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両親の尋問と正解

それから暫くの間、アルフレッドは茫然自失といった様子だったが、突然弾かれたようにシリルの両肩をがしっと掴んだ。そして、泣き出しそうな顔で口を開いた。

「お前だけは……! お前だけはまともに育ってくれたと思っていたのに! ミラのような凶暴さもエリオットのように人の不幸は蜜の味とか、そんなことはなかったはずのお前が! 俺は一体どこで育て方を間違えたんだ。」

ぐっと何かを堪えるような表情で言われても、シリルの育て方は間違えていない。アルフレッドが勘違いしているだけで。

「……父上。俺はレイラがレイラだから交際しているわけで、禁断とか背徳感とかそういうものが欲しくて交際しているわけではないです。」

そんな可笑しなものが欲しければとっくに学院を解雇されている。ぶっちゃけてしまえば、シリルは女子生徒にそれなりだが人気はある。と我ながら思っている。何しろ侯爵家の長男坊だ。優良物件だろう。

性格は、まあ真面目な方だ。生徒のためになるように、何が生徒にとって一番良いのか考えて行動している。

だから、生徒にはよく優しいと評された。

優しい年上の異性を意識してしまうのも不思議ではない。

年頃の少女なら憧れを『それ』と勘違いしてしまってもおかしくないだろう。告白してくる生徒にはひと欠片の気持ちも残らないようにきっぱり断っている。これは自分で一番良い方法だと思っている。

誠実だとレイラは言ってくれるが、目の前の父親は信じてくれていない。一応、曲がったことが嫌いと有名なアルフレッドに似た筈なのだが。

「本当か?」

「息子を疑うんですか? 本当です。」

「分かった。……13歳の娘を連れて来られるよりましか。」

「はい。俺は至って普通の趣味です。」

年の差も大してない。丁度いいくらいだろう。

息子がここまで言っても信用していないのか、ぽつんと立っているレイラの方に顔を向けた。

「レイラさんは愚息を本当に好きなのか?」

「はい。私は真剣にお付き合いしているつもりです。シリルさんがどうかは知りませんが。」

そう言って、レイラは悲しげに瞳を伏せた。悲しげと言っても、それを感じ取れるのは近しい者だけだろう。しかし、アルフレッドはきちんと感じ取ったらしい。それに少し苛立つ。

「おい、シリル。不安にさせているじゃないか。この子にちゃんと気持ちを伝えているのか?」

「伝えてますって。二日に一回は。」

「一時間に一回は言わないと駄目だろう。」

当たり前、といった表情だがそんなに言ってもレイラには響かない。十日に一回くらいの間隔でレイラは返してくれる。恥ずかしそうに、頬を赤く染めて。

「それは父上の基準であって、俺は違います。第一、そんな頻繁に言われても言葉が軽くなるだけですよ。母上も迷惑してますから。」

「なにっ!? そんな馬鹿な!」

気付いていなかったのか。

無駄に嫉妬深いアルフレッドは妻に構いすぎて、たまに避けられている。それがジェイドでは日常茶飯事だった。

絶対にこうはなるまいと心に誓ってきた。

ただでさえ家族の愛の重さに辟易としているレイラ。

これでシリルまでそうなってしまったら、レイラは修道院にでも行ってしまいそうだ。穏やかな世界がレイラの幸せだから。

そんな事を考えていると、近くに停められた馬車の中から女性が降りてきた。絶望しているアルフレッドの前に立ったその女性、シリルの母ヴィクトリアはぺしぺしとアルフレッドの頬を軽く叩いて、反応を確かめている。

「あなた。どうしましたの? すぐと言っていたのに遅いですよ。お腹が空いてしまったわ。」

ほのぼのという言葉の似合う、フィンドレイ家でシリルの次に『まとも』な人間だ。本人は一番まともと言っているが、シリルはシリルの方がまともだと思っている。

「ヴィクトリア! 待っていろと言っていたのに。外は危ないぞ。狼しかいない。見てみろ、あそこにいる店員を。いやらしい目でお前を見ている。」

その店員はヴィクトリアなんて見ていない。見た目だけは良い集団を見物けんぶつしているだけなのだろう。あの店員は遠目で見ると男性にも見えるが歴とした女性だ。よく買い物をする店の店員に変な濡れ衣を着せられるというのは気分が悪い。

