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閑話 魔法使いと情報屋

「バルフォア家は異能の血を欲しがっているの。神の一族と知られればまずいわ。」

藍玉アクアマリンの瞳に真剣な光を宿して、その少女は言った。

彼女の今言ったことは、一部の人しか知らない秘密だ。

パートナーになってくれるなら、アルヴィンの事情を知っている者でないと困る。

バルフォア家は魔法使いの名門だ。そこの舞踏会となると、ほとんどが魔法使いの関係になる。

だからレイラに頼もうと思っていたのだが、彼女が危険に晒されるのは申し訳ない。

このドリスという少女がフォスター一族の娘なら、面倒なことにはならないだろう。

だから、この少女の申し出はありがたい。

「分かった。ドリス・フォスター、君に頼もう。」

「ありがとうございます。」

綺麗に一礼してみせたドリスに満足し、詳しい話は明日にする約束をして、寮に帰る。

次の日、昼の一時に校門前に待ち合わせた。

時間の五分前には二人とも集まり、街に向けて歩き出す。

人の少ない公園のベンチに座り、打ち合わせを始める。

「アルヴィン先輩はどうしてバルフォアなんかの舞踏会に?」

「アルヴィンで良い。私は君と同い年だ。」

「そう、分かった。それで答えは?」

「ペインと繋ぎを取りたい。」

なるほど、と頷いているドリスは分かっているのだろう。

ペインはバルフォア家なんて比にならないくらい表に出てこない魔法使いだ。

「じゃあ、わたしもペインに会いたいな。バルフォアだけでも嬉しいのに。さらにペインまで!」

年頃の少女らしく、きゃっきゃっとはしゃいでいるが、内容は貴重な情報を集められるからというのが残念だ。

フォスター家はこんな感じなのだろう。

前に会ったフォスター一族の青年も楽しそうに公爵家主催の舞踏会の間ずっと、あちこちの会話を盗み聞きして回っていた。

「ドレスはこちらで用意する。」

「大丈夫! わたし新しいの持ってるから!」

「しかし、それでは。」

「変装しないといけないから、家で作ったのしか着れないの。ごめんね。」

こちらの都合で来てもらうのに、申し訳ない。

逆に謝らせてしまった。そんなつもりはないのに。

これがジェラルドくらいになれば、気取った台詞でもう少しマシな会話が出来るのだろうが、アルヴィンはそういうのに慣れていない。

「では、土曜の夕方に迎えに行く。どこに行けばいい?」

「こっちの別荘かな。でも、舞踏会って土曜の夜だよね。」

「転移魔法で行く。ネフライトまで馬車は嫌だろう。それに馬車ではもう間に合わない。」

「うわ、ネフライトかぁ。遠いね。」

ネフライトは王都アメトリンのすぐ横にある。

つまり、馬車で十数日はかかる位置ということだ。

さすがに、学院を休んでまで舞踏会に行く気はなかった。

転移魔法は魔力をそれなりに消耗するが、一日に四回までならなんとかなる。

フォスター家の別荘の位置を聞き、来週の段取りを確認してから学院に帰る。

帰り道はお互い無言だったが、居心地の悪いものではなかった。


◇◆◇


一週間後にドリスを迎えに行けば、茶髪に青い瞳という、どこにでも居そうな少女が可愛らしいライムグリーンのドレスを身に纏って現れた。

一瞬、誰だ。と思ったが、その少女の魔力の色を見ればドリスであることが分かる。

ヒトは魔法使いでなくても、微少な魔力を持っているものだ。それでアルヴィンは個人を判別している。

例外があるとすれば、メリルとレイラだろう。

二人とも、魔力ではない何か別の力を持っていた。初めて会った時は驚いたものだ。感じたことのない奇妙な力だった。

レイラが神の一族ということを知ってからは、その奇妙な力はその力なのだと解ったが、メリルの方は未だに分からない。

「では、行くか。ドリス・フォスター。」

右手を差し出せば、不満そうな顔のドリスが手を絡めた。

「つまんない。もっと驚くと思ったのに。」

声色さえ変わっている。よく見れば体格も微妙に変わっていた。

もしかすると、学院のあの姿すら本物では無いのかもしれない。

「しっかり、掴まっていろ。途中で落ちたら助けられない。」

転移魔法は空間をねじ曲げ、無理やり繋げる魔法だ。

途中で手を放されると、空間の狭間に落ちる。

空間の狭間から探し出すのは、砂漠で一粒の砂を探すのと同位だ。

「じゃあアルヴィンもわたしを離さないようにしてね。わたし握力ないから。」

「最初からそのつもりだ。」

