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閑話 ある人物の噂

白地に青い線の入ったワンピースを着た三人の少女たちは、食堂で噂話に花を咲かせていた。

「ねぇ、知ってる?」

一人の少女が声を落として話を振った。

「知ってる知ってる。あの子のことでしょ?」

もう一人の少女は頷き、『あの子』の姿を思い浮かべる。

「ああ、総合科にいた嫌味なくらい美人な子よね? レイラ・ヴィンセント。王子殿下が従妹とか言ってた。あ、いた。今日は総合科一年の子と一緒だわ。」

丁度、食堂に入ってきた銀髪の少女を見て三人は視線を合わせる。恐ろしく綺麗なその少女は、少女たちですら、ほうと見惚れてしまう。目の保養だ。

「そうそう! 前はあまり似てないって思ってたけど、薬の副作用?だったか何かで髪色変わってたでしょ?」

「ええ。」

「昨日廊下ですれ違ったとき、殿下に似てるような気がしたのよ。もしかしたら本物じゃないのかなって思って。」

半年前くらいに突然メリル学院に現れた王子は、少女を亡くなったはずのリリス王女と呼んだ。それからすぐに少女は休学し、最近復学したのだ。そして重い病に罹っていたのか、茶色だった髪は銀色になっていた。

「ああ、分かる! なんか気高い感じの雰囲気だよね。確かに似てるかも。王族の方々は銀髪が多いもんね。」

今の少女の姿は銀髪金目の王子によく似ていた。

それからというもの、学院内では『あのお姫様』か『あの王女様』で名前が固定されている。

貴族の子は早速親に報告して真偽を確かめているようだ。

そんな話を近くの席で聞いていた男子生徒の一人がぽつりと漏らした。

「あのお姫様さ。なんか、前より綺麗になってねぇか?」

「まさかお前狙ってるのか? 高嶺の花すぎだろ!」

お前じゃ無理だ、と笑われ男子生徒は顔を赤らめた。

がたっと椅子から立ち上がって隣の少年をはたく。

「ばっ! そんなんじゃねぇよ!」

「気持ちは分かるけどな? さすがに……ぷっ!」

そのまま、腹を抱えて笑っている。

「てめえ!」

そのまま、ぎゃんぎゃんと言い合いを始める二人。

眼鏡をかけた少年は溜め息を吐いて口を開いた。

「馬鹿だろお前ら。普通に婚約者とかいるだろ。おれの実家の方じゃ有名な商家のお嬢様だぜ。おれら平民は相手にしてもらえねぇよ。これで王女殿下だったらもっと無理だな。」

そんな冷静な彼はロードナイト出身だった。

あの辺りでヴィンセント商会の名を知らぬ者はいない。

「確かに。てか貴族でも手は出せないって。なんていうか、あの雰囲気で畏れ多いってなる。話せるだけで幸運だよ俺らにとっては。貴族連中は違うみたいだけどね。ほら、また話しかけられてる。あれは……子爵家の次男だったっけ。必死だねぇ。」

皆が視線をやった先に無表情で令息の話を聞く『お姫様』と思いきり眉を顰めている総合科一年の少年がいた。

彼女が本物の王女なら仲良くしておきたい。それが、お貴族様の本音だろう。これで本物でなかった場合は、どうせ今まで通り成り上がりの女とでも呼ぶ癖に。

平民の少年たちは据わった目で貴族を見つめていた。


◇◆◇


「やっぱり、彼女……本物の王女様?」

びくりと反応しそうになる身体を抑えて、そう訊ねてきたアスティンを振り返る。神妙な顔をしているアスティンは珍しく、シリルは目を丸くした。

「俺は知らないです。こんなところに王女殿下はいませんよ。」

あはは、と笑ってみる。実際こんなところに王女がいるが。

「いーや。シリル、お前は知ってるはずだ。」

がしっとリオに後ろから肩を掴まれ、用意してあったらしい椅子に座らせられる。そして、両脇にリオとアスティンが逃がさないとでも言いたげに立った。

職員室で尋問が始まった。

元の髪色が『銀色』というのは無理があるからと、休学の理由は重い病気の治療の為。髪色が変化したのは薬の副作用。銀髪なら変化の理由としておかしくはないだろう。色素が抜けたと思われるはずだと。

