始まりはいつも突然に
初めての執筆で基本ができていないところも多々あると思いますが生暖かい目で見ていただければと思います。目標は書きたいことを表現できればベストです。
拙い内容ですが楽しんでいただけるよう頑張ります。
ポツリポツリと屋根を叩く音でふと目を覚ます。気づいてみれば寝ていたようだ。体を机の上から起こして解していく、窓の外を見れば雨は先程の叩いていた音は更に強くなり強烈な音を立てて降っているではないか。
「雨か…」
私はそう言うと立ち上がり台所へ、お気に入りのマグカップにインスタントコーヒーの粉を入れてお湯を注ぐ。眠気を覚ますためにと少し濃い目にと思い粉を多く入れすぎたかもしれない。
「やっと報告書終わったな」
目には中年の男性と若い女性が恋人つなぎでホテルへ入っていく姿の写真が見える、その横にはびっしりと男性の行動記録が書いてある書類。あとはこれを依頼人に渡せば仕事は終了である。
一口、コーヒーを啜り顔をしかめる、ニガイ… ちょっとだけお湯を足して机に向かい依頼主に渡す準備に取り掛かる。急ぎの依頼だということでかなり無理をしたがそのおかげで依頼料は破格だ。
(これで下の大家さんに滞納してしまった家賃が支払えるな)
そう考えながら私は仕事を進めていった。
私、松木幸一は27歳探偵である。頭に売れないと付くが… 警察官を辞め、その時の伝手でなんとか糊口を凌いでいる。私はなにかと運が悪い、それもここぞというときに発揮される。子供の頃、楽しみにしていた遊園地のメリーゴーランドで遊具が壊れて馬から落下し大怪我、初めて自転車に乗れるようになって走っていたら信号無視の車に吹き飛ばされ重体、高校に入っては両親が事故死、更には親族関係にたらいまわしの日々である。ちなみに警察官を辞めたのも間が悪く上司から嫌われ無理やり追い出されたようなものだ。
正直ここまでひどいと捻くれたりこの世を恨んだりして真っ当な人生にならないだろう、だが人の世とは中々に悪いことばかりではなく良い出会いもあるものだ。
少年時代、とある事情から孤立し両親からも気味悪がられて泣いていたとき声をかけてもらった女性がいる。その女性は近所に住むお姉さんで最初に「おばさん誰?」と言って笑顔のまま拳骨で頭を殴られたものだ。かなり痛かったし人生で初めて笑顔に恐怖したものだ。
しかしその女性は私の話を真面目に聞いていろいろと良くしてくれたものである、それ以降も短い間ではあるが私の特殊な事情にも対策や考え方一つで上手く付き合っていくしかないということを教えてもらった。
「人生は何をしなくても色々な物が投げつけられてくる、いいことだけではなく悪い事のほうが多いのが最悪だ。だが泣こうが喚こうが次々と投げられる。逃げてもいい、だがいずれは逃げ道がなくなるだろう、どうすれば良いと思う?」
私は首を振る、わからないと。
「最初から受け止めてやれば良い、目を逸らさずに本当に嫌なことなのか逆手に取ることができないかとね」
そう言うとお姉さんはカカッと笑う。
「最初のうちは難しいかもしれないが、案外考え方を変えると受け止められるものだ。ピンチをチャンスにってね、だがお前さんは特に運が悪いように思う、事前の準備も必要だろう。例えば…」
そんな感じでアドバイスを貰いながら二週間程でお姉さんはいなくなった。短い間だったが、間違いなく人生の転機だったと思う。今もお姉さんには感謝しかない、いつか会えるなら感謝を伝えたい。
*********
さて、手にはかなりの額が入った封筒とケーキの入った箱がある。昨日とは打って変わって晴れており梅雨時期の数少ない貴重な昼下がり、さぞ洗濯等が捗るであろう。私は依頼を済ませ上機嫌で歩く、目的地は私の探偵の先生である西村源次先生のお家だ。マンションのブザーを押し「西村先生、松木です」と伝えると「入れ」とそっけなく返ってくる。私は手慣れたようにマンションに入って先生の居る部屋へと向かった。
