも自分の悪口を持ってきたクソ男と思っているのかわからないが、そんな雫の心を読み取ると雫の顔を見ることができなかった。
「雫、ほんとに悪りぃ。悪気があったわけじゃねぇんだ。」
「はぁ。そんなのわかってるよ。顔を上げて。私はこんなの気にしないタイプだってわかってるでしょ?とりあえず現状はわかったよ。相談してくれてありがとう。」
顔を上げるの雫がニコりと笑ってくれたので心がスッとした。
「で、雫は何があった?」
「ん?別に何も?」
「ここまできたんだから腹割って話そうぜ。一応雫のことは俺なりに見てきたつもりだから様子が可笑しかったことくらい分かるわ。」
「どんだけ見てんのよ笑。あんたのそういうところには敵わないわ。」
どんだけ?雫が思っている以上にだ。と思ったけど流石にそれは自分でキモいってわかったから口を噤んだ。
「周りの観察だったら雫の方が何倍も長けてるだろ。まぁそんな話はさておき話せよ。」
「長くなるよ?」
「別にいいよ。」
「いやん。そうやって夜までいるつもり?いやらしぃ。」
「雫、俺真面目に聞いてんだわ。濁すなよ。」
「ごめん、ごめん話せばいいんでしょ。」
さっきとは逆の展開となり、俺は雫からことの顛末を聞いた。
正直にいうと途中からあまり話が入ってきてなかった。
理由は数え上げるとキリがない。
そこまで仲良かったわけじゃないし、良いやつだとも思ってはいなかったけど、恩田は友達だ。そいつがそんなことをしていたこと。
俺が雫にも日向にも夜科にも相談をされなかったこと。
俺が相談されるに値しなかったこと。
怒り、ショック、不甲斐なさ、どれも違う感情がこみ上げてきた俺は恩田の家に乗り込もうと決意し、立ち上がった。