これで、リリスとは気付かれないと思っていた。

しかし、レイラもシリルも忘れていたことがあったのだ。

ジェフリーが落とした『爆弾』の存在を。

ただでさえレイラの顔は従兄弟なだけあって少しジェフリーに似ているのだ。それも銀髪になった今、雰囲気まで似ている。

皆の勘違いで片付けようにも、ジェフリーが『爆弾』を落としたあの時、レイラは微妙なタイミングで逃げ出している。それも手伝って、学院内でレイラ=リリスの図式が成り立ってしまった。

どうしてこうなった。そうレイラと二人で頭を抱えた。

「よく考えたらマフィアの娘よりも『リリス殿下』の方があり得そうなのよね。どうしてここに居るのかは分からないけど。」

王城は魔的なものが集まりやすい土地で、ルークはレイラを外に出したかった。アリアはレイラに自由に生きてほしかった。

だから、ルークはレイラをアドルフに預けた。

途中、色々面倒なことにはなった。主にレイラの精神状態が。

結果としてレイラは自由にはなったが、父親が王族という立場のため気付かれると面倒なことになる。

絶対に気付かれてはいけなかったのに。

シリルがせっせと処理しておけば良かった。

「で、どうなんだ?」

「理事長に聞いてくれ。それか本人に……」

「目の前に知ってる人がいるのに行く必要があるの?」

ぎりぎりと強い力で肩が絞められていく。

助けになるものはと視線を泳がせた時、時計が目に入った。

「あ、授業が! 失礼します!」

逃亡半分、本当に授業に遅刻するかもという気持ちが半分で、シリルは職員室から飛び出た。危ないところだった。

全速力で駆けていくシリルの背を見送った二人は顔を見合わせて溜め息を吐いた。逃げられた。

「シリルこれから授業ありますし、仕方ないですね。アスティン先生どうします?」

そう、リオは隣にいる女性に訊いてみるが、アスティンはじっと床の一点を見つめて何かを考えていた。

その間、リオは窓の外を見つめた。

リオはレイラを本物リリスと考えている。

メリル学院は裏の組織の情報がそれなりに入ってくる。

その中に、リリス・シトリンの情報もあった。

その特徴に彼女レイラは当てはまっている。シリルは知っているはずだ。彼は何事も公平に見ようとするが、レイラだけは深く入れこんでいる。それは王女だからだろう。生徒と教師という禁断の関係はシリルの性格上ありえないからだ。

普通の付き合いなら分からないだろうが、学院に入学してから結婚して出ていくまでリオは同室だった。だから、シリルの生徒に対する些細な扱いの違いに気付いた。

確信は得ていない、多分そうだろうなくらいだ。

「シリル君、街に住みはじめたけど彼女はどこに行ったのかしら。職員棟にも寮にもいないから外だとは思うんだけど。」

「確かこっちにお兄さんが住んでるって。そこじゃないですかね? 学院外でシリルが護衛はないでしょう。」

この学院に忍び込む馬鹿はそうはいない。あくまで保険でシリルが護衛をしていた。という認識を教員たちはしている。実際は週一で襲撃だったが。

「まあ、そうね。そのお兄さん顔は似てる?」

「いや、こっちに住んでるっていうのが長男……前妻の息子だけなんで何とも。彼しか見たことないですしね。前に一家が来たときに見とけば良かった。お姉さんもいたらしいですから。」

残念ね、と言ってアスティンは前髪をかき上げた。

「お互い時間のある時に尾行しましょ。気になって夜も眠れないの。生徒たちも気にしてるようだし早めにね。」

「あー。すいません。家で妻を迎えないとなんで。今週は久しぶりに早く帰ってくるみたいなんですよ~。」

「何それ。惚気てるの? ちっとも羨ましくなんてないわ、羨ましくなんて……。いつまでも新婚引きずってんじゃないわよ。いつまで新婚だって自慢するのよ。もう五年でしょ? せめて三年まででしょ普通!」

アスティンは何故リオとミラがくっついたのかが未だに分からない。ちゃらけたリオとキツい性格のミラなんて、すぐに離婚すると思っていたのに。

「やだな。新婚気分が未だ続いてるっていう惚気ですよ。あ、そういえば、アスティン先生お見合いの結果はど……」

「リオ君?」

「何でもないっす。」

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