サラシナの提案
3部の続きです。
にこやかな顔のサラシナに少しだけ希望を抱くが不幸は仲間を携えて次々来るということを我が身で現在進行系で味わっているのだ、気を引き締めるべきだろう。
「私の協力とはなんでしょうか?」
緩みそうになる思考を叱咤させて尋ねる。
「コウイチ様には我々森人側について頂き魔力の提供と知識の提供をお願いしたいと考えております。その変わりに我々はこちらの常識と住む場所、元の世界に帰るための準備をしようと思います」
少し冷めてしまったお茶を一口啜り、サラシナは右手を私に向けて3本の指を上げて説明していく。
「まず儀式を行うにあたって問題が3つあります。魔力と素材、そしてお金です」
と問題を上げながら指を折っていく。
「魔力の問題ですが、これはコウイチさんの魔力を先程の魔玉に奉納して使います。我々には本当に余力が無くお手伝いは難しいと思います。そうですね…コウイチ様でしたら順当に半年も貯めれば十分ですのでそこまでではありません。次に素材ですがこれは高品質の物が必要で最短でも一年はかかります。これは採取できる時期あるためです。そして採取に向かうには人員が必要となります」
「一年ですか…」
「最後にお金です。儀式をするのに必要でこれが一番問題になります。我ら森人はお金を稼ぐのが不得意な種族で常に余裕がありません」
そう言うとサラシナが綺麗な顔を少し歪ませる。
「特にギーレンという商人が問題です、私達の商売の邪魔をしてくるのです。私達は森の恵みを主に首都オセールへ卸しているのですが安く買い叩かれてしまいます」
その言葉に隣に控えているジラルフォが思い当たる節があるようで苦い顔をしながらサラシナにつづく。
「ギーレンはグランスターグの商人で平民ながら首都オセールを中心に手広く商店を構えている。そのせいか何処に売りつけても安い価格となってしまうのだ」
「そして前回の戦争で貯蓄も大分目減りしてしまいました。逆にギーレン等の商人は上手く立ち回って荒稼ぎをしており、私達では商売に関しては殆ど手も足も出ません。そこでです!」
バンとサラシナがテーブルを叩く。紅茶が少し揺れて大きく波打っている…
「コウイチ様は異世界より現れた迷い人、違う常識に違う文明で生きてきたことは知っています。今までの迷い人は幼い子供で衣服や持ち物は我々とさして変わらなかった。だが先程からこちらに置いてある硬化や羊皮紙とは違うものに描かれている絵は明らかに違う!」
とサラシナが私の持ち物を指さして声を荒げ、リーデッタのように好奇心と期待に目を輝かせている。
「精巧に作られた硬化に全く同じ絵!これらの技術が我々の手に入れば間違いなくあやつらに勝てる!今まで散々煮え湯を飲まされてきたあやつらに一泡吹かせてやれるのじゃ。そうすれば私の頭を悩ませている金策も解決できるしそなたも元の世界に帰ることができる万々歳じゃ♪」
最後の方は素がでたのだろうか言葉遣いが変わっている…
「サラシナ様お声が乱れておりますよ」
冷静にオンテナが注意してくる、となりのジラルフォは目を瞑って渋面だ。サラシナがコホンと口に手を当ててごまかすと置かれてあった手帳を取りパラパラとめくる。
「しかもこれは羊皮紙でありませんねこんなに美しい白色は見たことありません、しかも薄い…これと同じようなものをコウイチ様は作れますか?」
私は問いかけに頭を悩ませる…紙は木から作られることは知っているが作り方は殆ど知らない。
「多分無理です」
サラシナの顔がピクリと凍る。
「で…ではこの様な同じものを描く技術などはご教授できたりしますか?」
「それはもっと無理です」
印刷技術はこちらに無いみたいだ。凸版印刷や活版印刷は知識としてできるだろうがそれを作れと言われても無理である。私は探偵(なんでも屋)なのだ。
「そ…そうなのですか…ですが異世界の知識を持っているコウイチ様と我々森人と一緒になればなにか新しい事ができるかもしれません。ぜひ考えてみてくださいね」
ガッカリしたような表情をしているサラシナは次にスマートフォンを手に取るとあちこちと触っている… そうだ!何かスマートフォンの中にある辞書に手がかりがあるかもしれない。
「すいません、サラシナ様。手に持っているものをお借りしてもよろしいですか?もしかしたら何かヒントがあるかもしれません」
「これですか?…これは何に使う道具なのでしょうか?形状からは全く何に使う道具か全くわからないですね」
スマートフォンを私に手渡ししながら問いかける。
「これは、遠くの人と会話をしたり様々な本が入っており知識を得ることができます。他にも音楽などを聞くこともできますよ」
そう言いながらスマートフォンを受け取って操作してみる…あ、バッテリーが切れている。どうやらg○oglemapを起動したままのせいで一気に残りのバッテリーも無くなってしまったみたいだ。帰ってきてから充電してなかったし…
「本当ですか!試してみてもいいですか!」
サラシナが興奮している…だが充電器も外部バッテリーも持っていない為使うことができない。
「…申し訳ありません。バッテリー、いや使うために必要なエネルギーが無いため使えなくなっておりました」
「そうなのですか是非見てみたかったのですが…魔力切れみたいなものなのですか?再び使うことはできませんか?」
「私達の世界では電気と呼ばれるもので動かしております。現在の手持ちで補充する物が無いため難しいですね」
あれも駄目これも駄目と言ってしまってちょっと心苦しい。サラシナは落ち着いたみたいで、むーんと思案顔で私の荷物を眺めている。
「仕方ないですね。金策に関してはまた後で考えてみましょう。ではこれからですが、コウイチ様はこちらで二日程、常識をお教えしてから首都オセールで暮らしてもらいます。本来は森人以外はこちらに住まう事を許しておりませんが迷い人に関しては例外として許可が降りておりますので問題はありません。また、迷い人で有ることは口外してはなりません。無用な諍いの元にもなりますし、迷い人の存在は我々森人と領主一族以外は知り得ていないからです。そして今後、名乗るときはコウイチと名乗ってください家名は上級貴族以上でなければ名乗ることを許されていないからです」
「わかりました」
「こちらの物は預かってもよろしいですか?調べたいのです。お返しするのはオセールに行く前にはと思っております」
うーんスマートフォンは使えないし財布やお金は持っていても仕方ない、手帳も使う予定もないが木箱は出来ればあまり手放しておきたくはない…
「そちらの木箱ですが、できれば早めに返していただけると嬉しいです。お守り代わりにもっておきたいので」
「わかりました。こちらの木箱は明日にでもお返し致しますね。ではオンテナ、案内をお願い。コウイチ様、今日はお疲れになったでしょうゆっくりとお休みになってくださいね」
「承りました」
オンテナが私の元へ寄ってくる。私は椅子から立ちあがりサラシナに礼をしてから部屋を出ていった。
今回は 面倒見が良いオンテナの紹介
身長:160後半 体重:平均的 年齢:結構いってます 身分:下級貴族 三世代に渡って王様や王女のお世話をする側仕えを務めています。三世代目のサラシナは非常に若くして王女となったため、まだまだ落ち着かず手を焼いていますが息子のジラルフォがサラシナへの求婚を画策しているのを知るやいなや、今までの弱み… もとい知識を総動員して長老達の尻を叩いたり脅しをかけて息子に気づかせずに上手くいくように暗躍していたりします。非常に優しく時に厳しくとても頼りになる女性です。
次回は11/13を予定しております。