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講義 -午前の部-

お勉強回です。興味ないよって方は勉強の所は飛ばしていいかも…

 自分の部屋で食事を取り終わりオンテナの案内で昨日の部屋へ向かう。え、食事の内容だって?正直思い出したく無い… サラシナの言う通り非常に質素で少ない内容だった。ゴムのように固く味の薄いパンに塩味が少しするスープ、よくわからない葉物のソテーで食後に苦いお茶が出された。もちろん全て美味しく頂いたし(笑顔で)文句なんてない(言えない)、だがしかし食事を持ってきたオンテナいわく食事は朝と夜のみで夜は魚が付くくらいでお昼はお茶と備えの菓子で終わりだという… お願いだから質素なのは森人だけだと思いたい。


******


 益体もない事を思い出しながら部屋へと入ると先客が三名、共回りも無く会話をしている。内二人はジラルフォとサラシナだ。


 「コウイチ様をお連れ致しました」


 オンテナが上品に礼をして一歩下がる。


 「おはよう御座います」


 と私が挨拶をするとそれぞれ返してくれる… 名前がわからない森人がにやにやとこちらを不躾に眺めてくるのが少し不気味だ。


 「あぁ、紹介しよう。こちらはぎ… スタンだ。これからお前にこちら側の世界の事を教えるためにやってきた。色々大変だろうが頑張ってくれ」


 サラシナが紹介してくれる。スタンと呼ばれた青年がこちらに歩み寄り握手を求めてくるので握手を交わして観察してみる… 身長は160センチ半ばだろうか森人にしては少し低い、銀色の髪を短く刈り上げ翡翠色の瞳を好奇心に彩り相手もこちらを観察しているような気配を感じる。


 「スタンだ、お前が異世界から来たことは知っている。よろしくな」


 握手を交わしながら私も「よろしくおねがいします」と伝える。その姿を何故か渋面をしながらジラルフォが見ていた。


 「スタン様、その… 本当によろしいのですか?」


 ジラルフォが言いにくそうな言葉を無理やり口にしているような口調で尋ねると。


 「あぁ問題ない、それにこれは私にしか出来ないことだ。こちらのことは気にするな」


 そう言ってジラルフォの肩をバンバンと叩く… ちょっと痛そうにしているのが可愛そうである。


 「よし、時間は有限だ。講義はコウイチの部屋で行うぞ、案内してくれ」


 オンテナがちらりとサラシナに視線を送るとこくりとサラシナが頷くのが見える。


 「スタン様、コウイチ様をお送り致します」


 その言葉に先程まで居た部屋へと戻るのであった。  


******


 講義は日が頂点に登る頃まで行われその後は自分の世界の事について色々聞かれた。それはもう私が一般常識の事を聞くよりも圧倒的に質問が多かった。


 この国は王政で中央領を中心に五つの領地に分かれ納めている。身分は王族、領主、上級貴族、下級貴族、平民、奴隷の順に身分が下がっていき下級貴族は魔力さえあれば平民でも簡単になることができるらしい。平民は納税の義務があり貴族は納税プラス魔力の奉納が義務付けられ奉納の量により納税率が変わってくるようだ。

 種族の対立も少なく能力主義者で各々が得意分野で働けば良いとのことである、森族と土族の対立とかはあったらしいがなんでも戦争で負けはしなかったが勝てもしなかったため疲弊してしまった国力を上げるために中央からお達しで、表面上は無くしたみたいである。

 気候は長さが微妙に違う四季があり時間の概念もある。時計は無いが協会の鐘の音が約3時間置きになるみたいで(森の中にはないみたいだが…)時間を知らせるようだ。

 特に気なっていた文明に関しては魔具や魔法が電気に変わり発達しており非常に面白かった。掃除機や冷蔵庫が魔具で再現されていたり携帯電話の代わりに以前見た(コール)と呼ばれる魔法があったりと私の知識が役に立てるのだろうかと頭を悩ませてしまうくらいに発達している。ついでに昨日考えていたオセロや将棋は既に似たようなものがあり双六に関しては木製のボードゲームまである始末である。


 元いた世界の話では特に軍事や科学を中心に聞かれた。どうやらこちらの世界は科学があまり進歩していないみたいで原子どころか分子、微生物の存在は知られていないらしい。火薬も無く、重油の存在は把握しているが特に利用していないみたいだ。

