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探偵は王女と踊る  作者: 角増エル
[第1章] 呪術師殺人事件 問題編
1/49

青く光る国

 ある日、ある街の、ある宿で、一人の呪術師が殺された。

 のちに、「呪術師殺人事件」と名の付くこととなる事件。

 その事件はある時点で、容疑者の誰にも犯行は不可能に思われ、その場の誰もが、事件の迷宮入りを予感することとなった。

 ……本当なら、それでも良かったんだ。

 あの事件はきっと、迷宮入りしていた方がよかった。

 だけど、王女がその場所に私を送り出したとき、彼女はこう言ったのだ――


『あなたはそこで、王女わたしの探偵として為すべきことを為しなさい』


 ――であれば私は、その言葉に忠実であらねばならなかった。

 その事件の「犯人」を、突き止めなければならなかった。

 私はそれを、告発しなければならなかった。

 ……そう……例えそれが――


 どんな不条理であっても。



 * * *



 見上げるほど高い外壁の門を潜って、馬から降りる。


(ん、うう……っ)


 無理がたたって痛めた腰を叩きながら一つ大きく深呼吸をすれば、木、鉄、油、花、香水、家畜、香辛料――、多種多様な香りが混じりあうその独特の匂いがいつも、私のいるこの場所がどこであるのかを思い出させてくれる。


 私の育ったこの国の名は、王国「クリスタ」。

 私が今門をくぐり足を踏み入れたのは、その王都。「世界の全てが集う場所」とも称される、花の都「ディンブルク」。

 はるか昔、「千年戦争ミレニアム」の末期、女神アリューレが降臨した地として伝えられ、千年戦争終結の舞台ともなった土地。それが関係しているのかはわからないが、この国には他国に比べて「特異体質」持ちが多く、また土地自体の魔力濃度もすこぶる高く、「魔法」の素養に恵まれた人物も多い。

 だからだろうか。いつからかはわからないが、はるか昔からこの国は、こう呼び習わされている。


 ――魔法大国――。


 この国に住む私たちにとって、魔法はあまりに身近で、あまりにありふれたもの。

 外からは高い外壁に阻まれ見えはしないが、ひとたびその内側へと足を踏み入れれば、階段状に高くなっていくこの都市の様子が一望できた。その最上部に聳える王宮を、綺麗な小望月が照らしている。

 女神アリューレの祝福とも呼ばれる月の光は、魔力を生み出す。そして魔力が満ちたこの国は時折、一説にはそれがこの国の名の由来であるとも言われる淡い青色の燐光に包まれるのだ――。

 幼いころから見慣れたこの景色も、暫くぶりに見ると感慨深い。


「ようやく、帰ってきた……」


 思わずそう独り言ち、


(って、何一人で感傷に浸ってるんだわたしは!)


 羞恥に苛まれつつ、長旅にへこたれることなく付き合ってくれた愛馬の眉間を撫でてやる。


「登りだけど、もう少しだけお願いね」


 彼はヒヒンと小さく嘶くと、軽やかに蹄鉄を鳴らしてみせる。まだまだいけるぞ、ということらしい。


「じゃ、行こうか」


 そして私たちは、王宮へと――いや、私たちの主人の元へと、歩みを進めた。

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