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閑話 老人の見る世界

子供の頃から変だった。

人と違う色を見ることがあった。


それは、身体の弱い親が悪魔崇拝の教主に唆されて、私を身籠ったときに生け贄を使って無事に産まれるよう祈願したからかもしれないし、幼児の頃に悪魔の落とし物と謂われていた鏡が割れ、それを浴びたからかもしれない。

その鏡は憑代として崇められていたから、人の思いによって何か別のものになったのかもしれない。

そんな親の元に生まれついて、表で暮らせるはずもなく泥に塗れる生活を送っていた。

そんな頃、私の闇なんて大したことないと思えるような人と出会った。あの人と共に過ごしていると荒んだ心も鎮められていった。

私が穏やかに過ごすようになったある日、反王国派の組織に入っている魔法使いの友人が王城を襲撃するというので、暇をもて余していた私は付いて行った。

襲撃の方法はえげつなかった。井戸に水銀を混ぜて毒で殺し、残りは大人数で攻め入り片っ端から切り殺した。組織はたった三日間で神の一族を皆殺しにした。

私はそれを傍観するだけで何もしなかった。

王族を皆殺しにして歓喜している組員と違って私は何も感じなかった。あの人は言っていた。器の一族の前ではヒト程度が足掻いたところで無駄なだけだと。その器の一族は今王城に気配がないから、奪ったところで取り返されるだけだろうと。

その言葉どおり、数日後には器の一族によって王城から追い払われた。友人は嘆いていたが、私は人を殺してまで権力を欲しがる者達が恐ろしいと感じていたから、こうなって当たり前だろうと思っていた。

およそ三十数年後、まだ飽きることなく国王セオドアに暗殺者を送り続けていた友人に誘われ、奇妙な洞窟に忍びこんだ。

洞窟を歩き続けると大きな扉があり、私たちが目の前まで来ると、入れというようにその扉が開いた。

扉の向こうは外のように空のある不思議な世界だった。

手分けをして散策することになったが、十九人と奇数だったため私だけ一人で散策することになった。

そこで、綺麗なものを見つけた。

銀色の髪をした赤子。必死に這っていたが後退するだけで進めていないようだった。懸命に進もうとする赤子は可愛らしく、物陰からずっと眺めていた。

心の中で応援していると、赤子が「前に進まない……。どうして?」と喋った。私は驚いて声を上げてしまった。紫の瞳でじいっと見つめられ思わず手を差し出しかけたが、駆けつけた女性に怒られた。

『その子から離れなさい!』

その言葉通り赤子から引き離された私は木の幹に叩きつけられた。

「ここから出て行きなさい。早くしないと主人が貴方を殺してしまうわ。私なら見逃してあげられるわ。だから早くここから消えて。」

私も死にたくはない。女性の言葉に甘えて逃げた。

扉の前に帰ると、私を含めて十九人で入ったはずなのに、七人に減っていた。

どうやら女性の言っていた主人とやらに殺されたらしい。

そして、生き残った中に上級貴族がいた。彼が言うには仲間を殺したのは病弱だという第一王子だったらしい。

彼に妻がいたなんて初耳だが、女性は綺麗な人だった。あれがあの人の言っていた器の一族だろう。身体の色彩も当てはまる。

喋る赤子は二人の子供だろう。父の銀髪と母の紫の瞳を受け継いだ。綺麗な子供。時間が立つごとに赤子のことが気になって気になってしょうがなくなった。

美しいといわれるものを見ても美しいと感じなかった私にとって赤子は初めて美しいと思ったものだ。

私の感覚がおかしいのを知っている魔法使いの友人に話せば、良い兆候だと、彼もそんなに美しい赤子なら見てみたかったと、二人で笑った。

暫くしてから、第一王子の隠し子が出てきた。

相手が『神殿の巫女』という存在だったから、母親は公表出来なかったのだろう。

いつか、大きくなった赤子を一目だけでも見れるといいと考えていた。しかし、隠し子はすぐに死んでしまった。

私はひどく残念な気持ちになった。

落ち込んでいる私を慰めようとあの人が教えてくれた。

隠し子は生きていると、気配が消えていないからと。

そして、神の祝福を受けているから簡単に死なないと。証拠にあの人が器の一族にかけた祝福。理の神と同じ、紫の瞳に金茶色の髪のはずだとあの人は言った。私は違うと言った。赤子の髪は銀色だったと。そう言えばあの人は首を振った。

