お料理教室開催
部屋戻って待ち構えていたのはレンツィオとヴィオラであった。そういえばお昼のティータイムを逃してしまっている… お腹空いた。レンツィオ曰く逃げたんじゃないかという話をしていた所らしい。私は理由を話して謝罪し、急いで勉強道具等を片付けて移動を開始する。
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本日は曇り空、ちょっと風が強いが運動するには丁度いい天気である。運動場では各々が射撃訓練や走り込み等をしているようだ。
「というと今日の夕食にサラシナ様、スタン様とで料理の試食会をするのか?」
グラウンドについてストレッチをしている時にレンツィオが聞いてくる。未だ身体の筋肉痛が酷い… 身体を解していく度に反応してしまうのは仕方ないだろう。
「っと… そうです、故郷料理の話題から急遽決まりまして。そうだ、お二方には色々と教えて頂いてますしお礼を兼ねてどうですか試食会?」
「う~ん、どうだろう。俺達が参加してもだ…」「行く」
ヴィオラがレンツィオを遮り参加表明をする。レンツィオは頭をカリカリとかきながら渋面でヴィオラを見ている。
「ヴィオラは食べるのが好きだからなぁ… まぁ大丈夫かな」
「私、三人前」
無表情に期待という眼差しを載せてこちらを見てくる。プレッシャーが重い…
「料理なら一気に作ったほうが楽ですからね」
と苦笑いをしながらストレッチを終わらせる。今日も基礎体力作りらしい、一応少し早めに終わらせてくれるとレンツィオが教えてくれた。お手柔らかにお願いしたいものである…
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まだ日は暮れてはいないがヴィオラから「今日はこれまで」とお許しが出たので部屋へと戻る。短いからその分、キツめにしごかれ満身創痍です… 部屋で急いで沐浴を済ませ、サラシナにヴィオラとレンツィオが食事会に参加しても良いか確認したら最初から呼ぶ気だったらしい。あとジラルフォとリーデッタも呼ぶのでその分も頼まれた。その後は調理場へと向かうとクラリッサが私に向かって手を振ってくれる。昼に来た時とは違い今回は他の調理人達がパタパタと料理をして活気に満ちているようだ。
「待ってましたよ!今日は私がコウイチ様のお手伝いをしますのでよろしくおねがいします」
元気一杯のクラリッサが非常に張り切っているようだ。今回は白い調理用の衣装に着替えており髪も後ろで邪魔にならないように纏めている。
「こちらこそよろしくおねがいしますね。今日は何人前作れば良いのでしょうか?」
「サラシナ様、スタン様、ジラルフォ様、レンツィオ様、リーデッタ様、ヴィオラ様とコウイチ様の計七名分用意すれば良いと思います」
クラリッサが指折り数えていく、結構人数が多い…
「ヴィオラさんからは三人前と言われたので余裕を持って十人前ですね」
今回使う食材を出して洗ったり下ごしらえをしていく。正直未だにどの食材がどういう味かわからないので使えそうなのを適当にだが… っとそうだ時間がかる天つゆの用意を先にしないと。
「先に時間がかかる天つゆの準備しますね」
鍋に水と保存食用の干してある魚の頭を切って乱切りにして入れ熱していく。
「これは何をしているのですか、この魚を食べるのですか?」
やっぱり出汁の知識はないようだ。ということは旨味成分もまだ発見できていないのだろう。
「これは出汁を取っています。こうやって魚の旨味を水に移して天ぷらにつけて食べる天つゆの下味を作っていきます」
そういうとクラリッサはふむふむと頷いてお玉で味見をしている。まだ味は移っていないから味はしないと思う…
「まだ早いですよ、先に下ごしらえをしていきましょう」
野菜や川魚の下処理をして暫くすると出汁のいい匂いが広がっていく。そろそろ良い頃合いか、鍋から魚を濾して砂糖、サーンを入れて少し味見…うん天つゆだ。クラリッサは我慢できないと言わんばかりに真剣な顔で味見している。
「これは…奥深い味わいです。サーンはこうやって使うのか」
