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王様と妖魔と孫と王子

「彼女を次の月の神に、か。そんな方法もあったのか。」

「いくら純血でもお嬢さんの血はそこまで濃くないはずだったんだけど、三柱の神様から祝福を受けたから純粋な力はとっくにアドルフさんを越えてるよ。適性で言えば今のところお嬢さん以外いないんだよね。オレはそれは避けたいから付いて来たんだけど。」

彼女のことだ手の打ちようがないと分かれば、少し悩んでから仕方ないと諦めてしまうだろう。

「そういえば、彼女が産まれた頃の器の大きさと力は異常だったな。今の倍はあったはずだ。」

「そうなの?」

今の倍となると想像も出来ない。あのシャーロット並みにはあったということか。

「他の一族だったら力の圧で死んでしまうくらいだろうな。それなのに器にはまだ空きがあって、色んなモノが依っていた。」

「それ危なくない?」

乳児に他のモノが憑いたりしていたら、乳児自身の精神が潰れかねない。そして小さな体は自身の力に耐えられないはずだ。いや、それだけ強大な力なら今の体でも危ないかもしれない。

「よく高熱を出していたようだ。アリア姉さんは泣いていたな。だが、神の祝福がそんな面倒なことになるとは知らなかった。あの力は彼女の力だと思っていたからな。」

「まあ、王様とかは月の祝福しか受けてないからね。」

祝福なんて一つ二つなら嬉しいものだが、五つもあれば毒にしかならない。それを身をもって知っているウィラードはともかくその他の人間は気付かないものだろう。

「今のお嬢さんの力はアリアさんが抑えたから、あれで済んでるってことか……。三回も術を重ねないといけないとか、笑えない。」

力を取り戻してアドルフ並み、そしてそれ以上の力をまだ内に秘めている。本当に可哀想な娘だ。彼女は散々な目に合ってきたはずなのに、その瞳に曇りはなく真っ直ぐと芯のある強い瞳をしている。

ウィラードもシャーロットが居なければ、おそらく惹かれていたことだろう。レイラはウィラードのような外れた存在に好かれる女性だ。

「お前にアリア姉さんのことで頼みたいことがある。」

「どうしたの? 死者の甦生とかは無理だよ?」

茶化すようなウィラードの言葉にセオドアは顔を顰めた。

「いやルークが言っていたのだが、アリアの遺体に変なものがとり憑いているらしい。祓ってくれ。」

「いや、そういうのオレ出来ないから。」

「それだけの力があるのにか?」

「だからだよ。調節出来なくてこの一帯焼け野原になると思う。」

危険なことは試さない主義だ。力を手にしてからこれまで小さなことしかやっていない。それだけの力がこの妖魔の体にあった。

「アドルフさんに頼めば良いでしょ。」

「あいつは干渉出来なかったと言っていた。」

「ねぇ王様よく考えてみてよ。彼が無理ならオレはもっと無理だからね。」

月の器に不可能なことが、その辺にいる妖魔に出来るわけもない。シャーロットといて一族のことは知っていても同じ存在になれるわけではない。

「オレはただの妖魔だから。」

「お前がただの妖魔なわけがないだろう。」

そう即答された。セオドアは厳めしい顔でふよふよしているウィラードを睨んでくる。誤魔化すように肩を竦めた。

ウィラードはただの妖魔なのだ。少し知識が人よりあるだけの。そして寿命が長いぶん交遊関係が広い。それが一般的な妖魔だ。

セオドアは他の妖魔が分からないのだろう。

だからウィラードが特殊な妖魔だと勘違いする。

そういえば彼女もそんなことを心の内で言っていたな、と思い出しウィラードは頬を緩めた。前はテレパシーを切られてしまったが、レイラに気付かれないように緩い術をかけてある。彼女の発想は斜め上にある。ウィラードにも予測できない。

だからこそ、退屈しないのだ。


◇◆◇


二、三日は誰も手が空いていないから案内できない。ということはレイラ達が自力で神殿へ行けなかった 、ということになる。

ウィラードが昔に神殿に近い場所までは行けたということは、神殿へは何かしらの条件がないと行けないということ。

今日ここに来たばかりなのに、やることが無さすぎて息が詰まる。今すぐ終わらせて楽になりたい。

それに、違和感を感じるようになった。

胸が苦しいような浮き立つような変な感じと視界が霞がかったようにぼんやりとしている。

ルークと話して泣きそうになったから目がぼんやりするのか、この場所が体と合わないからなのか。それとも風邪気味なのか。よく分からない。

学院に入学してから風邪は引いていなかったのに。

風邪といえば、そろそろシリルの謎の高熱の時期だ。

一人で大丈夫なのか。昨年はお花畑が見えたらしいのに。アスティンが看るのだろうか。レイラのいないあの部屋に他の女性が。

それはあまり考えたくない。深く考えたところで嫌な感情しか湧いてこない。少なく見積もって一年は会えないと思っていたが、その間に実家へ戻ったシリルに身分相応の婚約者が宛がわれる可能性も少ないとはいえ、有り得る話だ。

それを考えるだけで落ち込んできた。

昏い表情になったレイラを心配そうに覗きこむ。

「どうしたの? 帰りたくなった?」

「少しだけ。」

娘の言葉に打ちのめされるルークを見なかったことにして、どうやってシリルと連絡を取ろうかと考える。

手紙はどこの誰が覗くか分からない以上使いたくない。

こんこん、と音がしてコナンが現れた。

「部屋の準備が出来ました。お嬢様ご案内します。」

アドルフの孫だと説明されてから、コナンの表情が柔らかくなった。祖父はこんなところでも信頼を勝ち得ているらしい。

「僕が案内するよ。」

身分の分からない誰も知らない女性をパートナーとし、その女性を亡くしてからどこかへ引き籠っていた第一王子。

数ヵ月前に出て来たと思えば、今は若い女性にくっついている。さしずめこの女はルークの若い後妻か。という分析をされているだろう。

レイラは第一王子の後妻ではなく、王子の一人娘とは誰も気付かないだろう。ルークとレイラの似ている所は目元と鼻筋くらいなものだから。

「寝言は仕事を片してから仰ってください。」

「この娘との時間を邪魔するの?」

そう言って、ぼんやりとしているレイラの頭を抱き寄せ、ぶすっと不機嫌顔で睨む。コナンはそれを呆れたように見て一言。

「仕事をしない人間は軽蔑されると思いますが。」

コナンは至極真っ当なことを言っていると思う。

「ええ、お仕事があるならしてください。私は不真面目な人は嫌いです。」

「え!? 分かった。するから! 仕事するから僕を嫌わないでおくれ!」

そのノアを彷彿とさせるルークの縋りつき方に溜め息を吐きたくなる。これが神の一族の特徴だったのか。

廊下の途中でルークと別れコナンに付いて迷宮のような王宮を進む。途中で誰にも会わないということは、人払いがしてあるということだろう。アドルフの孫ということで特別待遇なのか。大変な仕事をしている分、得るものも多いようだ。

「やあ、こんにちはコナン。」

届いた声に視線を向ける。目の前の角を曲がってきた銀髪の青年が楽しそうにレイラ達を見つめていた。

「ジェフリー殿下。貴方は暇なのですか?」

「暇じゃないお仕事中。お嫁さん探し中だよ。」

そう言ってちら、と一瞬向けられたジェフリーの視線に体が強張る。そういえば今朝売った喧嘩を買われていたのだった。

徹底的に嫌われてやろうと思っているが、反抗すればするほど興味を持たれるようだ。さて、この面倒な王子をどうしたものか。

そもそも遊び人のジェフリーだけはお断りだ。

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