私はリリスの本当の姿を見ていたらしい。祝福がなければ私の見た通り、銀髪で紫の瞳なのだろうとあの人は言った。

ただ、あの人は赤子に他の魂を植えようとしていた。

あの色を失わせたくなくて、私はあの人の元を離れた。

養子はあの人から離れたくなさそうだったから、置いて行った。それから大きな組織に与している魔法使いの元に身を寄せ、『リリス・シトリン』の情報を求めた。私は魔法使いの友人を信頼していたのに、彼は馬鹿な貴族にまでその話をした。

馬鹿な貴族は美しいというリリスを欲しがった。

神の一族ならば、その血は甘く不老長寿の薬になり、交われば同じ神のような存在になれるからと。

おかげで私はリリスを誰よりも早く見つけなければならなくなった。あのように汚いモノが美しい娘に触れるなんて、我慢ならない。

組織も金になるという者と、美しく高貴な贄が欲しいという者が欲しがった。死んだことにされている王女なら殺した所で誰も騒がない。神の血を引くそれを贄に悪魔を呼び出そうと。

組織の内にいながら私の心は組織になかった。

しかし、リリスを組織から守るためと組織に居座った。

ただ、運が良かったのは魔法使いの友人はリリスを銀髪に紫の瞳だと、私が以前に言った話から思い込んでいてくれたことと、養子に赤子の美しさを語ったときに銀髪と言っていた為、あの人がリリスを探してこい、と命令すれば魔法使いと同じ銀髪に紫の瞳の娘を探していたことだ。

あの人は他人との意思の疏通が下手だった。それだけは良かった、幸運だったとひとまず胸を撫で下ろした。

そして数か月前、あの人と養子が動き始めたと聞いた。

どうせまた違う娘でも見つけたのだろうと、放っておいた。そして私が思っていた通り、あの人たちはすぐに拠点に撤退した。

養子は以前にも他の娘を勘違いして攫っていた。

話によると、勘違いして攫われた娘は、共に捕まえられた友人が口封じのために殺されてしまい、その死に様を見て心を壊したという。元破落戸に頼むからそんな事になるのだ。と協力関係にあるアドルフ・シトリンが教えてくれた。

彼は自殺しようとしていたその娘を助けたらしい。彼に養子の後始末をさせてしまったことを詫びた。

早く、早く見つけなければ。あの人も組織もリリスに近づいている。私は老体に鞭打って探し続けた。

そして男爵家の夜会で見つけた。美しい宝石のような少女を。間違いない彼女があのときの赤子だ。

まず保護しなければ、彼女を安全な場所に隠してから組織を潰す。何年も前から準備は出来ているのだ。

警戒させないようにして、仲良くなってから事情を説明しようと私が声を掛けてみると、少女は顔を強張らせ逃げた。

急いで追いかければ、蒼い瞳の男が少女の手を引いてまた逃げていった。さらに追いかけようとすれば気の強そうな令嬢に話し掛けられ、足止めを食らっている内に少女には逃げられてしまった。

年甲斐もなく興奮してやり方を間違えたと反省する。

まったく、せっかくの好機を逃した。

仕方ない、容姿は分かったのだ。明日からそれを元に探そうと組織に帰った。貴族の夜会にいるということは、ある程度身分はあるだろう。

年齢的にはどこかの女学校を当たった方が良いかもしれない。

そう考えていたが、つい最近あの人と養子は何者かに襲撃され殺されたらしい。アドルフ・シトリンからの情報だから確かだろう。組織はともかくヒトではない彼らはリリスに近付いていたかもしれない。一つ面倒ごとが減ると気が楽になった。

アドルフ・シトリンとは組織の情報を流し、彼からはその他の組織の情報を受けとる程度の関係だが、いつかゆっくり話してみたいものだ。

彼も苦労人のようだった。愛しい妻にも中々会えないような仕事やめてしまえばいいのにと私は思った。

何はともあれ、あの人がいなくなったなら後は組織とその他の人身売買組織を潰すことだけに専念できる。


あの宝石をもう一度目にするまで死ぬわけにはいかない。

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