右手でドリスの腰を引き寄せると、ドリスもアルヴィンの腰に手を回した。

「ねぇねぇ! これ魔方陣?」

足元に現れた魔方陣にドリスは興味津々だ。

「呪文とか唱えないの?」

「魔法使いは呪文を使わない。」

「へぇ~。」

周囲が真っ白になる。次の瞬間にはネフライトのバルフォア邸に着いていた。

「本当に一瞬だったね! すごい!」

目をキラキラと輝かせて、アルヴィンを見上げてくる。

「行くぞ。」

エスコートするためドリスの手をとった。

舞踏会はシャンデリアの輝く大広間で行われていた。楽器は魔法で奏でている。

「どれが当主なの?」

「右斜め前の人の群れの奥だ。」

「じゃあ早く行こ!」

人が引いてから行くつもりだったが、少女を夜遅くまで連れ回すわけにはいかない。

「アルヴィンじゃないか!珍しいな!」

親しげに話しかけてきたのは、知り合いの魔法使いスペンサーだ。

「お久しぶりです。」

「お前が来るとはな!」

パートナーが居ないと参加できない舞踏会だ。

アルヴィンが来るとは思わなかったと、肩をバシバシ叩いてくる。

「お前の恋人か? どこの家の娘?」

「違います。ド……。」

「ドゥルシラ・マーロンです。このアルヴィンさんに弟子入りしてますの。」

危うく本名を喋るところだった。ドリスに掴まれた腕にすさまじい力が入っている。握力がないと言っていたわりには痛い。

「へぇ! このアルヴィンにか? 可愛いお嬢さん、今からでも俺に乗り換えないかい?」

「貴方よりアルヴィンさんの方が強いですもの。嫌ですわ。」

「振られちった!」

スペンサーと話していると、後ろから声を掛けられた。

「おや、パーシヴァルの長男じゃないか。」

嫌みを言ったつもりではないのだろうが、癇に障る。

振り返れば、イゴール・バルフォア。バルフォア家の当主がいた。

このイゴールは人付き合いが苦手なよう、というより思ったことがすぐ口に出るタイプだ。

さっきのように人によっては嫌みと取られるような発言で、遠巻きにされている。

「本日はお招き……。」

「堅苦しいのは良い。恋人と楽しんでくれ。」

手をひらひらと振って、アルヴィンの挨拶を遮った。

「恋人ではな……。」

「お、リンヴォイが呼んでるな。失礼するよ。」

それだけ言って、イゴールは去っていった。

「君は情報収集したいなら、好きにしてきて構わない。」

「ありがと! 行ってくるね!」

満面の笑みで人の群れに飛び込んでいった。

目的のペインは来ていないようだった。

バルフォア邸のパーティーならペインもいつも来ていたから、会えるのではと思っていたのだが。

ドリスは会場の中をちょこちょこと動き回っている。

それをアルヴィンは壁に凭れて見ていた。

彼女の気が済めば、後は帰るだけだ。

しかし、中々戻ってこない。楽しそうに踊り、楽しそうに盗み聞きをしている。

(まだ終わらないのか。)

「あの、アルヴィンさん。」

その声の方に顔を向けると、顔を赤く染めた女性が上目遣いでアルヴィンを見ていた。

「どちら様ですか?」

「あの、私は……。」

「アルヴィン、帰ろう! 疲れた。」

(やっと帰ってきた。)

溜め息をぐっと堪えてから、ドリスを見た。

「遅い。」

「ごめんね。楽しくなっちゃって! もしかして話の邪魔した?」

「いえ! なんでもないですわ!」

手をぶんぶんと振って女性は離れていった。

(なんだ。あれは。)

ドリスの方に視線を戻すとニヤニヤとした笑みを浮かべていた。

「どうした?」

「なんでもないよ?」

にっこりと笑って、アルヴィンの手を引く。

邸の外に出ると、寒いのかドリスは体を震わせた。

「帰るぞ。」

「うん!」

行きと同じように、しっかりと体を掴んで帰った。

ドリスを別荘まで送り届けた後、アルヴィンはそのまま理事長室に転移魔法で移動した。

アルヴィンに気付いたメリルは指を鳴らして、三日月が窓から覗く不思議な理事長室に移動させた。

この世界はメリルの創った異界だとアルヴィンは考えている。

「ペインには会えた?」

「いえ。」

「って事は、イゴールじゃなくて彼が動いているのかな。」

「おそらくは。」

メリルは艶のある黒髪を弄びながら、アルヴィンを真っ直ぐ見つめた。

「じゃあ、暇なときにペインの居場所を探してくれ、フォスター君を使ってもいいから早めにね。」

「了解しました。」

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