「ご無沙汰しております」
室内に入り私がそう言うと先生は書き物を止め静かにこちらに顔を向けた。
60歳過ぎだろうか、160センチ弱の背丈に年に合わないガッシリとした体躯。額には年齢の通り深く皺が刻みこまれ、長い年月を生きてきたのがよく分かる強い眼光がこちらを胡乱げな視線で投げ込まれる。
「珍しいな、私の所にやってくるのは」
「たまに顔を出さないと忘れてしまうのではないかと思いまして、あとコレお土産です」
そう言って手に持っていたケーキの箱を見せる。すると胡乱げであった先生の瞳が少しだけ嬉しそうに光る…といっても一瞬でありはたから見れば気づかないであろう。
「茶の用意をしろ私はこれを片付ける」
私は「はい」と頷くと台所に向かいお茶の用意をする。ちなみに先生は紅茶派で私はコーヒーだ。ティーパックとインスタントコーヒーではあるが簡単に用意をして茶の間に向かう。すると既に先生はいたようで一人用ソファーに腰掛けていた。私はそれぞれ飲み物とケーキを中央のテーブルに置いて先生の対面のソファーに座る。先に口を開いたのは先生だ。
「メールでは久しぶりに会いたいと言う内容ではあったが、土産を持ってきたという事はまた金の無心か?」
むっつりとした顔をしながらショートケーキにフォークを入れて端のほうから食べていく。イチゴは最後に食べる派か…なんてくだらない事を思いながら私は準備していた封筒を先生に向かって置く。
「とんでもない、以前お借りしていたお金を返すのとお礼をいいに来ただけですよ」
私は苦笑しながらコーヒーをを飲む、やっぱりケーキにはコーヒーだな。
「やっと依頼をこなせるようになって収入も安定してきました。先生には感謝しています」
「そうか…お前は基礎はできているし嗅覚が良い、食べていく分には問題なかろう。ただ…」
表情があまり変わらない先生が深くため息を吐く。
「ただ運が悪い、逆恨みで襲われたなぞ聞いたときは驚いた」
「その説は大変にご迷惑をおかけしました」
私は頭を下げる、正直あのときは本当に危なかった。色々と先生に後始末や対策方法を教えてもらいなんとか凌いだが最初の依頼からこんな調子で本当に大丈夫かと頭を悩ませたものである。
「まぁ、その後は問題ないようだ。警官でいた頃より探偵は恨みを買いやすい。気をつけるべきだな」
「はい、教えていただいた対策方法をとってからは問題はおきませんでした」
「よかろう、して最近はどうだ?」
と暫く世間話を続ける…
………………
「空も暮れてまいりましたのでそろそろ帰ります」
気がつけば窓の外は茜色に染まっておりそろそろいい時間だ、私は先生にいとまを告げる。
「うむ、息災でな。最初にも言ったがお前は運が悪い、気をつけるんだぞ」
「ありがとうございます。また顔を出しに参りますね」
「金の事以外であればいつでも来い」
そう言うと先生はソファーを立ち机の引き出しからポケットに入るくらいの小箱を取り出す。
「これをやろう、いつか役に立つはずだ」
「これは…開けてもよろしいですか?」
先生が頷くのを確認して箱を開けてみる。中を見るとドライバーとテープ、釣り糸といった物が入っている。
「それは常に持ち歩け、役に立つ。特にお前にはな」
「ありがとうございます。しかしこれは泥棒みたいなツールですね」
「当たり前だピッキングツールにも応用ができる、普段は上手く隠せ」
私は頷くと挨拶をして先生と別れた。正直上手く隠せと言われたが良い場所が思いつかないので上着のポケットに入れておいた。さて帰ろう、まだやらなくてはいけないことがある。
*********
茜色の空が消えて夜の帳を迎える頃、バスをおりテクテクと歩いて帰る。車に乗らないのかって?免許はあるが事故るか人を引く未来しか見えないから却下である、もちろんバスや電車に乗っても事故は起きるだろうが加害者にはなりたくない。私はまだまだ健全に長生きしたいのである。そんなことを思いながら徒歩10分、『喫茶サンク』が見えてきた。
