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定例会議と兄の知人

美しい庭園に硝子で出来た円卓を囲むように五つの椅子が並べられている。空は青く澄み、花々は瑞々しく、艶やかに咲いていた。

円卓を囲む一つ目の椅子には、金髪に黄緑色の瞳をした細身の男が、苦しそうに顔を歪めて座っている。

二つ目の椅子には、誰もいない。

三つ目の椅子には乳白色の髪に七色の光彩を放つ不思議な瞳の幼女が、眉を顰めて不機嫌そうに座っている。

四つ目の椅子には、髪も瞳も身に付けるもの全てが真っ黒な女性が、艶やかな笑みを浮かべて座っている。

五つ目の椅子には、茶髪に紫色の瞳の少年が怠そうに座っている。

四人の間には沈黙が流れていた。

それに、しびれを切らしたように白髪の幼女は机を思いきり叩きつけ、椅子の上に立ち上がった。

「アンタって本当に馬鹿! あたし達の苦労をなんだと思ってるの!?」

金髪の男を射殺さんばかりの視線で睨み付け、二つに括った髪を揺らしている。

「本当にね。どうしてまた造った意識を封じ込めたの? あの意識ならシトリンの魂でも消せたでしょうに。」

幼女に賛同するように黒髪の女はうんうんと頷き、金髪の男に笑い掛けた。

「ぼくはどっちでも良いですけど。」

分厚い本を読みながら、少年は言った。

三人の言葉に金髪の男は髪をぐしゃりとかき回しながら口を開く。

「彼の大切な人を奪うわけにはいかないんだ。」

男の言葉に幼女はぽかんと口を開けた後、声を荒らげた。

「時間がないのよ!? アドルフも年寄りだもん。次のリリスが死んだら次の器をどうするの? それに、メリルの次の調整者が誰かも特定できてないなんて!」

「だから、さっさと一つに戻しておけば良いって言ったんですけどね。ぼくはどうでもいいけど。」

ページを捲りながら興味なさそうな声で少年は喋る。

女は少年を呆れたように見て、溜め息を吐き項垂れている男を見た。

「昔の女のことなんて忘れて世界のことを考えてもらわないと、リリスを月のにしたくないなら他の方法を考えてもらいたいわ。大地が干涸びる前に。」

「……。彼女の子孫の悲しむ顔は見たくないんだ。」

哀しそうに空を見上げる男の姿に、少年は何かを諦めたような顔をした。溜め息を吐いて立ち上がる。

「そんなに落ち込まなくても僕が探してみますよ。それとオパールさん。」

「なによ?」

「東の方で蝗の出生率が高すぎる。少し調整してください。」

「あっ、忘れてた!」

オパールは慌てて力を調整した。それを確認した少年は女に方に顔を向け、

「で、オニキスさんは鳥類、特に梟を殺しすぎ。二百年前ぐらいの量に戻してください。」

「了解したわ。」

ひらひらと手を降ったオニキスから、頭を抱えている男に視線を移す。

「ペリドートさんはしばらく陰気に浸っててください。調整者が分からない今はとにかくバランスだけでも保っていてください。」

「ああ。分かったユウ。」

「以上で定例会議を終了します。次回は二回後の朔の夜です。解散。」

淡々とユウの口から放たれた解散の言葉に、美しい庭園は霧散する。そこに残ったのは深い暗闇だった。


◇◆◇


週末の昼、いつものように学院の門へ急いだ。

月に二回は必ずウォーレンと出掛けている。

今日は無難な服が中々見付からなくて 、部屋のクローゼットを漁っていたら待ち合わせ時間を少し過ぎてしまった。

校門の前には既に人影がある。足を速めた。

「兄様ごめんなさい。服が見付からなくて……。」

「気にするな。」

素っ気ない口調だが、優しく頭を撫でてくれている。

怒っていなかったことに安心して、遠慮なくウォーレンに抱き付いた。仕方ないなとでも言うように溜め息を吐いたウォーレンは、レイラの腰に手を回してぎゅっと抱き締めたあと、身体を離した。

