面白いほどにまっすぐの彼女と面白いほどにツンデレな彼
「雨宮さんの顔怖いね。」
「こらこら、そういうことは心の中で留めておくもんだよ。」
「僕は雨宮さんから思ったことを言葉にしないとわからないって教わったからね。その知識を活用させてもらっただけだよ。」
「日向くんが言っていいこととダメなことの判断もできないなんて正直残念だよ。笑」
雨宮さんはやれやれという顔を向けながらそう言った。
「雨宮さんが今の発言を冗談だとわかってくれないなんて僕は正直残念だよ。笑」
「私は日向くんが冗談だとわかってることをわかってくれなかったことが残念だよ。笑」
僕がやれやれという表情を向けながらいうと雨宮さんは同じ顔を僕に返しながら言った。
そして僕は察した。これは終わりのない戦いになると。
そして僕は新たなことがわかった。普段姉御的な存在の雨宮さんだけどやはり同級生だってことだ。もちろん実年齢的な話じゃなくて精神年齢的な話で。今までも何度か見え隠れしてはいたが、時に大人気なさ?負けず嫌いなとこが顔を出したりする。
「まぁ何はともあれ、私は今かなり上機嫌だよ。」
「恩田くんを撃退することができたもんね。」
「まぁ撃退はできたけど、それに関しては全く納得してないよ?懲らしめるくらいのことはしてやらないとね。まぁ私的にまずは奪われたノートを取り返さないとね。」
それに関しては僕も雨宮さんに激しく同意だ。ノートを取られてからしばらく経つけれど僕はあのノートのことを常々考えている。それはノートが大事なのはもちろんだけど、交換ノートという存在を大事に楽しみそうにしていた彼女があれから何も言わず待っていてくれている。もしかしたら忘れているとかそう言ったことなのかもしれないけど、こういったことは有耶無耶にはしてはいけないと思う。
「それに関しては僕の方でなんとかしようと思ってる。」
「そうなんだ!頑張って!私にできることあったらなんでもするから!ただしエッチいのは無しだよ?」
「雨宮さんも彼女みたいな冗談を言うようになってきちゃったのが心の底から残念だよ。」
「まぁまぁそれはさておき、私は嬉しいよ。私は日向くんのこと友達だと思ってるし、日向くんも私のこと友達だと思ってくれていたかもしれないけど、どっかで距離を置かれてた感があったからさ。日向くんの本音が聞けて嬉しいよ。あんなこと聞いちゃったら微弱ながら力戦奮闘したくなっちゃうよね。」
「僕も雨宮さんの冴えなくて優柔不断で頼り甲斐がなくて男前じゃなくて、弱々しくて、何考えてるかわからなくて、鈍感で、面白くないボケをかましてくるって言う本音を聞けてよかったよ。」
「ちょっと!心の底からの皮肉にしか聞こえないけど!大事なのはそのあとでしょ。。。。」
「ごめん。そのあとは忘れたよ。」
「へぇそういうこと言うんだ。」
「へぇ私を省いて2人で仲良くするんだ。」
僕と雨宮さんが会話をしていると彼女が唐突に現れた。
「別に君を省いてったてわけじゃないけど。」
「そうだよ、月はダンス部のダンスに夢中だったじゃん。」
「そうだけど!そうなんだけど!私たちはこのあと勝負の明暗を分ける戦いに挑むわけじゃん?声かけてもらえないのは寂しいじゃん!気づいたら2人ともいないし、焦りまくりだよ!」
彼女の額から流れる汗でどれだけ急いで来たのか、どれだけ探し回ったのかが見てとれた。
「まぁこのことは私の優しさに免じて不問としましょう。てことでリレー絶対勝つぞーーー!エイエイオー!」
「………」
「全く2人ともノリ悪いんだから!気を取り直して、エイエイオー!!」
「………」
「2人とも気合が大事!さぁ三度めの正直!私に続いてエイエイオーでよろしく!エイエイオー!」
「エイエイオー。」
この声の主は当然雨宮さんでも僕でもない。この低く男らしい声は八雲くんだった。
「お、空。」
「さすが八雲くん!私に続いてくれてありがとう!」
「おう。別にいいんだよ?別にいいんだけど俺なんか省かれすぎじゃね?」
「空はイジラレ役を確立してきたね!重要な存在だよ。」
「そんな役別に嬉しくねぇよ。」
「大丈夫、八雲くん。私もさっきまで省かれてたから。」
彼女が珍しくフォローに回ってるのを見てなんだか和んだ。
「それにしても空も省かれたと思って私たちを探すなんて可愛いとこあるじゃん。」
「別にそういうのじゃねぇよ。たまたまトイレ来たら声がしたからよっただけだ。」
この八雲くんの嘘は僕でもわかった。なぜならトイレは外にあるし、彼の額にも彼女に負けないくらいの大量の汗が流れていたのだから。