その言葉に先程からチラチラとこちらを見ていた森人達が集まってクラリッサからお玉をとり次々と味見をして真剣な顔で議論している… なんかお料理教室みたいな感じだ。
「ハイハイ!散って散って。後で教えるからその時にね!」
パンパンと手を叩いて追い払っていく「後で必ず教えろよなー」と三々五々に散っていくのを腕を腰に当てて困ったよう見ている。
「すいません、みんな新しい料理が気になっているんです。中々他の所の料理を見るのが難しくて」
「いえ、皆さんのお口に合えばいいのですけど」
「これで俄然、天ぷらという料理が楽しみになりました。次は何をすればいいですか?」
にこりとクラリッサが笑顔で答える。そんなに期待されても困るのですが…
「ある程度下ごしらえが終わったので天ぷらの肝となる天ぷら粉を作ろうと思います。その前に揚げる為の油を用意しますね」
奥の深いフライパンに食用油を注いで熱しはじめる。少し弱めで徐々に温まるようにしておこう…
「こんなに油を使うのですか?」
「少人数であればそんなにいらないけど、今回は多いからね。それに再利用もできるから失敗しないように多めにするよ」
続いてボウルに卵を数個入れて水を加えてかき混ぜる、その後に小麦粉をいれてまたかき混ぜれば終了だ。
「小麦粉のダマが残ってますけどいいんですか?」
クラリッサがボウルの中を訝しげに見ている。だが問題ない逆にダマが残っている方がサクサクしてて美味しいのだ。
「ダマが残っている方が揚げた時に美味しいんだ。本当は片栗粉も入れたいけど見つからないから今回は無しだね」
「カタクリコですか…聞いたことが無い食材です。今度、サラシナ様に珍しいものを買う時があれば探して頂けるようにお願いしてみますね」
正直、同じものがあるかどうかわからないので難しいと思う。そうこうしているうちに油の温度が温まってきたようだ。衣を落として温度を見る… 中程沈んでから浮かんで来た、丁度よい塩梅だ。
「これは何をしているのですか?」
「こうやって油の温度を見ているんだ、底まで沈んでからゆっくり上がるとまだ温度が低い。逆に入れて直ぐに浮かぶと温度が高すぎるから注意だね」
「はー」と見ながらクラリッサは自分でも衣を入れて試している。ちょっと楽しそうだ… あまりやると油が跳ねるから危ないんだけどなぁ。
「よし仕上げと行きましょう」
最初は芋系で試してみる。油に匂いが写りにくいし失敗してもダメージが少ないからね、試食も兼ねるのだ。
「こんなもんかな」
揚げ終えて油を切る、軽く塩を振って一口… 美味い、これはサツマイモに似ている味だ。ほんのりとした甘みとサクサクとした食感が堪らない。クラリッサにも一つ試食してもらおう。
「こ…これはイイですね!フラ芋がこんなに甘くサクサクして美味しいなんて…」
「どれ俺にも喰わせろ」
!?クラリッサの後ろからスタンがいきなり現れ一口で一気に食べる。周りの森人はいきなりの登場で固まっていた。いつの間に…
「美味いな… よし!他のも喰わせろ」
「スタンさん、まだこれしか揚げてませんよ。もう少ししたら出来ますからあちらで待っていてください」
「なんだ、このいい匂いのスープは。嗅いだことがない匂いだぞ、どれ味見を…」
と人の話を全く聞かないスタンがお玉を手にとって天つゆを飲もうとした時サラシナが勢いよく調理場へ入ってくる。天つゆはスープじゃないのだが…
「スタン!お前だけずるいぞ、わらわだって楽しみにしていたのじゃ!味見するんじゃ!!」
あ、オンテナが笑顔を貼り付けた顔で勢いよくサラシナとスタンの首根っこを掴む。
「サラシナ様、スタン様、こちらは平民の方達がお仕事をしている場所です。邪魔してはなりません、食事会を中止にされたくなければ直ぐに戻るのです」
「ずるい、ずるいぞ!なんでスタンだけ食べてわらわは食べれないんじゃ!離してくれろ!」
「あぁ!まだ一つしか食べてないのに!」
ずりずりと魔術か何かだろうか凄い力で引っ張って出ていく、そして残ったのは嵐が過ぎたような後の静かな調理場が残った…
次回は12/03に投稿予定です。