カレーの具材は何派?
日も暮れはじめ、薄暗くなっていく道を彼女はご機嫌に鼻歌交じりで歩く。
「太陽くんはカレーの具材は何派?」
「話の腰を折るようで申し訳ないけど、同情でこんなことされてもありがた迷惑なだけだよ。別にこんなことされたいわけでもないし。」
僕はこのご機嫌な雰囲気に水を差した。
「1人で食べるより2人で食べた方が同じ料理でも美味しく感じるでしょ?」
「教室でも1人だし慣れてるよ。」
「同情の気持ちがほんの少しもないっていったら多分それは嘘になると思うけど、どっちかっていうといい機会だし私の女子力を見せつけてやろう!って感じかな!」
「君は料理と無縁な人だと思ってたけど。」
「太陽くんは本当に失礼な人だねぇ。」
変わらずご機嫌な彼女は口が休まない。
「で、太陽くんは具材何派?」
「特にこれといって好みはないけれど基本的にカレーは好きだよ。」
「じゃあ、具材等は私に任せてね!」
「うん。」
「お。太陽くんが私に素直に従うなんて珍しいね!さっきも無理矢理帰らされると思ってたよ!」
「君が料理に自信があるっていうから一任してるだけだし、さっきも無理矢理帰らそうとしたら、君が近所の人に聞こえるようにあらぬことを叫び出すからでしょ。」
「んーー?何のことー?忘れちゃった!」
「君の脳大丈夫?」
「都合の悪いことは削除機能ついてるから!」
「随分と都合のいい脳だね。羨ましいよ。」
スーパーに着くなり、手際よく材料を選ぶ彼女をみて、買い物慣れはしているようだと察知し、料理に自信がるという言葉を全く信用していなかった僕は少し安堵する。
スーパーから出ると、空も暗くなっていたので、帰らなくていいのかと聞くと母親に連絡済みのスマートフォンの画面を見せてきたので連絡したのかと思っていたら画面には雨宮さんの家でご飯を食べるとの連絡をしていた。
「僕の家はいつの間に雨宮さんの家になったの。」
「だってママならまだしもパパに私が男子の家にいってるんて知れたら卒倒しちゃうよ?」
「そりゃあ一大事だ。」
「でしょ?そういうこと!」
娘が生まれたらお父さんはみんなそんなになるのかと思いながら僕の家へ歩いて行った。
料理中も悪魔のような料理が出てくることを危惧して、時々覗いていたが、それは僕の取り越し苦労だったようだ。
出来たてのカレーを盛った皿が僕の前に出された。
「はい、そうぞ!旦那様いただいてくださぁい!!」
「いただきます。」
僕は手を合わせ彼女の作ったカレーを食べようとする。
「ちょっと私の奥様ぶりは無視!?」
「冗談でも笑えないから無視でいいかと。」
「ノリ悪!!」
「ありがとう。」
「いや、褒めてないけど!?貶してるよ!?」
僕は気を取り直してカレーに手を付ける。
一口食べると僕は反射的に口を開く。
「美味しい。美味しいよ。」
「美味しい2回もいただきましたぁ!」
彼女は得意げな顔でこちらを見ているが、今回ばかりは許してやることにする。
カレーを2人で全て食べ終え、ふと時計を見ると20時を回ろうとしていた。
「近くまで送るよ。」
「お!珍しく紳士じゃん!明日は雪?かな?」
この期に及んでまで彼女は僕をからかいにくる。
「それは異常気象だね。ご飯まで作ってもらったんだ。このくらいしないと僕の気分が悪いからね。」
「そうそう、こんな可愛い子、世界中の不審者が放っておかないよね!」
「だいぶ、自己評価が高いんだね。不審者が現れても残念ながら僕は役に立ちそうにないよ。」
「頼りなっ!腕細いもんね!」
彼女は僕の二の腕を掴んでそう言ったが、僕の腕を掴む彼女の腕はもっと細かった。
僕の家から徒歩5分ほど歩いた。
「もう家すぐそこだから大丈夫だよ!送ってくれてありがとう!」
「僕の方もごちそうさま。」
「こちらこそ食料代出してくれてありがとう!」
彼女は「明日ね!」というなり、背中を向けて走って行った。
彼女に今日のことを一応口止めしておこうと思ったが、交換ノートのことをバレてしまってるとはいえ、親友の雨宮さんにさえ言ってないのだから大丈夫だろうと思った。
それからというもの1ヶ月ほど時はたったが、意外にも週に一度の交換ノートを続けていた。そして今日は僕がノートを受け取る日だった。




