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届かぬ悲鳴

 咽び泣きたい程に、心に辛さを蓄えて。

 苦しくて、寂しくて、周囲には誰一人として存在しなくて……。



 自分の心を、周囲に伝えたいということ。

 これは全ての人間に共通して存在する気持ちに違いない。


 当然、少女はそれを心から望んだ。内に秘めた世界は、宇宙とも呼べるほどに偉大で、そして巨大だったかもしれない。その宇宙を他人に伝えられたならば、彼女は救われたのかもしれない。


 勿論、彼女自身も伝えることを試みた。何度も何度も、試みた。


 けれど、伝わらなかった。いや正確には、「少女自身に」伝わらなかった。


 思いを汲み取り、そして心を理解する人は数え切れない程に存在した。

 だがその気持ちを少女に返した者は、誰一人として存在しなかった。


 心から応援する人は居ても、口に出す者が居なかったということである。


 少女はそれを失念していた。

 彼女はやがて心を伝えなくなった。


 意味が無いと感じてしまったのだ。自分が伝えようとしても、誰も応えてくれない。

 心を伝えなければ、やがて思いは閉鎖的、マイナスになっていく。


 少女は表情が硬くなった。思いを胸の内に潜めるようになってしまったからだ。

 懸命に心を伝えていた彼女は、もうそこには居ない。無気力の空箱があるだけ。


 この世に居たって、良い事は無い。


 そうして彼女は世界から消えた。それが正しい選択だと思ったから。


「素敵な心だったというのに……残念だ」

「寂しいよ。戻ってきておくれ」

「大切な心をありがとう」

「世界が変わった……」

「愛していたのに……」


 声が聞こえ始めた。だが、あまりにも遅すぎた。

 少女はもう居ない。声を出したところで、少女が喜ぶことは無い。笑うことも無ければ、求めることも無い。


「もっと早くに伝えていれば……」


 この世に少女が居たならば、きっと笑顔になってくれたことだろう。

 だが、伝えられた心が人々に残っていたとしても、少女はこの世に居ない。


「ああ、戻ってきて」

「君の心を見せてくれ」

「素晴らしい心だ」


 残された者たちは悲しみに暮れた。

 惜しむ声を上げる者は次第に増えていった。

 その内、少女を知らぬ人も出てきた。だが心の中身だけは理解していたという。


 やがて少女は幸せの象徴となった。彼女の心がそれだけ素晴らしいものだと、世界が共感したのだ。


 少女が世を去る前の心が、見るに堪えないものだと知りもしない癖に。


 悲しみは、永遠に癒えることは無い。

 ただ一つ、思いを伝える機会を間違えていなかったなら、彼女は今も、笑顔で心を伝えていたのかもしれない。


 ――この物語は、これで終わり。

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