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太陽と月  作者: 高槻博
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私は夜科月が嫌いだったけど大好きだ。

私は夜科月という人間が嫌いだった。同時に夜科月という人間が嫌いだった私自身が嫌いだった。私たちが仲良くなったのは中学からのできことで、最初の方は視界に入れたくないほど嫌いだった。幼少期から私は表情をあまり表に出さない子だった。それでも親は可愛がってくれたし、愛してくれた。だけど近所の人からは優秀で手のかからない子だけど可愛げがないという風に言われていた。全員に好かれるということが無理だとわかっている私は別に悲しくはなかった。だからと言って諦めていたわけじゃない。挨拶もしたし、好かれようとする努力はしていた。そんな中で教室で視界に映る夜科月という女はいつだって天真爛漫で周りに笑顔を振りまいていた。私にはどうしてもそのことが鬱陶しくてたまらなかった。おそらく嫉妬していたのだろう。なんの努力もせず笑顔が可愛らしい、明るいというだけで万人から好かれる夜科月に。

最初の頃はそんな印象でいつだって視界のどこかにはいた。だけどある日の部活が休みだった放課後の教室に忘れ物をしたので取りに行くと、いつもは笑顔を振り向いている子が気難しい顔をしてノートとにらめっこしていた。会いたくない子とあってしまったので、何気なく忘れ物を回収して帰ろうと思ったけど、笑顔の神(勝手に命名)と言えるあの子をこんなにも悩ませるノートとは一体なんなんだろうと無性に気になった。私は背後から声をかける。


「ねぇ夜科さん。」


ピクリともしない。


「ねぇ夜科さん!」


声を大きくしたがまるで反応がなかった。


「ねぇ。」


肩に触れながら声をかけると異常なくらい驚きをあらわにし、にらめっこしていたノートを咄嗟に閉じた。


「どうしたの、雨宮さん!」


ノートを隠した彼女はいつも通りの笑顔に戻っていた。咄嗟にノートを隠したということは中身を知られたくないんだろう。知られたくないものの中身を詮索したら嫌われるかもしれないということは容易にわかったけど、そこに関しては恐れるものはなかった。嫌われるかもしれないけど私はすでに夜科月を嫌っていたし、嫌われるどうこうより笑顔の神を悩ませる内容の方が気になった。


「そのノートは?」


「まさか雨宮さん見ちゃったの!?きゃあーー恥ずかしい!」


私がノートの中身を見たんだと勘違いしたんだろう。顔を手で隠し頰が赤く染まってるのを必死に隠そうとしていた。


「見たよ。」


私はこの勘違いを有効活用しない手はないと咄嗟の機転で嘘をついた。


「誰にも言わないでね?」


「そのノートをよく見せてくれたら誰にも言わないよ。」


「え!何それ酷い!」


私も自身ででかなりのクズ発言だと思った。


「見せてくれないなら明日クラスの人に言っちゃお。」


私がそれをいうと慌ただしくノートを差し出してきた。

ノートの表紙にはわざとらしく大々的に【国語!!!!!!!】と記されていた。

1ページめくるとそこには出席番号1番の子の好きなもの、好きな話等が書かれていた。

さらにもう1ページめくると出席番号2番の子に関して同様のこと、次のページには3番の子のことが書かれていた。私は心底驚いた。1度目を合わせたら友達になってしまいそうな彼女がこんないかにも友達づくりが苦手な人が書いてそうなものを書いていたのだから。


「どうしてこれ書いてるの?別に友達づくり苦手でもないだろうに。」


私がそういうと彼女はキョトンとした顔でいってきた。


「ん?別に苦手とかじゃないし、むしろ得意だけど、どうせ話すならその子の好きなこと話してた方が相手は嬉しいでしょ?」


「でもそれって気使って自分が好きでもないこと話してめんどくさくないの?」


「私は相手が楽しそうに話してくれてたらそれで楽しいから十分なんだ!!!」


私は彼女の言葉に感銘を受けた。こんな人付き合いが上手い子でもこんなに努力してるんだと思った。なにも努力をしないでとか思ってた私を殴りたい。今だから言えるけどこの時、声をかけていなかったら、この時、ノートのことを聞いてなかったら今の私はいなかった。


「すごいね。」


「そう?私はね、雨宮さんとも仲良くなりたいと思ってたんだよ!」


私も彼女と仲良くなりたいと思った。先ほどまでは嫌いだとか思ってて手のひらを返すスピードには我ながら驚いたけど仲良くなりたいと切実に思った。


「奇遇だね。私もだよ。」


「やった!!私のこと月って呼んでよ!私も雫って呼ぶから!」


さすがコミニュケーションお化けだと思った。距離の詰め方が恐ろしい。


「それより、月さ、私のノートの内容酷くない?」


私のことに関しては、

雨宮雫ちゃん名前以外詳細不明、だけど気が合いそうなので友達になりたい。話す機会があればまず朝食はご飯派かパン派かを聞きたいと思う。と綴ってあった。これは感情を表に出さない私でも笑った。


それから私たちが親友という肩書きになるまではそう遠くなかった。今では月が大好きだ。親友として。だから私は親友の恋路を邪魔する恩田が嫌いだ。嫌いだけど今日体育祭の打ち上げに来なかった彼が放課後にあった私との出来事で来なかったんじゃないかと少し心配になった。


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