頭を崩すには足場から
午後の競技は午前にも増して皆ヒートアップしており、疲れを感じさせないものがあった。出る種目の少ない僕がこんなにもバテバテなのに皆が元気なのはきっと気合いの違いなんだろうと感じた。
午後の競技も中盤に差し掛かり、次の競技が騎馬戦なので男子が次々と立ち上がり出した。騎馬戦といえば4人1組で馬を組み、帽子を取り合うといったゲームだ。男子は次々と上半身裸になり、戦闘態勢に入っていった。
「日向くんは出ないの?」
「僕の上半身裸なんて誰も見たくないよ。」
「騎馬戦って別に上半身を見せ合う競技でもないでしょ笑」
雨宮さんのいっていることは確かだけど、僕には筋肉を自慢する暑苦しい集団にしか見えなかった。そう強く思わせる理由がある。それは騎馬戦に出場しない男子は全員細身で弱々しそうだからだ。各クラス4騎ずつ出すことになっていて僕らのクラスの男子は19人だから3人出場しない人がいるんだけど、その3人ともが前記に当てはまってしまっているからだ。
「まぁでも確かに日向くんは戦闘力低そうだし、あーゆうのは向いてなさそうだね。」
「僕は頭脳戦タイプだからね。」
「でも日向くん心理戦弱そうじゃん。」
「まぁね。」
僕らがそんな会話をしていると競技が始まったようで男子の雄叫びとともに騎馬が立ち上がった。混戦していることもあり、誰が誰かなんてさっぱりわからなかったけど、僕には向いてない競技だと再認識することができた。
「私もあれやりたい!!」
女子なのにそんな闘争本能むき出しの人もいるんだなぁと思ったけど声の主は間違いなく彼女だった。それも独り言でも他に人に言ってるわけでもなく、僕らに向かって言ってきた。
「君がやるとうっかり騎手の首を捥いでしまいそうだし、諦めることを推奨するよ。」
僕がいうと雨宮さんが続く。
「そんなに脱ぎたいなら勝手に脱げば?」
それを聞いた彼女はケラケラと笑った。
「私はどこのゴリラだよ!!それに私は騎馬戦で脱ぎたいからやりたいんじゃなくて帽子をバッサバッサと取り上げたいからなの!!人を裸族みたいな扱いしないで!!」
「家ではすっぽんぽんのくせに。」
雨宮さんの一言で反論の余地もなくなり、悔しそうに唇を噛み締めていた。
僕らがそんなくだらない会話を繰り広げていくうちにいつの間にか騎馬がほとんどなくなっており、残りの騎馬は数えるほどになっていた。
「お、空残ってるじゃーん。」
「ほんとだ!!山田くんファイトーーー!」
彼女が大声援を送ると八雲くんからは「山田じゃねぇ!!!」と返ってきた。
客観的に見ると騎馬戦で勝ち残る方法は主に2つで逃げ続けるか、または勝ち続けるかだ。八雲くんはきっと勝ち進んできたんだろう。土台の3人には他の騎馬から奪い取ったであろう帽子が被せられていた。
それからも八雲くんは驚異の戦闘能力で次々と騎馬を倒していった。そのとき僕は八雲くんらの弱点に気づく。それは土台の弱さだ。もしかしたらその言い方には語弊があるかもしれない、厳密にいえば騎手が強すぎることだ。本来土台には体がしっかりしている人を置くものだけど戦闘に特化した八雲くんの騎馬は騎手の八雲くんが1番体が大きかった。そのせいもあり、八雲くんが動くたびに騎馬が崩れそうになっていた。僕は崩れないことだけを祈りながら心の中で応援していた。しかし僕の応援も虚しく、それから少し後に土台の人の「もう無理!」という声とともに崩れてしまった。それも最後の一騎との最終対決を前にして。そうしてあっけなく終わった騎馬戦を見て雨宮さんは腹を抱えながら大爆笑していた。
「本当に空らしい!腹痛い爆笑」