昔より仲良くなれている気がする。昔はノアがべったりくっ付いていたから、ウォーレンはキャロルと共に居ることが多かった。

だが、今は逆だ。レイラはウォーレンとトリフェーンに居る。そしてノアはキャロルとロードナイトに居る。これで、ようやくバランスが取れた気がする。

僅かに緩んだウォーレンの顔を見つめていると、すぐ近くから視線を感じた。視線を感じた方を見れば、ウォーレンのすぐ横に茶髪の男がいた。

印象的な金色の瞳と目が合い、にこりと微笑みかけられた。

「こんにちは。君がウォーレンの妹だね。」

「え……。兄様この方は?」

胡散臭い気配を纏った男から目を逸らし、ウォーレンを見る。

「知人だ。」

「知人じゃなくて親友のアーネスト。よろしくね。」

流れるような動きでレイラの手の甲に口付けを落としたアーネストは、戸惑っているレイラに笑いかけた。

「ウォーレンが隠したくなるのも分かるくらい、とても可愛いね。今度二人っきりで食事でもどうだい?」

肩を抱かれ、顔を覗きこまれる。

胡散臭さが移りそうだから早く離れてほしい。

だがこの人は自称兄の親友だ。無下に断ってしまってもいいのだろうか。

「兄様が行けと言うなら……。」

ちら、とウォーレンを見遣る。すると、ウォーレンはアーネストの手をポイっと放り投げ、レイラをその背に隠しアーネストを氷のように冷たい瞳で睨んだ。

「お前と二人きりなんて誰も許さん。レイラも嫌ならすぐに断れ。誰かに何と言われたとしてもお前の意志が第一だ。」

「ええ、今度からはそうするわ。」

こくりと頷いたレイラを満足そうにウォーレンは見つめ、へらへらしているアーネストを無視して歩き出した。

「酷いなぁ。僕フェミニストなんだけど。」

「こいつは女好きだ。出来るだけ離れて歩け。」

「いつにもまして酷いなぁ。」

言われた通りにアーネストとの間にウォーレンを挟んで街を歩き、いつも行く喫茶店に入った。

もう店員とも顔馴染みだ。店に入ってすぐにいつもの席、あまり目立たない奥の席に案内される。

「今年もドレスを作りに行けとノアが言っていた。」

注文した紅茶を飲んでいるときに、うんざりするような事を言われると気分も落ち込むというものだ。

「動きづらいから嫌よ。」

「諦めろ。」

昨年も重いドレスが邪魔で邪魔で仕方なかった。

もう制服で出てしまおう。その方がお金もかからない。

「紫色のドレスとか似合いそうだね。瞳の色に合わせて。」

じっ、と観察するように見つめられる。

アーネストから胡散臭い笑顔を向けられるより、探るような眼差しの方がしっくりする。立ち居振舞いも、貴族のそれも上流だろう。人を見ることが仕事なのかもしれない。

「お前は黙っていろ。それを決めるのはレイラだ。」

「別に良いじゃないか。もう決めたし。」

「ふざけるな。」

険悪な空気の流れる二人から目を逸らし、軽食をつまむ。

今朝は時間がなくてあまり食べられなかった。

「ふざけてないよ。きちんと考えた結果だよ?」

「……レイラ、学院まで送る。この馬鹿アーネストと話をしなければならなくなった。」

仕事の話だろうか、それなら邪魔をするわけにいかない。

「これを食べてからでも良い?」

まだ半分以上残っている。急ぐ話でもないようだ。それなら食べなくては、もったいない。

「当たり前だ。急がせてすまない。」

「いいえ、兄様はお仕事で忙しいのに私に会いに来てくれるのだもの。それで充分だわ。」

「麗しき兄妹愛だね。」

「……。」

その仲の良い兄妹の時間を奪った張本人はにこにこと、食えない笑みを浮かべていた。

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