「少し憂鬱だ…」
ちょっとだけボヤいてしまう… そう事務所の一階は喫茶店である。学生でお金がなかった時代、通っていた図書館で読んだ小説に探偵が喫茶店の2階に構えていたからだ。なので私は何も考えずここにした。探偵の事務所は喫茶店の二階にあるものだと深く確信している、間違いない。アクセスが悪く車の無い私には少々不便だが気に入ってもいる。
カランと音がなり私は扉を開くと高校生位の女の子が気づいて声をかけてくる。
「いらっしゃい、そしておかえり。今日はお夕飯?」
くりくりとしたお目々が可愛く黒髪を後ろでポニーテールにした彼女こそ、この喫茶店のマスターの一人娘河野 蓮ちゃんである。可愛いフリルの付いたエプロンをなびかせてこちらに寄って来る。
「はい、あとお待たせしてすいません。先月と今月の家賃を持ってきました」
そういうと蓮ちゃんは口を手で隠しクスクスと苦笑しつつ答える。
「もう…お父さん怒ってましたよ。早く渡してくださいね。お夕飯の希望はありますか?ランチの残りがまだあるのでそれと何か一品増やす感じにしますけど」
軽食といいながら本格的なお食事も出す喫茶サンクは蓮ちゃんの手料理も食べられる貴重な場所なのである。私は昼のランチが鶏の照り焼きだったのを思い出しお願いするとテーブルに着く。蓮ちゃんが奥で「ランチプラスが一つ入りました、あと松木さん帰ってきましたよ」と言っているのが聞こえる。ちょっと周りを見渡すとコーヒーを飲んでいるサラリーマンや夕食をとっている家族がいる。正直食事処でもいいような気がしないでもない。
「やっと帰って来たようだな、何処かに逃げたかと思ったぞ」
そう言いながら水の入ったコップを置くのは店主河野浩二だ。年の頃は40位の長身で何かスポーツをやっているのかと思うほどバランスの取れた体型に蓮ちゃんと同じ可愛いフリルの付いたエプロンをつけている、意外と似合うからちょっとだけおかしい。
「もちろん何が言いたいかわかってるよな?」
そういう顔は笑顔だ、目は全く笑っていない。声は低く抑えられ周りから見れば世間話を楽しげにしているように見えるだろう。私はちょっとだけ顔を引きつらせて懐から用意していた封筒を取り出し頭を下げる。
「大変おそくなりました。本当に申し訳ありません」
封筒の中身を確認することなく、エプロンのポケットに入れるとちょっとだけ雰囲気が軽くなる。よかった…
「…金は後で確認する。今度、遅くなるようであれば出てってもらうからな」
「そ…それだけはご勘弁を。絶対に支払いますので何卒…」
「仏の顔も三度までだ、嫌なら遅くならないようにしておけばいいだろう」
ニッコリと笑う笑顔が眩しいです。私は「はい」とがっくりと項垂れると、出てくる言葉と表情が一致しない浩二さんに事情を説明する。主に張り込みで家を開けたことだ。
「なら次回からはきちんと言ってくれ。ただでさえ滞納しているのに姿が見えなくなれば心配するだろう」
「心配してくれたんですか?」
「蓮がな」
そういうとキッチンに浩二さんは目を向ける。
「あいつは結構お前に懐いているからな。あまり心配させるな」
浩二さんの目は優しげに細められる。
ここに来たとき蓮ちゃんが中学二年生で、色々と進路の事や物の考え方をアドバイスして以来よく遊びに来てくれる。今は高校二年生で青春真っ盛りだ。羨ましい…
「気をつけます」
話をしていると蓮ちゃんが手に料理をもってやってきた。
「お父さん、カウンターのお客さんにブレンドのおかわりをお願い」
てきぱきと料理を置いていく。「おう」そういって浩二さんはキッチンに消えていった。
「まったく、あまり心配させないでくださいね。以前のようにまた入院したかと思いましたよ」
「心配させてごめんね蓮ちゃん」
