そらぷろじぇくと。そのいち
「なぜ人々は、前しか見ないのですか?」
自然を愛す少年「星夜」は、日頃の疑問を打ち明ける。
その視線の先には、白衣姿の少年が一人。いや、少年と呼ぶにはあまりに博学才穎が過ぎる。
唯一呼称通りと言えるのはその容姿のみで、身長が低いことがコンプレックスなのだという。
ただ、その小柄な体格も相まって、憎まれ口を叩かれることは少ない。第三者視点で見れば、正に完璧な人間と言えるだろう。
「前しか見えない……? 随分と詩的だね」
「や、そういうつもりじゃないのです」
星夜は具体的に話し始める。
街を歩く人々には、空を見上げる人が居ない。
見たとしても幼い子供かその親ぐらいなもので、社会人や一人で歩く主婦、さらには学生まで……。皆が一様にスマートフォンか正面を見るばかりである。
星夜にとってはそれが、寂しく映ったらしい。
「なるほどなぁ……。で、どうしたいんだい?」
「えっと、ここまでになってしまうと、もう空をじっくり見ることもないでしょうし、その、生活のいちぶを見なおそう~みたいな感じで空を……」
「結論が遅いよぉ!」
「あっすみません!」
普段温厚なはずの朝倉が強い口調で言ったため、星夜は思わず尻込みしてしまう。
だが、別にこの科学者は憤りを覚えている訳ではなく、あくまで興奮しているだけだ。研究対象やその疑問を誰でも無い、自分の助手が提示してくれたのだから。科学者の血が騒ぎ、思わず勢い付いてしまったのだった。
「どうしてそこで謝るんだい? 寧ろやると決めたからにはやってみようよ! 空を見せたいと思うのなら、見せてみようじゃないか!」
「は、はいっ……!」
ここは朝倉研究所。奇跡を起こす、夢の施設。
星夜はこの日も、大きな奇跡を目の当たりにするのだろうか。