プロローグ
色々と至らぬ点もあるとは思いますが、よろしくお願いします。
ある日、ある所に、一組の男女がいた。
一方は純白の衣装に身を包んだ長身の女性で、自らを神と名乗った。
おっとりしたような顔つきが特徴的で、何よりも豊満なバストが目をひく。
もう一方の男は氷川理亜といい、まるで就職活動に失敗し、短いフリーター生活と女っ気のない童貞人生を今しがた交通事故という良くない形で終えてしまったような顔をしていた。
というか俺だった。
「ですので、これを使って貴方の次の世界における肉体を構成し――魂の定着を――」
頼んでもいないのに、隣にある冷蔵庫のような機械の概要を、飽きもせずにペラペラと語る彼女の言葉を俺はただ黙って聞く。
聞き慣れない単語がぽんぽん飛んでくる為、何割か右から左へと抜けてしまっているが、要するに俺が得る新たな肉体をこの機械が要求通りに用意してくれるらしい。
そして、俺はその新たな身体と共に異世界へ飛ばされるのだという。
確かに、現在の俺の身体は青白く半透明で、足は煙のようになっていて、そこらに落ちている本や紙の束といった物に触ることができない。
「――という訳なんです。それで、貴方には実験体第一号として、特別に異界への転移と、能力値の希望を」
「イケメン」
「聞いてあげます。ああ、でも元の世界に戻るのは不可能ですし、希望といっても限度が……は?」
「イケメンにして下さい」
俺が即答すると、神様は虚を突かれたようにぽかんと口を開けていた。
「え、と。何でも要求通りに出来るんですよ? ステータスを弄れるんですよ? チートとかやりたい放題……」
「関係ないんですよそんなのいくら魔法を使えたってこの虚しさは埋まらない分かりますか周りの仲間が全員彼女とクリスマスを過ごす中俺だけ家で独り寂しくネットサーフィンですよ親は二人でどっか行くし兄貴も妹も相手の家あでも去年フリーターは家に置いておけないって追い出されて賃貸のアパートで過ごしていたから気分だけでもとスーパーで買った安いショートケーキを部屋で」
「ひい!? な、なんですか突然!? わ、分かりましたから、ですからそんな血走った眼でこっちを見ないでください!」
という訳で、神様が数値の設定を行い、俺の肉体の再構成は開始した。
とりあえず彼女がレバーやらスイッチを操作するのを眺めていると、正面の扉が開いてそこに入れと指示される。
「本当にこういう人っているんだ……」
「何か言いました?」
「いえ、何も。どうぞ、容姿レベルはマックスです。一応、生活に困らない程度には他にも補正を……」
機械の中は暗くて、外の音も聞こえなかった。
暫くして内部に衝撃が走り、ごうんごうん、と音を立てながら揺れが続いた。
次第に目の前が白く染まっていく。音も光も遠退いて、
次の瞬間、視界が暗転した。すぐに呼吸が出来るようになる。
壁の感触が、その冷たさと一緒になって指先に走った。呼吸は荒く、意識がぼんやりとしていたが、どういう訳かきちんと立つことは出来ていた。
しばし呼吸を整えていると、不意に扉が開いた。眩しい光が隙間から射して、思わず目を細める。
「わあ! 凄い凄い! 大成功です!」
神様の喜ぶ声が聞こえて来た。
ぴょんぴょん跳ねながら興奮する彼女の顔は、先程まで見ていた筈なのに、どういう訳か初めて見たような新鮮さがあった。
「苦労して魂を拾ってきた甲斐がありました!」
「せ、成功ですか。なんか目線が低いような気がするんですけど。おまけに声も高いし」
「え、あー……でも、とても素敵に造れたと思います! ええ!」
鏡は何処だと尋ねると、彼女は視線を天井へ逸らし、咳ばらいを挟んで話を始めた。
「では、これから貴方を新たな世界へと転移させます。準備はよろしいですね?」
「よろしくないです」
「転移先は、えーと……イヴェスタ? でしたっけ?」
否定する俺を他所に、ペラペラと紙束を捲りながら言葉を続ける神様。
「主要な種族は人族、エルフ、ドワーフ、亜族ですね。亜族っていうのはゴブリンやオーク達の事で」
「あの、鏡とかないんですか?」
「闇の勢力に加担しており、他の種族とは基本的に仲が悪いです。これにて解説終了、では、新たな生を楽しんできてください。あ、一応向こうに準ずる衣服を着せておきますね」
彼女がニコリと笑顔を浮かべると、足元に円い穴がかぱっと開き、俺は為す術もなくその穴の中へ飲み込まれてしまった。