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話し合いと短い猶予

ジェフリーに握られた手を思いきり振り払う。

呆気に取られたようにレイラを見上げたジェフリーに冷たい視線を向ける。彼は何が狙いなのだろう。

「勘違いされているのでは?」

「僕の『目』を使って探したんだから間違いはないよ。それに、綺麗に紫色の君が一族でないなんてあり得ない。」

神の一族の一人なら紫色の瞳の意味を知っていたとしても、なんらおかしくない。ただ、問題はどこからレイラに目をつけたか、だ。

「では、どなたからそれを?」

緊張しながらジェフリーに問うと、にっこりと笑いながらドリスを指した。

「そこにいるでしょ。ここではドリスだったかな。あれが僕の『目』だよ。」

ドリスは申し訳なさそうな顔をして、ごめんね。と唇だけ動かした。

なるほど、ドリスがレイラに話しかけたのは仕事だったからか。ようやくドリスが入学式に話し掛けてきた謎が解けた。

「君はあまりにも特別すぎだ。職員棟での生活もだし、生傷は絶えない。この学院ですごく目立ってるよね。」

レイラが変だから目立っているのは分かっている。

一部の生徒にはマフィアの娘だと思われているし、職員棟に住んでいるのは周知の事実。特にレイラが弁明をしなくても、勝手に推測してくれた。実は病弱とか、身体にひどい傷があるとか。

傷の方はあながち間違いではない。幼い頃のやんちゃの数々で消えない傷が身体のあちこちにある。学院に来てからは首に胸にと、結構えぐい傷痕が増えてしまった。

「巷で言われてる銀髪に紫色の瞳だ、なんていうのはもとから信じてない。だから、七年前くらいから紫色の瞳をした女の子数人に候補は絞ってたんだけど、君だけは最近になって見つけたんだよね。」

それは家から出られなかったからだ。人を異能の力で殺して、不安定な精神になったレイラを部屋から出すわけにいかなかった。

別にレイラを見つけなくて良かったのに。

これ以上、ジェフリー王子と話していると周囲にいる生徒たちに本物だとバレてしまう。せめて『リリスに似ている別人』になりたい。

逃げてしまおう。人垣の隙間を探す。

証拠なんてどこにもないのだ。数日後には、王子が勝手にレイラをリリスだと思ったことになるだろう。

「勘違いされてます。私はレイラ・ヴィンセントですから。それでは用事がありますので失礼します。」

すり抜けられそうな隙間を見つけ、勢いよく駆け出す。

「っ待って!」

ジェフリーが咄嗟に伸ばしてきた手をすり抜け、人垣をぬって職員棟に駆け込む。このまま自分の部屋に籠ろう。

鍵をかけてしまえば、シリルしか入れないだろう。

合鍵は理事長とシリルが持っている。あの二人なら王子に脅されても鍵を渡したりしないだろう。この先どうしようかと思いながら階段を駆け上がる。

二階に差し掛かったところで、後ろから二つ足音が付いて来ているのに気付いた。急がなければ。

三階にたどり着き、自室の扉を開け放つ。

ちらと階段の方を見遣ればジェフリーが扉の陰から覗いているレイラに気づいて、ほっとしたように笑った。一瞬、その表情に呆けてしまったが、捕まる前に扉を閉める。素早く施錠して安堵の息を漏らす。これでひと安心だ。

「ねぇシリル。これ壊しても大丈夫かな?」

「大丈夫ではありません。お止めください。」

えー。という不満げな声が聞こえ、扉を壊されるのではと身構えた。扉から距離をとって様子を窺う。

「リリス? 聴こえてる? 話だけでも聞いてほしいんだけど。」

こんこんと何度も扉を叩かれる。ひとまず、扉を壊す気はなくなったようだ。退路として開けておいた窓を閉じる。

「ウォーレンとは昔から大親友だったし、会ったついでに鎌をかけてみたら引っ掛かってくれたんだ。それに、ドリスからは候補として報告されただけだよ。君に近付いたのは彼女の判断だから。勘違いしないでやってくれないか。」

「それは分かっています。」

「え? 分かってるの?」

「仕事で私と付き合うのは疲れるでしょうから。私と居るときのドリスに疲れはみえませんでした。」

「そうなんだ。あの子怒らせたら怖いからね。良かった。」

まさか、あの頼りになる長兄から情報が洩れていたとは思わなかった。疲れが溜まっているのかもしれない。今度、肩揉みでもしてあげよう。

「それで本題なんだけど、僕と一緒に王宮まで来てもらえないかな? あと出来たら結婚して欲しいんだけど。」

「……。なぜですか?」

結婚? どうして会ったばかりの相手に結婚を申し込むのだろう。

「一族の血が薄まり過ぎているから。君にとっても悪い話ではないと思うよ。」

「私では釣り合いがとれません。」

そんな理由で結婚など絶対に御免だ。

確実に結婚生活は長続きしないだろう。

「でも、このままだと君が月の神様にならないといけないんだよ? シトリンが作り出した問題を君ですべて片付けようと神様たちは考えているだろうから。シトリンも最後の純血にすべて背負わせるつもりだっただろうしね。」

「意味がわかりません。」

ジェフリーの言っている言葉の意味が分からない。

月の神様にならないといけなくなる? 人が神様になるには数百年かかるはずだ。それも前の神様がいないとその方法は成り立たない。

今、この世界に月の神様はいない。だからレイラをそれにしようとしても、方法がないはずだ。

「調整者、器、それらを繋ぐ者。そのすべてが限界を迎えている。そして君が最後の純血だ。シトリンは何かしらの術式を子孫に組み込んだはずだから、最後の君には資格があると思うんだけど。」

何もかもがジェフリーの推測にすぎない。

こんな話、信じる価値がない。

そう思うのに、そのことを解っている自分がいた。

その場しのぎで神の一族を作り出したシトリンだが、この方法の終わりは視えていたはずだ。

それなら、最後の純血を自分の代わりにすることくらい考えていただろう。

「君と僕なら次の純血が産まれる可能性もある。君は独りで永遠の時を生きなくて済むんだよ。」

「……。」

「別に今すぐ決めなくていい。王宮には伯父上もいる。父親に会うだけでもいいから、とりあえず王宮までは来てくれないかな? お願い。」

確かに普通に生きていきたいレイラにとっては、他の人に押し付けたほうが良いのかもしれないが、その『他の人』がレイラの子供になるのなら、そんな真似は絶対に出来ない。それなら、自分が成ったほうがまだましというもの。

「少し考えさせてください。」

ひとまず、父親には会ってみたい。今のところ色んなものを振り切っている状態のルークしか視たことがない。危険なほどアリアを溺愛している状態しか。

ただ、父親に会うために王宮にホイホイ行ってしまえば、ジェフリーは絶対に帰してくれないだろう。それこそ、どんな手を使っても帰さないはすだ。

王は国と結婚するものだから、本当なら今すぐレイラを月の神にしたいだろう。欠けている不安定な世界を安定させるために。

しかし、ジェフリーにとってウォーレンは親友。

親友の妹をそんな目には合わせられないと、こんな提案をしてきたのかもしれない。レイラにとっては究極の選択だ。

選ばないという選択もあるが、それだと何も終わらない。

「ありがとう。僕はウォーレンのところにいるから、二日間考えてみて。二日後にはアドルフさんが迎えに来るから。」

「はい。」

アドルフが迎えに来るということは、トリフェーンに来るときもアドルフが連れて来たのだろうか。

今のレイラの力なら王都まで自力で移動できると思うが、この力は利用されたくないから言わずにおこう。

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