 また会話について私の話している言葉と相手の言葉が違う事についても聞いてみたがスタンも初めて知ったらしい。意思疎通ができるから今ままで誰も気にしていなかったようだ。色々実験してみた結果、似ているものは自動的にそのものに翻訳され、全く無いものはそのままの言葉で聞こえるらしい(スマホとか自動車とか)非常に不思議な世界である。

 あと文字については見ても全くわからなかったので今後、必ず覚えるようにとのことである… 面倒くさい。


 お昼のティータイム、コトリと用意されたお茶を一口飲み置く、苦いお茶だが飲み慣れてくると意外と美味であるように感じてくる。喋り疲れた喉が癒やされホッと溜め息、本当に質問が多く疲れた…


 「さて、今日はこの辺りにしておこう。続きは明日だな、非常に興味深い内容だった」


 スタンが満足気に席を立つ、私も一緒に立ち上がり礼をする。


 「本日はありがとうございました。こちらの世界のことがよくわかりました」


 「ふむ…そちらの世界も魔術や魔具が無い世界というのが不便そうに思ったが、魔術では不可能な事を行っているのを聞くとそうでもないようなのだな」


 「私としても電気のない生活が考えられませんでしたが、色々と便利な物もあるみたいでどれだけ私の知識が役に立てるか不安です」


 スタンが持ってきた大量の空の魔玉を見ながら少し不安な気持ちを吐露する。


 「まだ見えてこないこともあるだろうし、実際生活を初めて間もない。ゆっくりと考えればよいだろう、しかし科学?というのが非常に面白い。水がどうして水蒸気となり消えるのか、夜や昼がどうして来るのかの概念など聖典では神の行いと言っていたがこちらの方が理屈に合う。どうだ、教鞭を振るう気はないか?これからの子供たちに是非とも教えてほしいものだ」


 「いえ、サラシナ様にも頼まれましたがお金を稼がねばなりません。それに他の人に教えることは慣れておりませんので教鞭なんてとても…」


 簡単なことなら何とかなるが本業ではない、人に教えるほど頭は良くないのだ。ボロが出る前に身を引くのが得策である。スタンが残念そうな顔でこちらを見る。


 「そうか、気が変わったらいつでも言ってくれ。ではこれからの事でサラシナから言われたことを伝えよう」


 先程までの砕けた表情は鳴りを潜めやや真剣な顔を私に向けてくる。


 「サラシナからは渡した魔玉になるべく魔力を込めてほしいとの事だ、よかったら私にも見せてもらえるか?」


 私は頷くと教えてもらったとおり魔玉に魔力を込める。透明になっていく魔玉を真剣な顔でスタンが見つめる… やはり珍しいのだろうか?完全に透明になったのを確認して手を離した。


 「ふむ… やはり規格外だな。絶対に身内以外には見せないほうがいい。気取られるのも駄目だ」


 そういうとスタンは私が魔力を込めた魔玉を手に取り様々な角度で眺めていく。


 「それほどなのですか?」


 「あぁ… サラシナ以外の森人や貴族に見つかれば最悪、完全に拘束されて魔力タンクとして死ぬまで魔玉に魔力を込め続ける所だ」


 ぽいっと魔玉を私に向かって放ってくる。どうやら知らずに九死に一生を得たようだ、まだ天は自分を見放してはいないようである。


 「絶対にばれないようにします…」


 絶対にみつからないようにしよう、と心に決心すると真剣な面持ちを崩したスタンが笑いながら話してくる。


 「今のお前はタクトを持っておらず魔術が使えない、そのため自衛する手段が殆ど無いと聞いている。腕に自信はあるのか?ジラルフォからの話しだと足運び等から何か訓練をつんだような感じがしたと言っていたが」


 警察学校で柔道、剣道、逮捕術、拳銃など、犯人制圧のために必要な事は教わって、ある程度維持はしているがどれだけ通じるのだろうか… 正直全く自信が無い。


 「私は以前に警察と呼ばれるところで悪事を働く者を逮捕するための訓練を受けておりました。そのため多少ですが身体は動かすことができます」


 「そうか、午後からは訓練が割り当てられていると聞いてある。私は帰るが励むと良い」


 「わかりました、ありがとうございます」


 「ではまた明日同じ時間にこちらに来よう」


 チリンとハンドベルをスタンが鳴らす… それほどかからずに下働きの森人が部屋に来て一言二言、話をしてからスタンは出ていった。

 

次回は11/22に公開予定です。

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