「帰ってきたので許します。ゆっくりしていってね」
優しく笑って蓮ちゃんがカウンターの中に帰っていく。笑顔が浩二さんと似ている…やっぱり親子だね。笑顔で毒を吐くようにならないでいてほしいな。なんて照り焼きを食べながらそんな事を考えていた。
*********
夕食を食べ終わり河野親子に別れを告げて二階に上がっていく。がちゃりと玄関の扉を開けて「ただいま」と誰もいない部屋へ声をかける。返事は当然無い…
----が人ならざるものが寄ってくる。仄暗い闇から這い出るその姿形は夜の闇を凝縮し集めた様な黒、雲のようなまだらが集まった塊に両手足のような触手をを器用に動かしてテクテクと歩いてくる。
「いつもありがとう」
そういうと私はそっと頭のような所を撫でると満足したのかテクテクとどこかに歩いていく。
冒頭に紹介した特殊な事情というのを覚えているだろうか。私は幼少の頃から変な物が見える。当然両親にも気味悪がられ、友達もできずいじめられていた。今では体の中にスイッチと読んでいる感覚をオン・オフすることで見たり見えなくしたりすることができるようになった。要はあれだ路傍の石と同じように見えているのに気づかないと言えばいいのだろうか。
長年の経験と実験によりこういった物は人に無害だ、言葉も発しないし音もしない。お願いをするとこちらの意味を理解しているのかちょっとだけ言うことを聞いてくれる。探偵なってからはよく探しもの捜索に手を借りている。その後はちょっと触ると満足して何処かへ消えていくのだ。私の部屋に住んでいる?人ならざるもの、私は木人君とよんでいるが… にはいつも留守番を任せている。
以前浮気調査で浮気がバレた女性が、逆恨みで夜に寝ているときに窓から侵入してきた。その時木人君が教えてくれた事があり九死に一生を得たのだ。大怪我はしたが… それ以来こうして頭をなでているのである。
「これでやっと余裕ができる」
今回の以来は本当に破格の報酬だった。日程的にも体力的にも難しい内容ではあったがやり遂げることができた。気分は上々で着替えることもなく茶の間に入る。
「久しぶりにお酒でも飲もうかな」
部屋に着いて来客用のソファーに座りながら思案する。うーん気分的に祝杯を上げたい。
お酒はそこまで好きではないが気分が高揚しており、疲れてはいたが近くのコンビニまで行くのが苦ではない… やっぱりお酒とおつまみを買ってこよう。そう決めて部屋から玄関へ向かう。
とそこへ木人君がやトコトコとやってくる。少しだけいつもと違うような違和感を覚えたが、この木人君が先程の木人君と同じかわからないので特に気にしないでまた頭を撫でる。
「じゃ、ちょっとでかけてくるから留守番を頼むね」
木人君は嬉しそうにしている…
「そうだ、余裕もできたし今度何処かに旅行に行こう。河野さんにはちゃんと出かけることを話さないとな」
そんなことを木人君に語り、玄関の扉を開くと
------森だった。
「は!?」
私は急いで後ろを振り返ると木人君の黒い雲のような部分に口ができていてニヤリと笑ったような形をしている----と同時に消えた。
頭の中をここぞというとき運が悪いのだから気をつけろと言った西村先生の声が聞こえた気がした。
*********
こちらではキャラクターの紹介や世界観の補習をしていこうかとおもいます。
松木幸一 27歳 探偵(何でも屋)
高校の時に両親と死別、親戚をたらい回しにされ早く独り立ちするために高卒で警察へ就職するも数年で退職、警察時代の伝手で西村源次に弟子入りし修行して現在に至ります。探偵のみでは食べていくのが難しいので基本は何でも屋、だが松木の心では常に探偵と思っています。
趣味 小物作り
手先が器用で、ナイフやカッターを使い木材から色々なものを作ることができます。ちなみにそれをメル○リやヤフ○クで小遣い稼ぎをしていたりもしていました。
次回の公開は10/31を予定しています。