不快に思ったのはシリルだけではなかったらしい。分かりやすく顔を歪めたヴィクトリアに扇で叩かれている。

「そんな戯れ言を言うんじゃありません。馬鹿ですかあなたは。シリル、久しぶりね。そちらの可愛らしいお嬢さんは初めまして。ヴィクトリア・フィンドレイよ。」

「初めまして、レイラ・ヴィンセントと申します。」

ふんわりとした二人の挨拶は見ていて微笑ましい。

横で落ち込んでいるアルフレッドとの対比が素晴らしくて、シリルは吹き出しそうになる笑いを必死に堪えた。

「ごめんなさいね。急に押しかけて。もしレイラさんが良ければ、これから暫く私たちに付き合ってもらいたいのだけど……駄目?」

「大丈夫です。ありがとうございます。」

なんとなく嫌な予感がしたが、レイラをゆっくり紹介したかったので丁度いいだろうと、馬車に乗り込んでいく皆に大人しく続いた。


◇◆◇


ガタガタと揺れる馬車の中、寝不足で眠ってしまったレイラの吐息をすぐ傍で感じながらシリルもこっくりこっくりと船を漕いでいた。

最近はずっと一緒に過ごしていたから、この距離で眠られても動揺しなくなった。レイラの熱を感じられる心地良い時間だ。

「おい、シリル起きろ。聞きたいことがある。」

「…な……んですか?」

あと少しで眠れるところだったのに。

嫌々目を開けた、半分眠っているシリルにアルフレッドは容赦ない質問を浴びせた。

「亡くなられた王女殿下が学院にいるという話が社交界である。陛下も特に否定をしていない。あれは事実か?」

さて、どうしたものか。

学院みたいに、勘違いだと説明するべきか。

しかし、学院の生徒はジェフリーの余計な口出しによって、殆どがレイラのことをリリスと認識している。かといって、目の前にいますと説明するのもどうだろう。父がどういう意図で訊いてきたのか分からない。

シリルが黙り込んだことで、アルフレッドはその反応を肯定と受け取ったようだ。

「何か知っているんだな? シリル。俺は別に利用しようとか、そういう気持ちはない。興味があるだけだ。なあ、ヴィクトリア。」

「ええ、だって気になるでしょう。死んだと言われているのに急に生きているなんて。おもてで聞くとは思わなかった。確か銀髪に紫色の瞳、だったわね?」

「裏で拾った情報ではな。」

意味ありげに交わされた二人の視線がレイラに集まる。

さらさらとした銀色の髪を撫でる。

「そこまで知ってるなら察してください。」

少し間をおいてからシリルはそれだけ言った。

二人もまさか息子の同棲相手が、噂されている例の王女とは思っていなかっただろう。身体的特徴の一致するレイラが出てきた時、驚いたはすだ。

「お前だけはまともだと思っていたのに……。」

「そうね。シリルが一番大変な相手ね。でも、結局はお互いの気持ちよ。私は反対しない。それに陛下は何も仰ってなかったから大丈夫でしょう。可愛いお姫さまを捕まえられて良かったわね。」

早くに王女と認められていたら、結婚したいと大勢の男が押し寄せたことだろう。なぜセオドア王が未だ動かないのか不明だが、ここまで話が大きくなったからには国民に向けた説明があるはずだ。

「もし、レイラさんが王女だと認められたらどうする?」

「レイラが望むようにします。でも、レイラはずっと俺の傍にいてくれると思うので心配も不安もないですけど。」

肩に乗せたレイラの頭を膝に乗せかえて、白い頬をつつく。ふにふにとした柔らかい感触に口元が緩んだ。

「惚気ているのか?」

「は……?」

どの辺が惚気なのだろう。

そうか。親の目の前でレイラに触れているからか。

そろそろとレイラの頬から手を引いた。

「どれだけ自信があるんだ……。」

「一体、誰に似たの?」

多分、父親に似たのだろう。

アルフレッドもシリルも、パートナーに嫌われるわけがないと思っているから。例え天地がひっくり返ったとしても。

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