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太陽と月  作者: 高槻博
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僕らは出会う

キーンコーンカーンコーン


チャイムの鐘と同時に6時間目の授業が終わり、クラスは和気あいあいとする。しかし友達1人いない僕にとっては心境の変化など授業中とさほど変わりはない。


高校に入学して1週間も経たない僕たち新入生は放課後になると、各自で部活動を見学することになっている。

僕は1人文芸部を1時間ほど見学して帰りの帰路を辿る。学校から徒歩20分ほどに位置する僕の家に着くと、ある忘れ物に気づく。


それは鍵だ。


両親と妹を中学の頃、事故で亡くした僕は母の姉とその家族と住んでいたが、妙な居ずらさを感じ、図々しくはあるが、高校入学と同時に1人暮らしを始めた。

1人暮らしの僕に誰かが帰ってくるまで待つという選択は勿論ない。学校に戻る1択だ。

今さっき歩いてきたばかりの岐路をもう1度辿る。


教室に入ると1人のクラスメートがいた。隣の席の夜科月さんだ。

高校に入学して友達の1人も出来ない僕が女子になど話しかけられる訳もなく、そっと鍵を入手して帰ろうとすると、彼女は唐突に話し掛けてきた。


「あっ!日向太陽くん!太陽くんじゃん!」


いきなりの名前呼びに多少動揺した。


「うん、よく知ってるね。」


「そりゃあ、知ってるよ。隣の席だからね!ていうか知らない方が、可笑しいよ!」


「そっか。」


「太陽くんは今帰りかい?」


「うん。」


鍵を忘れたという経緯を話すのが面倒なので、僕は一言で答えた。


「よし、じゃあ一緒に帰ろうじゃないか!」


僕の返事を待たぬまに彼女は歩き出した。


「私ずっと太陽くんと話してみたかったんだ!」


僕はその理由に対して、そこまで興味は無かったが、建前上聞き返す。


「なんで?」


彼女は待ってました。と言わんばかりに、ニヤッとしながら口を開きだした。


「だって君の名前は太陽!私は月!なんか仲良くなれそうな感じめちゃめちゃするじゃん!」


彼女は満面の笑みをこぼしながらそういった。


「へんなの」


「そう?むしろ私の名前を知っていて、話しかけようと思わない太陽くんの方が私からしたら変だよ!」


「見解の相違だね。」


「意味はわからないけど、難しい言葉を知ってるね。太陽くんは頭良さそうだしね!」


彼女をバカだと思ったけれど、そのことは口に出さず、評価してもらったことに対して「ありがとう」と言った。

会話が落ち着いてきた頃、彼女は指をさしながら叫びだした。


「あーーーーー!太陽くんだ!」


彼女の指がさす先を見ると、そこには沈みかけた太陽があった。視線を彼女の元に移すと、こちらを見てニヤニヤとしている。僕は無視をしようかと思ったが、一応返答をする。


「それは僕じゃなくて、太陽だよ。」


僕のそんなクソほどつまらないツッコミに対して彼女は高々に笑う。


「太陽くんそれ面白いよ!そうだ!私とペア組んで芸能界に進出しちゃおうか!成功する気がする。」


「アルバイト生活が目に見えてるよ。」


「全く太陽くんはネガティブだなあ。」


「君がポジティブなんだよ。」


そんな低次元な会話をしているうちに1度は戻ってきた自宅に着いた。


「僕ここだから。さよなら。」


僕は彼女に背を向け、歩き出そうとしたが、彼女は何かを考えながら僕を見ている。


「どうかした?」


「いや?太陽くんって表情を崩さないんだなって!笑ったりしないんだなあって!」


「面白くなかったらそりゃあ笑わないよ。」


「なんだそれ!そう言われると笑わせたくなるし、驚いたとこもみたくなる。困ってるとことかも!」


話が長引きそうだったので再び背中を向けて歩き出そうとすると、彼女は「閃いた!」と叫んだ。


「なにが?」


「太陽くんの表情を変える方法!そして私の知りたいことも知れるし一石二鳥!」


「知りたいこと?」


「そ!私はクラスで何番目にかわいい?」


あまりにも唐突に言うものだから僕は多少なりと驚いたし、返答にはかなり困っている。

しかし、彼女の思う壺になるのは癪なので、表情を変えないように意識しながら口を動かす。


「君も知っていると思うけど僕には友達がいないから、2週間経ってもクラスの人の名前なんて覚えてないし、それが女子なら尚更だ。唯一顔と名前が一致するのは君くらいだよ。だから君が暫定1位だよ。」


僕がそう言うと彼女はわかりやすいほどに頬を赤らめた。


「太陽くんったら大胆なこと言うね。少しは表情変えてくれると思ったのに全然変えてくれないし、なんだか負けた気分だ!」


そう言って彼女は腕を組みながら頬をふくらませていた。

僕はそんな彼女を見ながら内心では驚いたし、返答に困ったなんて絶対に知られたくないと思った。

そんなことを考えていると「一番かあ」と言った。

なんだか勘違いされている気がしたので「暫定ね。」と付け加えて歩き出した。

そうすると彼女は近所の迷惑になるような声で叫んだ。


「今日はありがとう!明日からはもっと仲良くしようね!」


僕は1度振り返ったが彼女の言葉に返答することなく背中を向けて歩き出した。


家に着き、夜ご飯を食べ、お風呂に入り、小説を読む、寝床に入る。

今日はなんだかいつもより疲れていることが自分でもわかった。

クラスの人と帰る。そんなことは普通の高校生にとっては日常のことなんだろう。しかし友達もいない。生みの親も、実の妹もなくしている。そんな僕にとっては久しぶりにあった人との繋がりだった。

良くも悪くも天真爛漫な彼女に僕はこれから変えられてしまうのではないか。

僕の中にそのような疑問が流れたが、その疑問は瞬く間に自己完結して溶けていった。

理由はいうまでもなく、彼女と僕は違うからだ。彼女は友達もたくさんいるだろうし、容姿端麗だ。そのため彼氏だっているかもしれない。そんな彼女がわざわざ僕に絡んでくるわけがない。


僕は心底安心した。

彼女に対する嫌悪感があるわけじゃない。

嫌悪を抱いているのは人と関わることだ。


そんなことを考えているうちに僕は眠りについたが、僕は明日自分の考えていた時間が無駄だったと思い知らされることになる。

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